チーム目標
三年生が引退して初めての練習日となった火曜日は、男子バスケ部のローテーションが体育館から外れる日で、二年生、一年生は九間先生とともに空いた教室でのミーティングとなった。
九間先生が授業と同じように教壇に立つ。
「新チームのキャプテンは土居、副キャプテンは冷前に務めてもらう。二人とも、前へ出て抱負を述べなさい」
まずキャプテンの土居が語った。
「沖さんは、俺ら二年にとって最高の先輩だった。俺が目指すのは沖さんの練習法を受け継いで、沖さんの時代を超えるチームを作ることだ。それが尊敬する先輩に対する一番の感謝だと思ってる。江清を強くしようぜ。以上」
二年生と一年生が拍手を送った。冷前渡先輩が一歩前へ出る。
「健吾の話を補足すると、俺らの目標は過去最高の記録である県ベスト16よりも上へ進むことになる。記録は振り返るためにあるんじゃなく、超えるための目印だ。俺は、今のメンバーならかなりいい線まで行けると思ってる。今日から一年間、よろしくな」
再び拍手が送られ、九間先生が言った。
「では、目指していた総体が終わったところで、新たな目標決めを行ってもらう。一年生に説明すると、男子バスケ部では節目ごとに達成したい目標を部員自身が決めることにしている。県大会優勝でもいいし、全国大会出場でも構わない。自分たちで決めて、自分たちで取り組むんだ。君たちが決めた目標に届くよう、私は最大限助力していく。では土居、頼む」
「はい」
冷前先輩は自分の席へ戻っていった。
「まずは今後の今年の公式試合を書いてくぜ。一番近い公式戦は、八月末にある市内での新人戦」
土居が黒板に日付と新人戦と書いた。ガサツな性格には似合わない達筆だ。
「次にあるのが十月後半にある県の新人戦だ。去年、俺らがベスト16まで進んだ大会な。十二月には冬季大会があるんだが、まずは決めんのは今年の目標だな」
土居が振り返った。
「俺の提案は、十月の県新人戦でベスト4に入ることだ。もし他の目標を掲げたいやつがいるなら今言ってくれ」
二年生も一年生も何も言わなかった。
まあ異論はないわな、と土居は思う。実は以前の目標決めでも、県ベスト4を掲げ、先日の総体に挑んだのだ。去年の秋の新人戦で県ベスト16まで進んで以来、冬季、春季、総体とこの目標がずっと据え置きされてきた。今回もこの目標で決まりだと土居が思ったそのとき、一年生の中から手が挙がった。舜也だ。
「言ってみ、舜坊」
「はい。僕は駒池に勝ちたいです」
二年生が一斉に舜也を見る。
「最初に駒池とやるのは八月の市内新人戦ですよね?」
「まあ、そうだ」
「じゃまずは、市内大会優勝を目指しませんか?」
「一年がしゃしゃり出てくんじゃねえよ」
キツネ顔の不亜先輩が怒気をはらんで言った。九間先生がたしなめる。
「不亜。これからは一年と二年が合わさったチームになるんだ。目標を決める資格は一年生にだってある」
不亜先輩は不服そうな顔をしながらも押し黙った。土居が複雑な表情で舜也を見つめる。
「この市内大会で優勝したところで県にはつながんねえ。はっきりいや新人チームの実力試しと、経験積ませるための大会だ。それでもこの日に向けて練習を調整していきたいって言うんだな?」
「はい。駒池に勝つことも、沖キャプテンの目標の一つだったと思ってます」
舜也が即答した。土居が二年生に向かって尋ねる。
「反対意見あるか?」
誰も何も言わなかった。反対どころか。
「俺も賛成だ」
そう言ったのは冷前副キャプテンだ。
「なんだかんだいって駒池にずっと負け続けてるのは悔しいしな。たまにはあいつらにも二位の座を味わわせてやりたい」
少し迷ったが、土居が確認した。
「それじゃ、まずは八月末にある市内大会で優勝する。その後また新たに目標決めをする。これでいいな?」
全員がコクリと頷いた。
「先生、決まりました」
「わかった。私も全力で支援していく。今日からが新チームの始まりだ。もし練習が辛いと感じたときは市内大会優勝の目標を思い出すように」
「はい!」
舜也はひときわ大きな声で応えた。




