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試合結果

 江清こうせいのオフェンス。

 

 先ほどと同様に舜也しゅんやは隙を作ろうとコートを走り回る。が、駒池こまいけのディフェンスも先ほどと何かが変わっていた。舜也がスクリーンするために近づくと相手選手は察してかわしマークを入れ替えさせず、舜也が空いたポジションで大声を出してパスを呼び込んでも警戒する反応が薄い。浮き足立っていたさっきまでが嘘のように地に足ついている。今の舜也はまるで、親がかまってくれないために駄々をこねている子供みたいだ。


 どこかの時点で俺への警戒が薄くなると予想しとったけど、初っ端からか。


 舜也は改めて駒池の実力の深さを感じ取っていた。 

 舜也が相手に仕掛けているスクリーンプレイというのは、実はあらかじめ警戒していればかわすのは難しくなく、また陽動ようどうも、敵に目的がバレてしまえば何の意味もない。

 たった二分のインターバルで落ち着きを取り戻し、対策を練ったのだ。ならばと思い、舜也は敵も味方も数が少ないミドルエリア内でパスを受け取った。誰も警戒してこないのなら、このままマークする相手を抜かし、シュートを決めてやればいい。対する相手は、ずっと自分をマークし続けている駒池の九番。舜也は意を決して一対一を仕掛けることにした。

 

 だが、九番は相当にディフェンスが上手かった。目線で探りを入れ、手の動きでフェイントを織り交ぜ、ときどきわざとドリブルを弱くする緩急をつけても九番の体勢を崩すことができない。仕方なく三上にパスを戻した。しかしめげずに、舜也は全体を見渡す。


 まだできることはあるはずや。まだ何か。


 攻め入る隙がなく、二十四秒まで残り三秒となったところで三上がやむなくスリーを放った。シュートは外れ、駒池の選手がリバウンドを取って攻守逆転となる。駒池のオフェンスはやはり荒橋あらばしへのパスが極端に減っていた。第四ピリオドに入ってから先ほどのニキビ顔の長身選手、八番玉崎(たまさき)がポイントゲッターに取って代わり、横岸よこぎし監督の名指しも「荒橋あらばし!」から「玉崎たまさき!」に切り替わる。

 

 荒橋もまた、時折動いてボールを捌き、味方にパスを出すプレーに徹した。江清のオフェンスが通じなくなり、ディフェンスは切り崩されている。自然、点差は徐々に広がっていった。


 堪らず、江清はタイムアウトを取った。


 滝のような汗を拭き取りながら椅子に座って呼吸を整える選手たちに対し、九間くま先生は「もっと冷静にパスを回せ」と指示を出す。


土居どい、お前がマークしている八番玉崎(たまさき)は同じ二年だぞ。負けるなよ」


 九間先生はそう発破はっぱをかけて選手を送り出した。


 しかし、試合再開後も駒池の優勢は揺るがない。

 五回目の駒池のオフェンスを止められなかったとき、舜也はようやく気がついた。荒橋のプレーは、自分がやっている陽動作戦そのものだ。相手を引き付けて味方を活かす。しかも実力の低い舜也と違い、荒橋はパスを受けてからいとも簡単に攻めてくるので、江清の選手は一挙手一投足に最大限警戒せざるを得ない。


 陽動ようどうってのはこうやるんだよ、と見せつけられている心境だった。


樋川といかわ、マーク交代だ。俺が五番につく」


 沖さんにそう宣言されたとき、舜也は思わず待ってくださいと言い出しそうになるのを辛うじて飲み込んだ。悔しかったが、待ったところで現状は変えられない。また、スタミナも目に見えて落ちてきていた。動き始めてたった二十分間ほどだが、突き刺すような相手のプレッシャーの中を全速力で駆けつつ、跳んだり投げたりするのは疲労する速度が練習の比にならない。結局舜也は残り三分になったところで広宣ひろのぶと交代し、試合の結果をベンチから見届けた。


 得点は七十四対四十七。

 一時の追い上げも空しく、二十七点差まで広げられて江清の敗北に終わった。

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