恥
山田の声援は、驚くほど体育館に浸透していった。
今、この決勝戦はタイムアウト中だし、隣のコートの三位決定戦も試合が終わったのでちょうど体育館全体が静かになっていたところだった。周囲の人が一斉に自分を見てくる視線を感じ、山田が恥ずかしくなって俯く。
ベンチでは、土居がそんな山田の様子を見上げていた。
頑張れ…頑張れ…か。
タイムアウトは残り二十秒。すでに九間先生の作戦は伝え終わり、少しでも体力を回復させるために五人はじっと座っている。土居は目線を下にやり、何を見るともなく考えにふけった。
駒池戦を苦手と思うようになったきっかけはよく覚えてる。去年の冬季大会だ。
背が高く、先輩たちの人数も少なかったことから、俺と渡は早くから試合に抜擢された。最初に駒池と戦ったときは五月の市内大会。十五点差をつけられて敗北に終わった。悔しくて悔しくて次の大会では見返してやろうと思い、必死に練習して挑んだ夏の新人戦では二十点差で敗れる。さらに練習時間を増やし、万全の体制で臨んだ冬季大会では三十点差以上つけられて負けた。
その試合が終わったとき、自分の中で何か腑に落ちた感覚があった。ああ、これが俺たちのポジションなんだな、という思いだ。俺たちがどれだけ練習を積んだって駒池は常に一歩上を行く。駒池が一位で俺たちが二位。それが市内でのポジションなんだ。
ふてくされたわけじゃない。
自棄になったわけでもない。
毎日の練習は真面目に取り組んだ。バスケが好きだったし、試合で活躍できることが楽しかったからだ。だがその試合以降、駒池に負けても悔しいと思う気持ちが少なくなった。市内二位だってすごいことじゃねえか。しかも三位までとは決定的な実力差がある。駒池と俺たちはぶっちりぎりの二強なんだ。それでいいじゃねえか。
山田の声が頭の中に反芻する。
頑張れ、頑張れ健吾…。
あの場所でよく言えるよな。逆の立場だったら俺は言えるだろうか? 試合に出るどころかベンチ入りさえできず、ギャラリー席で横に一年を並べて声を枯らしながら頑張れと応援する。できるか? 俺に。
できる、とすぐに言えない自分がいる。山田はいいやつだ。そのいいやつが、俺に勝ってほしいって言ってるんだ。
練習で手抜きしたことなんて一度もない。俺は真面目にやってきた。
だが本気じゃなかった。
真面目と本気は違う。
今日、このまま負けたら俺は山田に何て言う? 〝応援ありがとな、でもやっぱ駒池は強かった。ベストは尽くしたんだけどな〟か? 〝二位でもすごいことじゃねえか、喜んでくれよ〟か?
思わず奥歯を強く噛みしめる。
んなもん、負ける以上の恥だろが!
ビー、というブザー鳴った。土居が誰よりも速く立ち上がり、コートに戻りながら横にいた冷前に声を掛ける。
「渡、ディフェンス交代だ。俺が玉崎につく」
冷前が答える前に、土居が肩のストレッチをしながら続けた。
「勝ちに、いくぜ」