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第117話 光の道標

 時刻は朝......のはずなのだが、あたりはまだ夜が明けていないかのような暗さだった。

 それもそのはず。上空には頂上が確認できないほどの何層にもわたる雲が積み上がって太陽の光をシャットアウトしているのだから。

 さらに、その雲は周囲の音も聞こえないほどの豪雨と、当たればタダではすまない雷を絶えず生産し続けていた。それに加えて、海は煮えたぎり、常人ならば軽く空を舞えるほどの暴風が吹き荒れていた。


「チサ! 準備はいいかっ!!?」


 俺は全力で視線の先にいるチサへと全力で叫ぶ。こうでもしないと声が通らないのだ。


「いつでもいけるのじゃ!」


 俺はチサの言葉を確認した瞬間、愛刀の名を呼ぶ。


「黒影切」


 俺の両手には漆黒の刀身を持つ二振りの刀が握られ、俺は両腕の力を抜いて構える。俺は一つ息を吐くと、チサへと向けて黒影切を振るう。


「影・ジン」


 その瞬間、俺の刀から出た斬撃は雨粒や豪雨をものともせずに切り裂きながら進んでゆく。そして、チサを捉えるも、チサの目の前に張られた水でできた(まく)の中へと静かに消えてゆく。


「ジン! これならあと10発はいけるのじゃ!」


 俺は返ってきたチサの言葉通りに影・ジンを十の斬撃として返す。


 その瞬間俺はチサへと向かって走ってゆく。

 いくらチサとはいえ、俺の斬撃を受けきれなければ致命傷になりかねないのだから。俺がチサの隣に着いた時チサは何とか体を震わせながら耐えていた。


「全く。闘技大会本戦のアレは全然本気じゃ無かったんじゃのう。本気の斬撃じゃとここまで重くなるとはのう。じゃが、血相変えて走ってきおってからに。ジンは心配性すぎるのじゃ。」


「とりあえずチサが無事で何よりだ。未来の妻を自分の技で傷つけるなんて考えただけでも悪夢だからな。心配しすぎくらいが丁度いいんだ。」


 チサは技の発動準備で体を震わせながらも、俺の言葉にクスクスと笑っていた。


「ふっ。ジンも言うようになったのじゃ。以前はあんなオドオドしておった癖にのう。よし準備が出来たのじゃ。ジン! 準備は良いな?」


「ああ、いつでもいいぞ!」


「水波・解水樹」


 その瞬間、チサの目の前に巨大化した一本の影・ジンが現れる。どうやらチサは、受けた攻撃をため込みそれを一つにまとめることまでできるようになったらしい。


「さあ! 驚いている間などないのじゃ! ゆくのじゃ! ジンよ。」


「ああ!」


「合技! 巨影・水竜・ジン!」

「合技! 巨影・水竜・ジン!」


 その言葉と同時に、巨大化した影・ジンは、チサの放った水竜に組み込まれ、嵐の中を貫通してゆく。そうして遠く離れた大陸にぶつかるか否かといった時、上空へと竜は天高く舞い昇る。

 そして竜は何層にも連なった雲へ吸い込まれるように消えてゆく。否、消えたと俺は思っていた。だが、ここから予想外のことが俺の眼前で起こっていた。


「おいおい.....。ウソだろう......?」


「ふふっ! 驚いたじゃろう? これはジンには話しておらなんだからのう。」


「ああ、これは凄い。チサと初めて一緒に見た夕焼けを思い出すな。」


 俺の目の前には幻想的な光景が広がっていた。俺とチサの放った竜が通った場所には太陽の光が差し、雨、風、雷といったその全てがウソのようにキレイさっぱり止み、俺とチサの放った竜が通っていない場所は変わらずに地獄のような嵐が巻き起こったままだった。まさに空と海が俺たちと火山の大陸を境に真っ二つに割れたー。

 そう捉えても間違いないほどの光景が目の前を覆い尽くしていた。


 俺はこの光景を一瞬でも長く目に焼き付けようと、いや、そうではない。完全に見惚れていた。この光景とともに自分も天に召されー。


「......! ............!」


「......! ............のう。」


 何かが騒いでいる気がするが、俺には関係ない。この神々しい景色の前には......。その瞬間、俺は地面に立っている感覚が消え、心地よい浮遊感を感じる。ああ、俺も遂に天へと召される時がー。


「あっちゃっちゃちゃちゃちゃちゃああああああ」


 だが、直後、俺の体を襲ったのは煮えたぎる熱湯だった。即座に俺の立っていた場所だけチサが水陣を解除したことを悟ると俺は俺の立っていた場所の少し前の水陣に手をかけ急いではいあがる。


「チサ! なんてことするんだ! 折角の絶景が台無しじゃないか!」


 俺は気付けば怒りをあらわにしていた。折角の眺望へ浸る時間を台無しにされただけでなく、熱湯へと突き落とされたのだから。


「それはこっちのセリフじゃ!!! ジンは自分の世界に入るとすぐに人の話が聞こえなくなったり、本当の目的を忘れてしまうのじゃからのう。早く進まねば、大陸への道が()ざされてしまうぞ?」


 俺はチサに逆に叱られ、ようやく、自分のやらなければならないことを思い出す。


「すまない。チサ。この景色に完全に魅了されていたよ。」


「妾ももう少し、雲を散らしておけば良かったのじゃ。ジンに褒めてもらいたくて少しみえを張ったのじゃが、悪い方に転んでしまったようじゃの。無駄話をしている暇はない。ジン! 急いでゆくのじゃ! この道も長くは続かないからの!」


「ああ、わかった!」


 俺はそう返事をし、チサを肩に乗せると全速力で光に照らし出された海の上を駆け抜けてゆく。火傷で全身がヒリヒリするが、これはあの景観に心奪われてしまった俺の落ち度だと我慢する。

 こうして俺たちは、光の道に導かれるように火山の大陸へと近づいてゆくのだった。






久々に2話目が出せた......。

待たせちゃってごめんなさいm(__)m

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