第118話 鏡・ジン
昨日までの苦労がウソのように俺とチサは火山の大陸に近づいていた。
俺とチサの合技によって今まで俺たちを阻んでいた風、雷が止んだのだから。だが、火山の大陸に近づくにつれて、次第に快調だった俺たちの足取りは重くなっていくこととなる。
「チサ正直言ってこれは予想以上だ。なんだこれ!! 火山弾ってこんなでけぇのかよ。黒・ジン!」
そう、俺の行く手には大量の火山弾が高速でかつ大量に飛来していた。中には火が付いたままのものあり迎撃にいちいち斬撃を飛ばして、破片が俺たちに当たらないように迎撃するしかなかった。
「妾も予想外だったのじゃ。海の中で偵察しておった時はこんなひどくはなかったんじゃがのう。」
「もしかしたら、俺たちの接近を察知して火山弾が増えてるのかもな。」
「それは嬉しくない話じゃのう。じゃが、アルが起こした騒ぎのことを考えれば、あながち冗談とは言い切れぬところがのう。」
そんな話をしている間にも休みなく火山弾は飛来し続ける。神の試練さえなければこんなクソ大陸無理して上陸することもないのに! 俺は内心で愚痴を言い続けた。チサは合技をともに放った際に魔力のほとんどを使い果たしていたこともあって、火山弾の迎撃をすべて俺一人で行う必要があったのも俺の不満を加速させてゆく。
「ジン! 急ぐのじゃ! 妾たちが通ってきた道が閉じ始めておる!」
チサの言葉に俺は振り返ると自分の後方数百メートル先は、すでに元の嵐に戻り、スタート地点がどこだったのかさえ分からぬ状態になっていた。
「くそっ。このままいけば大陸に着くまでに嵐に巻き込まれちまう。あの暴風と合わせて火山弾も飛来してくるとか冗談じゃねぇぞ!」
まだ大陸までの道のりは、俺の足で邪魔されることなく走って数十分ほどの距離があった。だが、飛来する火山弾の対処で俺はトップスピードになる前に足を止められ、明らかに後ろから迫ってくる嵐の方が足が速かった。
「ジン! これは本当にまずいのじゃ! もっと速く足をうごかすのじゃ! さすがの妾とて、もうこの下の熱水を防ぐ水陣を張りながら、火山弾の来ない位置まで泳ぎ切るほどの魔力は残されていないのじゃ!」
「そうはいってもなあ!!! 俺だってこれが全力なんだ! これ以上といわれてもー。」
その瞬間、俺の脳内にふと起死回生の策が浮かんでくる。
「いや、いけるかもしれない。」
「ん? ジン! この状況をなんとかできる方法でもあるのかの?」
「ああ、一か八かにはなるが、この状況を打開するにはこれしかない。チサ! 多少破片が飛んでくるかもしれないが大丈夫か?」
「問題ないのじゃ! このまま死ぬしかないのなら、多少の痛みくらい妾はどうということもないのじゃ!」
俺は少し安心する。本当はチサを無傷で運びきりたかったのだが、この状況ではそういうわけにもいかなかった。俺はふと、故郷での学生時代に本で読んだ言葉を思い出す。前門の虎、後門の狼だったか。まさにこの状況だよな。前門に火山弾、後門に大嵐......。本当に虎や狼だったらまだ楽だったのに。俺はそんなどうでもいいようなことを考えながらも足を止める。
「ジン、止まって大丈夫なのかの? もしや諦めたわけではあるまいな?」
チサが不安そうな口調で聞いてくるが、俺に返事をする余裕はなかった。今からやることには、かなりの集中力を要するのだから。とてもではないが走りながら出来ることではなかった。
俺は黒影切を両手に大陸に向かって半身になって構えて目をつむる。
俺の周囲に火山弾が落下し、海面が大きく揺れる。俺の後ろから近づいてくるまるで滝が近づいてくるかのような雨音が刻々と俺に死の恐怖を抱かせる。
正確には俺は不死身で生き延びられるから、チサの死なのだが、チサがいない世界など俺にとって考えるだけでも死の恐怖に等しいものがあった。
