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秘密の特訓

「ふー。二年目でもキツさは変わらねーなー」


 練習が終わり、一年生の片づけを見ながら土居どいが横にいる冷前れいぜんに声をかけた。冷前は水筒のお茶を飲み込んでから頷く。


「ほんとにな。それに相変わらず体育館の暑さって異常だよな。まるでサウナだよ」


「そのくせ冬になると極寒になるんだもんなー。一体どんな構造してんだこの建物」


「永遠の謎だよな」


 土居たちが軽快に笑うその前を、舜也しゅんやが顔の濡れたアンパンマンの様相でモップがけをしていた。舜也だけでなく、他の一年生も大多数が同様の状態だ。


 今日だけで一か月分は走った気がする。これが週六日、三週間も続くのか…。


 一人だけ、疲れた顔しながらも小走りしながらモップをかけていた広宣ひろのぶが心配そうに舜也の傍へやってきた。


「大丈夫か? 舜?」


「駄目の一歩手前」


「…今日の自主練はどうする? 俺はやるけどお前は無理しないで帰れよ」


「いやや、やる」


 頑なに言い放った。ただでさえ広宣とは差が開いているのにこれ以上離されるのはたまらない。


「無理すんなよ。バテて倒れたら元も子もないからな」


 そう言って広宣は駆けていった。


 帰り際のミーティングでは、九間先生から夏バテ対策として必ず食事を取るようにと話があった。食事前に水分を大量に摂取してしまうと食べ物が入らなくなるので、食事の際は味噌汁などの汁物から先に手をつけるようにするといいらしい。解散すると、舜也は自分のカバンの傍へ来てへたり込んだ。


「おら舜坊しゅんぼう、さっさと荷物持ってどけよ。すぐ女子と交代だぞ」


「…はい」


 舜也はうめき声を上げなら立ち上がる。対して土居は鼻歌交じりだ。


「土居さん、なんでそんなに元気でいられるんですか?」


「ん? ああ、ま、慣れだろな。それに夏休み期間の練習はしんどいことだけじゃねえぞ。週末には秘密の特訓がある」


「秘密の特訓?」


 気になって舜也の顔に生気が戻った。


「なんですか、それ?」


「週末になってからのお楽しみだ。俺はこれが楽しみで今を耐え忍んでいるようなもんだ」


 そう言うと、土居さんは荷物を持って体育館の出口へ向かった。


 見てるだけでもげんなりしてくる過酷なフットワーク練習が始まった翌日。

 一年生の中で三人が練習を休んだ。三日目にはもう一人が来なくなり、五日目になるとさらに一人消えていく。どの一年生も二度と体育館に戻ってくることはなかった。「今年のリタイヤ者は五人か~」と土居さんがあっけらかんと言う。「今のとこはな」と言って笑う不亜ふあ先輩が恐ろしい。


 六日目。この日に行われるという秘密の特訓に胸を躍らせながら、舜也は歯を食いしばってフットワークに耐えた。横を見ると、小太り体型だったETはかなり贅肉がなくなって鎖骨が目立ってきている。ETいわく「この一週間で三キロ痩せた」らしい。


 五対五のゲームの中で、舜也と広宣のコンビネーションがより以心伝心になってきたことを確信しつつ、いつもより一時間早く練習は終わった。終わりのミーティングで九間先生が全体の弱点を指摘してから最後に締める。


「では、今日の練習は解散。このあとは土居、任せるぞ」


「わかりました」


 声からして土居さんが弾んでいるのがわかる。「きょうつけ! 礼!」「ありがとうございました!」の挨拶で練習は終わった。


「よっしゃあ! 一年! 荷物を持ってグラウンドに集合だ!」


 土居が人差し指を天井に向けて叫んだ。


「サッカーやるぞ!」


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