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土居健吾

 駒池こまいけのスローインから始まり、タイマーは六分五十八秒からカウントダウンを再開する。


 六十二対四十八。その差、十四点。


 追いかける江清こうせいのディフェンスは変わらずマンツーマンだ。


 しかし一箇所だけが前と違う。駒池のエース玉崎たまさきがポストに陣取るその後ろに、江清のキャプテン土居どいがついた。身長は二人とも同じ百七十八センチ。痩せ気味体型の玉崎に対して、土居はほどよく筋肉のついた体格だ。


 ミドルエリアから駒池の九番がポストに立った玉崎へパスを送る。次の瞬間、土居が玉崎の脇の下から前へ飛び出してパスをキャッチした。

 インターセプトだ。

 江清のギャラリーから歓声が上がる。


「ナイスカット」


 そう言う三上に土居がパスを渡す。


 江清の攻撃。

 駒池はやはりゾーンディフェンス。そのハイポスト、フリースローライン近くに土居がリングに背を向けて手を上げた。両横にはそれぞれ一メートルの距離に二人の駒池選手がいる。何人か人を巡って土居にパスが通った。すぐさま両脇にいた駒池選手が距離を潰して迫ってくる。が、土居は右足を軸にしてターンすると、即座にジャンプシュートを放った。


 素早く、少しも迷いのない動きだ。


 その軌道をミドルエリアから見ていた広宣ひろのぶは、ボールが最高点に達した時点で入ったと確信した。


 静かな音を立ててボールがリングの中へ吸い込まれる。江清のギャラリーが盛り上がった。


「いいぞをいいぞ健吾けんご! いいぞいいぞ健吾けんご! もう一本!」


 六十二対五十。


 続いても駒池は玉崎にパスを渡した。玉崎対土居によるセンター同士のワンオンワンだ。

 ボールを胸の位置に留め、土居に背中を向けた玉崎が顔だけ左側を向ける。ほんの一瞬、土居と目が合った。

 互いに額から汗が流れているのを認識する。

 玉崎がドリブルをつきながら詰め寄ってきた。フェイントをしかけ、土居を抜きにかかる。土居は抜かれまいと食い下がった。


 負けてたまるか。負けてたまるか。負けて―。


 玉崎が放ったシュートを、土居が数十センチ上ではたき落とした。

 たまるか!

 シュートブロックだ。勢いよく叩かれたボールは、駒池の四番の手をかすり、センターラインを超えて駒池側のコートに戻っていく。すぐさま三上と駒池九番が追いかけた。


 先にボールへ追いついたは駒池の九番。

 しかしボールと並走するだけで取ろうとしない。取れないのだ。一度センターラインを越えて相手コートに進入してから再び自分側のコートへ戻ってしまうと、バックパスというバイオレーションになる。ボールに最後に手を触れたのは駒池の四番。今ここで九番がボールに触れてしまえば必然的にバックパスとなる。そこへ三上が走って近づいてきた。三メートル、二メートル、一メートル。仕方なく、九番はボールを手に取った。途端に審判が笛を吹く。「バックパス!」


 駒池ベンチからガッツポーズが上がった。「ナイスブロック、健吾!」。


 江清の攻撃。

 先ほどと全く同じように、ハイポストでパスをもらった土居がターンしてゴールを向いた。二度も同じ手をくらわない、とばかりに駒池の三人が即座に詰め寄る。土居は構わずシュート体勢に入った、と思った瞬間、ドリブルをついて三人の隙間から抜き去った。シュートフェイントからのドリブルだ。台形エリアのちょうど中央でジャンプシュートを打つ。リングへ入った。


 六十二対五十二。十点差。


 次の江清のディフェンスでは駒池の八番のミドルシュートを決められ、得点は再び十二点差に戻った。時間は残り四分半。


 土居が三度目のハイポストに立ち、パスを受ける。

 シュートか、それとも抜きに来るか、という観客の予想を裏切り、土居はリングへ向き直るとその場でジャンプして頭の上から両手でゴール下に一直線のパスを投げた。ゴール裏側からぬっと姿を現したのは冷前れいぜん先輩だ。完全に土居に気を取られていた駒池五人は意表を突かれ、冷前先輩は難なくゴール下から得点を決める。


 六十四対五十四。


 残り四分になったとき、駒池がタイムアウトを取った。江清のベンチ側は大盛り上がりだ。


「土居さん、ナイスパスです!」


「冷前先輩、ナイッシュ! もう少しです」


 完全に江清に勢いがある。タイムアウトが終わり、五人がコートへ戻っていく直前で舜也しゅんやが土居に託した。


「土居さん、頑張ってください!」


「任せろ」


 土居がすぐに答え、思った。

 〝頑張れ〟という言葉をただ聞くんじゃねえ。〝頑張れ〟と言ってくれる人の気持ちを受け止めろ。

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