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第121話 リザードマンは名前が長い

「ほう? 我らが種族の名を知っているのか。意外だな。」


 目の前のリザードマンは少し驚いた顔をする。

 その反応に俺もまた驚く。なんせ小さい頃に読んだ絵本の中で、リザードマンはこの世には存在しない架空の生物として登場していたのだから。


「まさか、本当にリザードマンなのか?」


「ん? どういうことだ? 知っていたのではないのか?」


 俺は全身にびっしりと張り付いた重りのお陰で地面に片膝をついており、相手の全貌(ゼンボウ)を把握するのに苦労していた。だが、ようやくしっかりと見えてくる。3mほどの巨体で、その背中から生える巨大な翼と腰のあたりから伸びる尾を除けば、人型であるということも。


「昔読んだ本の中に、お前とよく似た見た目の生き物が出ていてたまたまそれがリザードマンという名だっただけだ。実在するとは思わなかったがな。」


「ほほう? 奇妙なこともあるものだ。その本の内容にも興味があるがそれ以上に今は聞かねばならぬことがある。」


「奇遇だな。それは俺もだ。」


 俺はチサのことについて。リザードマンは俺たちがここに来た目的について聞きたいのだろうと俺は考える。間違いなく今の俺は侵入者で、リザードマンからすれば、問答無用で即座に大陸から追放してもなんら問題はないのだから。


「さて、私はお前が信に値する者なのかどうかを判断するためにここを任された。外部からの侵入者であるお前をそのまま放置しておくわけにはいかないからな。」


「ヘェ? なら、もし俺が信に値しない者であればどうするつもりなんだ。」


「無論、信に値しないと分かれば、戦士長バルキャス・マッケンリー・スプライト・ドルチェ・ヴェータ・アクトラス・ゲンガー・ジュニアの名にかけて、即座に処刑するから覚悟するんだな。」


 え、ちょっと待って。名前長すぎじゃない?もしかしてリザードマンはみんなそんな長い名前なの?流石に一々こんな長すぎる名前覚えていられないぞ?

 俺は我慢できずに尋ねる。


「なあ、流石に名前長すぎじゃないか?」


「これでも省略しているのだぞ。本来はこれの十倍くらいの長さがあるのだ。なにせ我々の名はーーおっと危ない口車に乗せられるところだった......! これ以上の質問は無しだ。さてお前の名はなんと言うのだ?出来れば種族名も教えてもらえると助かる。」


 どうやらチサはリザードマン達に俺の名を明かしていないらしい。もしくは、リザードマン達に捕まっていないというパターンも考えられなくはないが、チサの気配はそう遠いところに無い故に、やはり彼らに捕まっているのだろう。


 俺としては、こんな扱いを受けたからには、真面目に答えたくない気持ちが強かった。だが、創造神のせいでこの世界では新しい大陸の情報が何一つ分からないのだ。ここはなんとしてでも話の通じるリザードマンを味方につけておきたかった。


「俺の名前はジン。種族は人族......いや、人間と言うことが多いな。」


「ジンか。お前とよく似たあの小娘の寝言で報告には上がっていたが、やはりお前の名だったか。しかし、外の者の名は短いのか。そんなに短ければ、被ったときに厄介であろうに。そして人間。あの小娘の証言と合致しているな。」


「俺とよく似た小娘だと!? 雑に扱ったりはしてないだろうな? もしそうならー。」


 その言葉を聞いた瞬間俺は思わず声を張り上げて問い返していた。この大陸にいる俺とよく似た小娘など、今までのバルキャス(以下略)の話から考えるにチサを置いて他に居ないだろうから。


「まあ、そう焦るな。だが、そうだな......。お前が、素直に答え、信に値することを示せば、こちらからその小娘に手を出したりはせんと誓おう。」


 俺は内心不安で仕方がなかった。起きてからしばらく経ったことで頭の中の情報が整理され、俺が気を失う直前のことを思い出してきていたからだ。

 くそっ。もう少し俺が耐えられていればこんなことにはならなかった。鏡・ジンは初めて使った為に加減がわかっていなかったが、まさか意識を失うとは思っていなかった。

 だが、そう思っていても仕方がない。今は素直に答える他無いだろう。鏡・ジンを使わなければ、嵐の中で完全に詰んでいたわけだしな。


「それで、聞きたいことはなんだ?」


「どうやらジンはあの小娘と本当に仲が良いようだな。あの小娘もお前を痛い目に()わせると言ったら途端に協力的になったしな。」


「おい、あまり俺を怒らせるなよ。その気になれば、こんな拘束一瞬で解除してその小娘とやらを助けた後、お前たちを全員倒したって良いんだぞ?」


 俺はバルキャスの言葉に体の内から怒りが()き上がるのを感じる。俺を出汁(だし)にチサを脅迫したことについてもー。

 気付けば俺の体から少し真っ黒な闇が漏れ始めていた。


 そんな俺を見て、バルキャスは冷や汗を流して焦り出す。


「待て待て。言い方が悪かった。私は敵対するつもりは毛頭無い。そして、小娘も事情を聞いた後は丁重に扱っている。口に合うかはわからんが食事もしっかり出している。ただな、こちらとしてもジンと小娘が、あの地獄を越えてこの大陸に入ってくる実力者であることは把握しているが故に、このような対応になっているのだ。」


 俺はバルキャスの言葉を聞いて少しずつ怒りが収まってくるのを感じる。それと同時に俺から溢れ始めていた闇が少しずつ引いてゆく。


「次は無いからな? もしチサに何かあった時は覚悟しろよ。とはいえ、俺も別に敵対したいわけじゃないし、何ならこの大陸のことを何も知らないから、出来ることなら協力し合えたらとも思っている。」


 元に戻った俺を見てバルキャスの表情から硬さが取れたことが分かった。俺の怒りの矛先から外れてホッとしたのだろう。

 これで戦士長というのなら、案外、リザードマンも大したことはないのかもしれないと思う。長と名のつく役職はそう多くないだろうし、しかも俺という得体のしれない者を相手する役に選ばれるのだから。ただ、この重すぎる拘束具は厄介極まりないし、俺自身まだどういう仕組みなのか全く見当もついていない。


「それは良かった。協力できるのならば、リザードマンとしても望むところだ。だが、まだジンから話を聞いていないからな。拘束具を外すことはできないのだ。まずは信に値する者かどうかを示してもらわねばならんからな。」


 そうして俺はバルキャスからの質問に答えて行く。中には貿易のことやここへたどり着く手段について尋ねられたのでそこは濁して答える。完全アウェーな地で手の内を全て晒すわけにはいかないのだから。


 その後、一時間ほど俺は質問に答え続けるのだった。







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