対応
「樋川。スクリーンありがとな。おかげでかなりポストが取りやすくなってるよ」
パイプイスに腰掛け、額の汗をタオルで拭いながら冷前先輩が舜也に微笑んだ。
「十二点差。スリーポイントならたった四回で同点だぜ。勝てるかもよ、駒池に!」
三上も顔を上気させながら白い歯を見せる。
「勝てるかも、じゃねえ。勝つんだよ。な、健吾」
沖さんが土居に促し、土居も水分補給しながら「お、おう」とむせながら答えた。
いい雰囲気や。あと少しで駒池に届く。
舜也は得点板を見つめ、最後の八分間の展開を頭の中で組み立てた。
理想はこのまま駒池を混乱させつつ進めることだが、相手も強豪。術中に嵌ったまま終わることはまずありえない。どこかの時点で舜也の動きに慣れてスクリーンは躱され、警戒しなくなると予想がつく。
第四ピリオドは積極的にシュートを打ったり、ドリブルで切り込む攻撃を仕掛けた方がええな。俺だって戦力になると思わせられれば、相手はまた俺に意識を向けるはず。今日の試合、今の実力の俺ができることはたった一つ。陽動や。目立つ動作で駒池を引き付け、味方を活かす。
「始まるぞ。最後まで走れよ」
沖さんが立ち上がって言い放った。引き続きメンバーは沖、土居、冷前、三上、舜也が出る。
ブザーが鳴り、第四ピリオドが始まった。
今度は駒池のスローインからスタートだ。ボールは荒橋がドリブルをついて運んでくる。江清のコートに入るとすぐに荒橋は九番にパスを送った。荒橋と舜也が一メートルに満たない距離で対峙する。隙あらば、舜也はまたパスカットに飛び出すつもりだった。
しかし、何かが前と違う。
荒橋はゴールから斜めのスリーポイントライン上で待機するだけでほとんど動こうとせず、他の駒池のメンバーも荒橋がいないかのようにパスを回しあっている。荒橋をあえて省く作戦かと思いきや、いきなり荒橋がフリースローラインに向かって駆け出した。
いかすか!
舜也も全速で食い下がる。
フリースローラインの近くでパスを受け取った荒橋は、そのまま構えてシュート体勢に入った。
この距離ならギリギリボールに手が届く。
そう確信した舜也は、両足に力を込めて全身全霊で跳躍し、手の指先を天井につかせようとするかのようにピンと伸ばしてシュートコースを塞いだ。その途端、荒橋は舜也をかわしてドリブルをつく。
シュートフェイント。
すでに空中へ跳び上がってしまった舜也には、荒橋をただ横目で追うことしかできなかった。ゴールへ猛進する荒橋の前に、冷前が立ちふさがる。荒橋は跳躍してから真横にパスを出し、ミドルエリアで待機していたニキビ顔の八番が受け取ると、そのままシュートを放った。ボールはリング内を通過する。
五十三対三十九。十四点差だ。
「玉崎! ボールをミートするときはちゃんと両足で着地しろ!」
横岸監督の指示が跳び、シュートを決めた八番が「はい!」と返事する。
「すいません」
失点の原因を作ってしまった舜也は、冷前先輩に謝った。
「気にすんな。オフェンスだ」
冷前先輩がサラリと答える。




