12番
江清VS駒池。練習試合当日。
今日の試合は江清中学の体育館で行われることになった。
引退してからも三日おきに練習に参加しに来ていた沖〝元〟キャプテンは、朝早くから登校して黙々とシュートを打っている。シュートフォームの綺麗さと高い成功率は相変わらずで、少しも勘が鈍ったように見えない。
一年生が中心となってイスやオフィシャル道具のセッティングを終わらせると、全員が集められて九間先生からユニフォームが配られることになった。今日は沖さん以外の三年生は来ていないので、舜也たち一年生もベンチ入りするチャンスは十分にある。キャプテン番号である四番は、土居がつけることになった。副キャプテンの冷前先輩が五番。沖さんが六番。そのあと二年生が続いて十一番になったとき、広宣の名前が呼ばれた。
「広宣、前へ」
「はい」
一年生が羨望の眼差しを送った。九間先生が説明するまでもなく、一年生の中で広宣に一日の長があるのは明々白々だ。一年生の中どころか、土居たち二年生のレギュラーメンバーと比べても実力は引けを取らない。弱点といえる弱点がなく、平均的な実力の高いフォワード。広宣ならスタメンで出場してもおかしくないと誰もが認めるところだった。
舜也はまだ試合に出てもいないのに心臓が早鐘を打った。普段の練習を見る限り、広宣の次に上手いのは自分やと思う。練習後の自主練フットワークも広宣と共に欠かさずやっているし、広宣のペアを組んで先輩たちと二対二を戦うことも多い。しかし、身長から春吉や浦瀬が選ばれるかもしれない…。
「十二番、樋川」
自分の名前が呼ばれたとき、舜也の心の中にはただただ安堵感が広がった。「はい」と返事してユニフォームを取りに行き、先生から受け取る。手にしたのは夏の空を思わせる鮮やかな青色だ。ナイロン製独特の手触りが妙に心地いい。そして羽を拾ったように軽い。十二番という番号にこだわりはなかった。何番だっていい。ただこのユニフォームを取れたことが嬉しくて、舜也は何度も心の中でガッツポーズをした。
高角春吉と浦瀬もそれぞれ十四番と十五番のユニフォームを手渡され、最後の十六番を長塚が受け取った。とりあえず今日の試合では一年生四人が新チームの一員としてベンチ入りすることになる。
ミーティングが解散した後、舜也たちの周りに他の一年生が寄ってきた。
「おめでと。頑張ってな」
そう激励してくれたのは滝津裕介だ。「ありがとう」と舜也も素直に答える。
「試合に出てもビビッて漏らすなよ」
ETがニヤニヤしながら茶化してくると、舜也は「パンパース履いてるから大丈夫や」と切り返した。
一年生たちが騒いでるその横を、丸顔の二年生、ドヴォルザークこと山田が静かに通り過ぎていった。一年生が四人ベンチに入った代わりに、二年生の九人がユニフォームをもらえず、二階のギャラリーで応援することになる。ベンチ入りできなかった山田の後ろ姿を、土居だけが複雑な表情で見つめていた。
駒池は九時半になったとき現れた。
体育館の入り口に総勢三十人が一列に並ぶ。
「整列!」と声を掛けたキャプテンの荒橋が、続けて体育館のどこにいても聴こえる大声を張り上げた。
「気をつけ! 礼!」
駒池選手たちが一糸乱れぬ動きでお辞儀する。
「よろしくお願いします!!」
体育館を揺らすような気迫だった。選手たちはすぐに二階へ上がり、最後に体育館に入った横岸監督が真っすぐステージ上へ歩いてくる。
駒池が目の前に現れた瞬間、舜也の中でメラメラと闘争心が燃え盛った。怖いという感情以上に、勝ちたいという思いが強く湧いてくる。