俺はかつてないほどの集中力の中にいた。チサは俺の様子を察したのだろう。あの一言以降何も言うことなく、ただただ俺の肩を握りしめていた。俺をめぐる時間の流れが少しずつゆっくりになっていくのを感じる。目をつむっているが、はっきりとわかる。ついに俺たちにぶつかる火山弾が近づいていると。
俺の集中力は最大に達した。すべての景色が止まっているようにまで見えた。今ならやれる気がする。
その瞬間俺の耳に久々に聞く黒影切の声が聞こえてくる。
「どうやら、やっと聞こえたみたいだね! ジン!」
俺の目の前には真っ黒なシルエットの少年が立っていた。この光景には覚えがある。確か、フォレストアントクイーンに負けそうになった時に来た場所だ。
「そうか。久しぶりだな。黒影切......。いや、ルゲインだったか。」
「ふふっ。覚えていてくれたんだね。彼女が僕のこと話しただけあるね。でも生前のことはどうでもいい。ジンの呼びたい方で読んでくれて構わないよ。本当は教えてあげたいことがあるんだけど、今はまだジンの力が足りないからね。今はこれだけ。と言っても、これだって、今の君じゃ使ったらしばらく動けなくなるくらいの反動はあるよ。それでもいい?」
「なら、黒影切で頼む。俺がお前を使うとき、ルゲインとは呼ばないからな。だが、まだ上の技があるというのか?」
俺は黒影切の語る内容に半信半疑だった。なんせ今俺が使う3つの技だってかなりの威力を誇るのだから。さらに、魔力を追加で込めれば、コントロールはしにくくなるが、威力や射程を伸ばすことだってできた。ちなみに今現実の俺が置かれている状況を打破するためにやろうとしていたことは、黒・ジンを残り全魔力を込めて放ち、その後ろをついていくというものだった。
「うん。あるよ。ジンが今使える、黒・ジン、影・ジン、追・ジンの3つに加えてさらにあと3つもね。今回はそのうち一つを教えてあげるよ。きっと今ジンが考えてる方法じゃ、大陸まで生きてたどり着ける可能性は一割もないだろうし。そもそも斬撃についていくとか、ジンの敏捷力じゃ無理だしね。」
黒影切は俺の考えを見透かしたように言ってけたけたと笑う。俺はそれを見て内心イライラであふれかえりそうだったが、なんとか耐えきる。
ひとしきり笑った後黒影切は俺に向き直って言う。
「よく怒らなかったね。ジン。僕は君が一生懸命死地を脱するために考えたことを笑ったというのに。君も少しずつ変わってきているのかもしれないね。」
「おい! 黒影切! それはどういうことだ?」
「さあね? さて、時間だ。君に新たに教える技はー。」
その時、俺と黒影切をつないでいた空間が崩れ去る。そして、元の世界へと俺は呼び戻される。俺の頭の中には、今までになかった技の名前がはっきりと刻まれていた。
「鏡・ジン」
その瞬間、俺とチサに今にも衝突しようとしていた火山弾は、俺の目の前に出現した黒色の薄い膜のような何かでいともたやすく弾き飛ばされるのだった。
ここまで書いといて申し訳ないのですが、しれっとジンの技名に名前つけたいと思います。
黒・ジン(ブラック・ジン)
影・ジン(シャドウ・ジン)
追・ジン(サーチ・ジン)
鏡・ジン(ミラー・ジン)
多分、まだ技名にルビは振ってなかったはず......。
実はチサの技もしょた丼の中で技の読みがハッキリとは定まってないとかいうのは秘密です。(ルビ振ってなかったのはイメージで漢字を当てたので、ハッキリと決定してないってのもあるんですよね。本当に申し訳ないです。)
また何か変更があれば後書きで書かせて頂きますが、ここまでのイメージで技名を読んで頂いてる場合はそのまま読み進めて頂いて構いません!
ハッキリしない作者で申し訳ないですがご容赦くださいm(__)m
ちなみに現状のチサの技をしょた丼は、なんのひねりもなく漢字の音読みで読んでます。