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第102話 チサの気遣い

 俺は、しばらく一人でぼーっと考え事に耽っていた。俺は先程暴走したのに監視の一人すらついていなかった。今が異常事態である以上、俺を監視できるレベルの者が出払っているのが理由だろうと納得する。


(さっきの闇はなんだったんだ。俺はあれがまた出てきた時制御できるのか......? くそっ! もう二度と大切なものは失わないと誓ったのに、今度は俺のせいで......。)


 そんな俺に話を聞き終えて帰ってきたチサが声をかけてくる。


「ジ〜ン〜! 何をしょげておるのじゃ。さっきは妾以外怪我人が出なかったのじゃ。切り替えねば、アルに勝てぬのじゃ。」


「ああ、チサか、すまないな。俺が怒りに身を任せたばかりに。」


 俺の目の前にいるチサは、話を聞きに行くついでに治療してもらったのだろう。首にかけた麻紐で右腕を吊っていた。


「気にするでないぞ! ジンがそんな調子では妾も止めた甲斐がないではないか。ほれ。今の状況を話すからさっさと元気を出すのじゃ。」


 チサは俺を無理矢理立たせるとこの惨劇の部屋の中でも比較的無事なベッドの上に俺を座らせ、チサは俺の膝の上に座る。

 だが、俺が元気がないからだろうか。チサの表情にもどこかかげりが見えた。


「チサ。今デウスはどうなっているんだ? キスリアの話していた続きから頼めるか?」


「うむ。確か黒いモヤのところでジンが暴走したんじゃったな。その黒いモヤじゃが、どうやらジンの大陸にいたそれとは性質が違う様じゃ。彼らはモヤで構成されておるのではなく、モヤを纏っているというのが正しい様じゃからの。」


 俺は内心安堵する。黒いモヤという言葉をトリガーに俺が暴走したというわけではないことに。そして黒いモヤは俺の故郷を蹂躙したそれとは性質が違うということに。


「なるほどな。なら、その黒いモヤは、マキラの人達を操っているだけってことか。」


「うむ。今のところはそう見て良さそうなのじゃ。」


「続けてくれ。」


「うむ。その黒いモヤを纏った者達なのじゃが、どうやら、黒いモヤを纏わぬもの、即ちモンスターや人を攻撃する様なのじゃ。力もあり得ぬほどに強化されているとの報告もあった様じゃの。ただ、その代償なのかはわからぬが、複雑な動きはしない様で初撃さえ見切れば無力化するのもそう難しくないと言っていたの。」


「なるほどな。それで、今その集団はどこまで来ているんだ?」


「うむ。今はマキラとデウスの丁度半分といったところだと言っておったの。」


「それは不味いな。もうあと1日もかからずここまでつくじゃないか。それに、民を使うあたりがたちが悪い。アルはこの大陸の民達で共倒れさせる気か! 多くの民が死に絶えた後で大陸が運営できるとでも思っているのか?」


 俺は怒りと共に心の中からドス黒い感情が湧き上がるのを感じる。


「落ち着くのじゃジン! さっきと同じことになるぞ!」


 俺は我にかえる。


「はっ! チサすまない。危ないところだったよ。」


「良いのじゃ。それでの、ジドンによると、妾はなるべくあの者たちの足止めと、殺さぬ様に無力化するのを手伝って欲しいと言われた。ジンは―。」


「アルを直接討てと?」


「そういうことじゃ。本当は妾も行きたかったのじゃが、流石の妾でもこれを治すには数日かかるのじゃ。」


 チサは申し訳なさそうに言う。俺はチサが腕の骨折を治すくらいで数日もかかると言うのに疑問を感じるも聞かないでおく。いつもなら一晩寝たら治っていたはずなのだが、きっと何か事情でもあったのだろうと。


「わかった。今すぐ向かった方がいいか?」


「うむ。ジドンと話はついておる。門兵に一言言えば門を開けてくれる筈じゃ。」


「分かった。チサ、行ってくるよ。大陸の人同士で殺し合いなんて絶対辞めさせなきゃいけないからな!」


「うむ! その意気じゃ! やっといつものジンが戻ってきて良かったのじゃ。気をつけていくのじゃぞ。」


 こうして俺は、チサに見送られ、途中で見かけたジドンに声をかけて、先程の暴走を謝罪した後、門兵に門を開けてもらう。


「お前はこの大陸の唯一の希望だ! 頼んだぞ! マキラの民は傷つけずに食い止めておくからなっ!」


「ああ、任せてくれ。」


 俺は走り出す。マキラの街へと暴走するアルを止めるためにも―。


「行ってしまったの。」


 ジンがデウス領から出たことを確認するとチサは吊っていた腕を露出させる。

 そこにはチサの綺麗な肌の上に、焼きついたかの様な真っ黒な痣が出来ていた。


「なんとか誤魔化せた様じゃったが、これは効くのう......。流石の妾も次ジンのアレが出てきたら止めてやれぬかもしれぬのじゃ。」


 チサは痛みにその可愛らしい顔を歪めながらも包帯を巻き直し、麻紐で腕を吊る。


「弱音を吐いてしまったの。妾は将来、ジンのお嫁さんにしてもらうのじゃ。これしきのことで挫けるわけにはいかぬのじゃ! 妾ももっと強くならねばならぬの。ジンを支えてやるにはこの体たらくではまたジンを悲しませてしまうのじゃ。」


 そんなチサを覗く者がいることに、チサは気付かなかった。

 この場にチサの様子がおかしいことに気付いたジンが気配遮断による実像分身を残していたことに―。


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