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第111話 心残り

 ここは海の上。

 俺が岩の大陸を発ってから既に3日が経っていた。

 俺はつくづくずるい奴だと思う。なんせ、チサから散々好きと言われ続けていたのに、それをのらりくらりと躱し、曖昧な返事をし続け、そしてプロポーズしたとはいえ、断られる可能性がほぼ皆無な状態であったのだから。以前チサに言われていたが、俺はいくじなしで間違いないのだろうと海風に吹かれながら耽っていた。


「ジン、ここ数日、何を思い悩んでおるのじゃ? そんなに岩の大陸のことが気がかりなのかの? それとも妾に何か言いたいことでもあるのかの?」


 そんな俺に優しく声をかけてくる、赤いワンピースに身を包んだ少女が話しかけてくる。


「ああ、チサか。少し風にあたっていただけだ。気にしないでくれ。」


「妾も一緒に居ても構わんかの?」


 俺はチサの問いに答えることはせずただただ、無言の沈黙を返す。

 そんな俺にチサはなにか文句を言うわけでもなく、寝そべる俺にくっつくようにチサは座る。ここは海の上は上であっても、チサの本体、すなわち首長竜の背中の、鱗の上だった。そもそも首長竜自体が非常に大きく、その鱗の一枚であっても、俺が寝そべってさらにチサが隣に座るくらい全く問題にならないほどの広さがあった。

 更に、首長竜の背の鱗は、生えてからの時間に応じて硬さや大きさや傾斜が実に様々で、野外であるという点を除けば、天然の最高級サービスを提供してくれるベッドともいえるかもしれない。海の上だから景観や風情に関しても文句のつけようが無かった。ただ一つ惜しむ点があるとすれば、天気が崩れたり、波が高い日は使えないということだが。


「チサ、待たせて悪かったな。」


 俺は唐突にそんなことを口に出していた。


「ふっ。ジン。お主、岩の大陸を出てからそればかりではないか。気にするでない。むしろ妾はもっと時間がかかると思っておったぞ。ジンは周りのことには聡いが、自分のことには嘘のように疎いからのう。」


「そうか。まあこんな俺だがこれからもよろしく頼むな。しかし、あんな急に岩の大陸を出てきてしまったが、大丈夫か? 今更だが戻った方がいいんじゃー?」


 俺は内心、心配で仕方なかった。なんせ、俺とチサは岩の大陸のアルの暴走を発端とした内紛を鎮めた後、何もせずに岩の大陸を発ったのだから。


「ふっ。ジンは心配性じゃの。確かに妾たちは、戦後に残って手伝えることはあったじゃろう。でものう、妾たちがあそこに残っていれば、一生岩の大陸に閉じ込められていたやもしれぬのじゃ。そう考えれば、完全に依存される前のあのタイミングはベストだったと思うのじゃ。勿論、世話になったミリアとリルに別れを言えなかったのは妾としては心残りではあるがの。」


 そこは全くもって同意だった。特に俺とチサの面倒を1ヶ月見てくれたミリアとリルにはお礼と別れが言いたかった。だが俺にはもう一つ懸念があった。それは、アルをあんな姿にしてしまった黒幕を捉えることが出来なかったということだ。アルは俺に余裕が無かったこともあり、情報を吐かせる前に殺してしまっていた。それにアルの死体はエルスに引き渡したので今更調べることもできなかった。


「なあ、チサ。アルをあんな風にした黒幕が捕まってないがそれは大丈夫なのか? 黒幕を残したままだと第2、第3のアルが出てくるんじゃないのか?」


「確かに妾もアルの死体を見たときそれは考えたのじゃ。でもの、はたしてジンの気配遮断をも平然と突破するようなものが、わざわざ妾やジンが消耗しきった内紛後を狙わなかったのは何故じゃ? それに、これからいつ来るかもわからぬ脅威のために妾たちが残るような真似をすれば、いつまでもあの大陸から動けなくなってしまうであろう?」


「確かにな。少し酷い気はするが、自分たちで解決することも必要ということか。」


「そういうことじゃ。きっと今回で痛感したであろうな。今までの平和は仮初のものであり、いざ脅威に直面した時、自分たちで乗り越える力が圧倒的に足りないと。かの大陸の民たちはこれからもっと強くなっていくであろうな。今とは比べ物にならないくらいにはの。」


「そうだな。そういわれれば俺の杞憂だったかもしれない。これで思い残すことがないとは言えないが、切り替えて次の大陸へ向かえそうだ。」


 俺は起き上がると隣にいるチサを持ち上げると膝の上に乗せる。急に持ち上げたのでチサは慌てていたが、すぐに落ち着くと俺のお腹に体を預けてくる。その愛らしさに俺は......目が......目が......離せなくなるほどに魅了される。


「全く、妾の()()()()はこれだからー。」


 そう頬を赤らめながら言うチサがこの世の何よりもいとおしく感じる。

 この場所は海のど真ん中であるからこそ誰にも邪魔されることもない二人きりの空間だったこともあり、俺は時を忘れてチサの頭を優しくなでたり、くすぐったりして甘いひと時を過ごす。

 俺はチサがいてくれなかったら、きっと、ずっと、自分を追い込んだままでいていずれ壊れてしまっていただろうと改めて思う。


 ここ一ヶ月常に気を抜けなかった日々から解放された俺たちはこれからどこにあるかもわからない次の大陸への長い長い航海の始まりをほのぼのと過ごすのだった。

お待たせしました~! 

今話から、第四章開幕でございます。

しょた丼もどう進んでいくか皆目見当もついておりませんが、毎日更新のスタイルは崩さずに頑張っていく所存であります!

ただ、第三章の人物・用語紹介書きながら執筆していきますので、数日間は執筆ペース落ちたらごめんなさい。

これからも、よろしくお願いしますね!

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