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期末テスト

 夏休みに入る一週間前、期末テストが始まった。

 

 テスト期間中はどの部活も練習禁止になるので、テストが終わると午前中のうちに皆帰途(きと)につく。


 三日間続くテスト期間のうち一日目のテストが終わると、舜也しゅんやは先生に勉強で質問があるから、と言って広宣ひろのぶたちと別れた。聞きたいのは数学で、一次方程式の移項についてちょっと質問がある。ちょうどこのあたりを習ったときは、授業中に練習試合の反省に専念していたので内容がさっぱり入っていなかったのだ。


 ガンガンにクーラーの効いている職員室に入ると、舜也は一年生の数学を担当している大林おおばやし先生の座っているデスクに向かった。大林先生の席に近づいたとき、ちょうど真向いから女子生徒が来て、同じく大林先生に声をかけようとする。


「先生、ちょっと教えてもらいたいところがあるんですけどいいですか?」


 女子生徒が切り出す前に、舜也が早口で尋ねた。女の子は口を開けたまま固まり、舜也と視線が合う。

 綺麗な女の子だった。顔全体がとても小さく、唇がつややかなピンク色で、おでこが広い。そのおでこの半分ほどに切り揃った前髪がかかり、髪形はポニーテールだ。どことなく秀才オーラを放っていて、かぐや姫と例えられるような凛とした品がある。


 大林先生はまず声をかけてきた舜也を見てから、舜也が目を向けている女子生徒にも気がついた。


樋川といかわと…姫野ひめの、お前も何か質問か?」


「はい。二次方程式の因数分解でお聞きしたいんです」


 姫野と呼ばれた女子生徒がハキハキと喋った。女性アナウンサーのように活舌かつぜつが良く、とても聞き取りやすい。


「先生、俺が聞きたいのは一次方程式の分数の移項です」


 舜也もササッと答える。大林先生は姫野の方を向いた。


「姫野、二次方程式はまだ習ってない単元だが? 今回のテストの範囲でもないぞ?」


「わかってます。塾の宿題で出された問題で、どうしても解けなくて先生に解き方を教えていただきたいんです」


「ほな、俺が先やな。俺の質問は明後日のテストの範囲内やし」


 舜也が勝ち誇ったように言うと、姫野はムスッとして言った。


「私の方が先にここへ来たでしょ。順番からいえば私が最初じゃない?」


「でも俺のが先に声かけたやん」


「それはあなたが早口だっただけよ」


「俺はいつものスピードで喋っただけや」


「はいはい、そこまで」

 大林先生が制した。


「樋川、お前の質問は一つだけか?」


「はい」


「姫野は?」


「私は二つ、教えていただきたい問題があります」


「なら先に樋川の分を済ませよう。すぐに終わらせるから姫野は外で少し待ってなさい」


 姫野は納得いかない表情を浮かべたが、不承不承ながら「はい」と答え、踵を返して職員室のドアへ向かった。舜也は気にせずカバンからノートを取り出して大林先生に質問する。


 職員室のドアの前で、姫野は無表情のまま立っていた。目の前を男の子が通るたびに、好意の視線を投げかけてくる。しかし姫野は無関心の態度だ。五分もしないうちにドアが開き、背の低い男子生徒が中から出てきた。


「終わったで! ほなな」


 舜也はそれだけ言うと、足早に去っていく。姫野は短いため息をついて職員室に入った。


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