優勝を懸けて
センターサークルを囲んで八人の選手が散らばった。ジャンパーは土居対玉崎だ。スイッチが入ったように応援も始まる。
「ジャンプだ健吾! ジャンプだ健吾! ジャンプだ健吾…」
「跳べ跳べ跳べ跳べ跳べ跳べ康平! 跳べ跳べ跳べ跳べ跳べ跳べ康平…」
審判の投げたボールが宙を舞い、同じタイミングで両ジャンパーが地面を蹴る。
空中戦を制したのは駒池の玉崎だった。しかし、玉崎が背後に落としたボールを横跳びして先に確保した選手がいる。三上だ。
三上は敵に囲まれる前にすぐに舜也にパスを出した。舜也がドリブルをつき、目の前にいたディフェンスと対峙する。
相手は膝が伸びていて、重心が高い。
そう判断した瞬間、一気にトップスピードに乗って相手を抜き去った。すぐにカバーが来たものの、舜也は勢いを殺すことなく二人目も抜く。続けざま三人目も高速フェイントを使って置き去りし、数秒のうちに三人を抜きさった。そのまま相手ゴールに向かって駆けていく途中で四人目が立ちはだかろうとしたとき、舜也は視界の端にノーマークになっている土居の姿を捉えて、ゴール下に向かってバウンドパスを送った。
パスをもらった土居がターンでゴールに向き直る。
半径一メートル以内には誰もいない。完全なフリーだ。
先取点は江清、と誰もが思ったのだが、土居が放ったシュートは嫌われるようにリングに弾かれた。土居自身がリバウンドを取り、もう一度シュートしようとする。が、そのときにはマークマンが土居の前に塞がり、相手選手二人に囲まれかけた土居が仕方なく外にパスを出した。
キャプテンが、ノーマークのゴール下でシュートを外した。
絶好の得点チャンスが不意になり、江清のギャラリーからため息が漏れた。「ドンマイ!」と誰かが声を上げる。何人かを渡ってボールは舜也のもとに戻ってきた。仕切り直しだ。
先制攻撃に失敗した以上、まずは相手の様子を探りたいと舜也が思っているところへ冷前先輩がハイポストに立った。一瞬迷った後、舜也は冷前先輩にパスを出す。
駒池はマンツーマンディフェンス。
冷前先輩対駒池の六番とのセンター対決が始まると、冷前先輩は左からドリブルで切り込み、考える間もなくジャンプシュートを放った。強引すぎる、と舜也は思ったが手遅れだ。シュートは外れ、リバウンドは相手に取られて攻守が切り換わった。
駒池と同じように江清もまたマンツーマンディフェンスで迎え撃つ。
駒池のエース玉崎は、百七十八センチという高身長ながら、ボールを運ぶガードのポジションにつき、その玉崎を百八十一センチ、細身の冷前先輩がマークすることになった。応援合戦も本学的に火花が散る。
「燃えろ! 燃えろ! 燃えろ! 駒池!」
「ディーフェンス! ディーフェンス! 一本ディーフェンス!」
何度かのパスを経てボールがスリーポイントライン付近にいる玉崎に行きつき、玉崎は冷前先輩と向き直って重心を低くする。一対一を仕掛けるつもりだ。玉崎は左ドリブルをついて抜きにかかった。冷前先輩は若干遅れて対応したものの負けずに食い下がり、完全に抜け切れていない状態にもかかわらず、玉崎は無理矢理ミドルエリアからジャンプシュートを放った。
放たれたボールを舜也の目が追いかける。外れろ! 外れろ!
思いは通じ、ボールはリングに弾かれた。速攻のため走ろうかと思ったそのとき、弾かれたボールを駒池の八番に取られるのが目に見えた。ゴール下にいた土居が反応するも一足遅く、八番はゴール下から得点を決めた。
二対〇。先取点は駒池だ。
「いいぞ! いいぞ! 隆志! いいぞ! いいぞ! 隆志!」
メガホンを使った応援に負けない声で横岸監督の声が飛ぶ。
「玉崎ー。リズムが崩れてるぞ。もっと落ち着いて周り見渡せ」
三上と共に舜也が相手コートまで進む。
舜也から三上、三上から不亜に渡った。今度こそじっくり相手を観察しようと舜也は思ったのだが、不亜がミドルエリアからドライブで切り込み、台形エリア内でジャンプシュートを放った。シュートは外れて駒池にボールが渡る。十五秒も経たないうちに江清のオフェンスは終わった。
二度目の江清のディフェンスでは、ドライブを仕掛けてきた選手に対して、不亜がファウルをした。笛が鳴り、時計が止まる。
シュート体勢に入ったときに手を叩いたので、駒池側のフリースローとなった。
駒池選手はまず一本を決め、フリースローは一得点としてカウントされるのでスコアは三対〇。続く二本目は外れたが、またしても駒池側にリバウンドを取られ、その場でシュートを決められた。
スコアは五対〇になる。