ガード
翌日から、本格的に新チームの練習が始まった。といっても二対二や三対三といった集団練習ではなく、ポジション別に分けた個人練習が主だ。舜也はガード、広宣はフォワード、一年生の中でも身長の高いETや高角春吉はセンターに区分けされ、先輩たちと合同で練習を組んだ。
「ガードの基本的な役割はボール運びだ」
ガード陣を担当するリーダーの三上が言った。
「自分のコートから相手のコートにボールを運んでパスを出して攻めを指示する。オフェンスでもディフェンスでもゴールから最も遠い位置にいるから、全体の様子を観察して試合を組み立てるのも仕事だ。だからガードはよくコート上の監督って言われる。ちなみにリーディングガードとか呼ばれたりするけど意味は全部一緒な。バスケ連中にはよく一番のポジションって言われる」
三上は一年生の中の小林憲一に指を差した。
「はい質問。バスケのオフェンスにおいて一番理想的なシュートって何だ?」
「え…」
小林がまごつきながら考える。
「え、ええと…」
「ブー。時間切れ。答えはできるだけゴールの近くから打つシュート、だ。シュートはゴールから遠ざかるほど成功率が下がる。だから俺たちガードの仕事は、いかにセンターにパスを送るかが鍵といっても過言じゃない。あ、センターってのは健吾たちのポジションのことな。ゴール下にいるデカイやつら。でだ。オフェンスの最高の方法はセンターにフリーで打たせること。そのためにパスを回したりしてディフェンスをかき乱すんだけど、反対にディフェンスでの理想の形は何だと思う? 舜也」
舜也は頭を働かせた。センターにシュートさせるのが理想の戦法。ということはそれをさせないのが最高のディフェンス。そしてゴールから遠ざかるほどにシュート率が下がることを考えれば…。
「センターにパスを通さず、相手チームにスリーポイントばかり打たせること、ですか」
「お、正解。難易度の高いスリーをできるだけ打たせるのが究極のディフェンスになる。もうわかると思うけど、ガードに必要なのはドリブルテクニックとパスを通す視野の広さ、そして戦術を考える頭だ。この三つうち今からドリブル鍛える練習をやる」
三上はコートの一直線上に小さなコーンを並べた。二十センチぐらいの高さのコーンで、間隔は一メートルもない。
「やることは単純。このコーンを倒さずに右へ左へ交わしながらなるべく早く抜け切るだけだ。まずは両手を使ったドリブルチェンジからいくぞ。見てろよ。初めはゆっくりやるからな」
三上がドリブルをつき、コーンを避けながら左右に動いていった。方向転換するときはボールを右手から左手へ移す。十メートルほど進んだところでコーンが終わり、三上が振り返った。
「一回目はゆっくり進んで、往復で帰るときに全速を出す。じゃ一列に並んでやってこう」
三上指導のもと、二年生三人一年生四人の計七人がコーン避けに取り組んだ。両手を使ったドリブルだけでなく、右手だけや左手だけのドリブル。体を一回転させるバックターン、股を大きく広げてその間にドリブルをついて進むレッグスルー、ボールだけ自分の背中側を通すバックチェンジなど、多彩なドリブルを最速スピードに乗せて操る。まだ技術の拙い一年生はどうしてもコーンと接触してしまい、途中で何度も中断させた。
「速さよりもまずは安定感を重視しろよ」
三上が言った。
「第一の目標はコーンに触れないこと。スピードだけあってもドリブル力が低いんじゃ試合で相手にミスを誘われちまう。逆にスピードがなくてもドリブル力が高いなら勝負仕掛けれるからな。ガードのドリブルに求められるのは安定感、キープ力だ!」
往復を重ねるごとに、全員がドリブルよりも息を弾ませて汗を流した。高速スピードでの細かい方向転換は脚にかなりの負荷がかかる。ドリブル版のフットワークといえるハードな練習だ。