第一ピリオド
舜也は九間先生に視線を送り、手でタイムアウトの仕草を伝えた。うまく伝わったようで、九間先生はすぐにオフィシャル席にタイムアウトを申請しに行く。
その後も駒池には立て続けに点を決められ、江清の攻撃は失敗が続いた。三分が過ぎたときに、土居がトラベリングを取られて試合が止まり、ビーというブザーが鳴り響いた。
「タイムアウト、青」
江清選手がベンチに腰掛ける。それを囲むように全員が半円を作った。
スコアは十一対〇。劣勢だ。
試合に出ていた選手全員が水分を補給し、一息ついたところで「ちょっといいですか」と舜也が切り出した。全員の目が自分に注がれるのを待ってから舜也が続ける。
「確信しました。駒池との実力差はたいしてありません。これなら勝てます」
舜也の言葉を聞いた全員が固まった。
スポーツドリンクを飲んでいた不亜が口からペットボトルを離した。
「適当なこと言ってんじぇねーよ。実力差がないならなんで今こんなに負けてんだ?」
「リバウンドを取られてるからです」
舜也が冷静に言った。
「駒池のシュート成功率は高くありません。外れるのが多いです。ディフェンスリバウンドさえ確保できれば、絶対に相手の得点は失速します。そしてもう一つ」
舜也が言葉を切る。
「オフェンスのペースが性急すぎます。速い相手のリズムに乗せられてる。もっと時間一杯使いましょう。ディフェンスではリバウンド重視。オフェンスではゆっくりペース。これだけで絶対持ち直します」
「は! んな簡単にいくかってんだよ」
不亜が投げやりに言うのを、じっと聞いていた九間先生が制した。
「それは違うぞ、不亜。樋川の指摘は的を射てる。ベンチから見ていてもお前たちの動きは焦りすぎだ。攻撃も単調になっている」
不亜が困惑した。九間先生が膝を追ってかがみ、選手を真正面から見る。
「ディフェンスはこのままマンツーマンでいく。全員がスクリーンアウトを徹底すること。ディフェンスはリバウンドが第一だ。リバウンドを取られるのは、相手にシュートが決まるまでパスを送るようなものだいうことを全員が理解しろ。オフェンスは即座にシュートを打たず、パスを回して二十四秒フルに使う。いいな?」
タイムアウト終了を告げるブザーが鳴った。五人が再びコートに戻る。
土居のトラベリングで試合が止まったため、再開は駒池のスローインから始まった。ボールはやはり、スリーポイントライン上にるエース玉崎に渡る。
再び玉崎対冷前先輩の一対一だ。
玉崎が右にフェイントをかける。冷前先輩は少し反応したが、隙は見せない。今度は左にフェイントをかけたが冷前先輩は不動のまま。と、玉崎はその場でサッとシュート体勢に入り、ジャンプシュートを放った。
スリーポイントだ。
即座に舜也は目の前の駒池選手に対してスクリーンアウトをかける。自陣のゴールを振り返り、相手に自分の背中を密着させてリバウンドを取りに行かせない。
シュートは外れた。
しかしまたしても駒池の選手にリバウンドを取られた。
舜也が目を向けると、不亜がスクリーンアウトせずに棒立ちの状態で、その隙にマークマンがリバウンドを取ったようだ。駒池選手がそのままシュートを決め、スコアは十三対〇になる。駒池OB軍団が、咆哮とも言える合唱で声援を送った。
次の江清側の攻撃の回で、駒池選手が冷前先輩にホールディングというファウルをしてタイマーが止まったとき、江清が選手交代を行った。不亜の代わりに広宣が入ってくる。
さすがに広宣は状況を冷静に把握しているようで、土居や冷前先輩に対して無理にパスを通さずに、舜也と交互にパスを回して時間を使った。二十四秒まで残り五秒というギリギリになったときに、冷前先輩にパスが渡る。その瞬間、広宣がゴールへ向かって駆け出し、冷前先輩がパスを出して広宣がそのままレイアップシュートを決めた。
十三対二。
試合時間四分が経ってようやく江清の初得点だ。
堪りかねていたように江清のギャラリーの応援が叫ぶ。「いいぞいいぞ! 広宣! いいぞいいぞ! 広宣! もう一本!」。
次の駒池の攻撃は相手がパスミスして江清に渡った。
相手のミスで得る得点は大きい。
そろそろ駒池チーム各個人の能力がわかってきた舜也は、広宣と冷前先輩のコンビネーションで攻めていこうと考えた。が、相手コートに入ってすぐ土居にボールが渡ると、土居は強引にポストプレイで切り込んでシュートを放つ。
フェイントも何もない単調な攻め。
シュートは外れ、駒池にボールが移った。
あかんわ。
舜也はそう思った。
タイムアウトでの指示をほとんど実践できていない。リバウンドは相変わらず好き放題取られ続け、攻めは相手のリズムに乗った速い攻めだ。誰もが普段の練習の半分しか力を発揮できていなかった。駒池OB軍団のギャラリーから押しつぶしてくるような声援と、駒池選手のプレッシャーのために委縮している。
早い話がビビってる。
舜也は方針を変え、せめて第一ピリオドの間はできる限り点差を広げられないように努めた。




