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神様

 午前中に行われた江清こうせいチームの試合は、七十六対三十七で江清の大勝に終わった。前々から聞いていた通り、市内の中では江清は相当強い。続く第二試合、第三試合も圧勝し、江清は予選リーグ三戦全勝して明日の決勝トーナメントに臨むことになった。


 先輩たちの試合の応援が終わると、舜也しゅんやは本日最後の試合のオフィシャルスタッフに割り当てられ、ETと共にコート上に降りていった。オフィシャルするのは女子の試合だ。しかも江清の女子バスケの三回戦目で、舜也がギャラリーを見上げると宮原愛華みやばらあいかが手すりに寄りかかって応援していた。遠くから見ても可愛さがはっきりわかる。


 うちの女子バスケの実力がわかるわと思っていた矢先、プロレスラーのような体躯の審判が目の前に来て舜也の表情が凍りついた。

 駒池こまいけ横岸よこぎし監督。

 広宣ひろのぶが言ったとおり左胸には他の審判にはない紋章がついてある。たぶん一級審判の証だ。


 横岸監督が審判すると知ってオフィシャル席にただならぬ緊張感が張り詰めた。メダカのいる水槽の中に一匹のピラニアが入ったようなものだ。舜也が担当したのは二十四秒を測る係で、横にはETが試合進行の声を上げる記録係として座った。


 午後五時前に試合が始まる。

 攻守が入れ替わる度に二十四秒を測り直す舜也は、前半を終えるまで特にミスすることなく役目をまっとうできた。横岸監督の審判として働きぶりもごく普通のものだ。第三ピリオドが始まってすぐに江清女子の選手が二つ目のファウルを重ねたとき、横のETが立ち上がって個人ファールとチームファールの数を告げた。


「二回目。トータル六」


 すると、横岸監督が怪訝な顔をしてオフィシャル席に近づいてくる。


「チームファウルは五回目じゃないのか?」 


 横岸監督に見下ろされ、ETが慌てて手元の紙を見た。


「あ、五回目です。すいません」


「もう一度申告してくれ」


 横岸監督が背を向け、コートに戻っていく後ろを、ETが再度「二回目。トータル五」と告げて座った。


「大丈夫か、ET?」


「ああ、ミスった。冷や汗流れたぜ」


「もう少しや。頑張ろ」


「おう」


 その後はお互いミスはせず、舜也がずっと測っていた二十四秒も結局両チーム一度もバイオレーションすることなく試合が終わった。結果は六十三対四十で江清女子が敗北。試合終了の挨拶が聞こえたとき、舜也は思わず手足を伸ばして背伸びした。


「は~疲れた」


「お前はただ座ってただけじぇねーか」


「そやけどな。緊張したわー」


 ホッとしながら机の上の後片付けをしているとき、横岸監督が突然目の前に現れた。


「あー、君」


 声を掛けられたのはETだ。軍隊の兵士のようにETが直立する。


「はい」


「いい声出してたな。かなり聞き取りやすかったぞ」


 予想外の言葉にETが噛んだ。


「あ、ありがとうございます」


「明日も頼む」


 そう言って、熊が森に帰るがごとくノッシノッシと横岸先生はステージの方に去っていった。


「ETすっげー! あの監督から褒められたやん!」


「あ、ああ…」


 ET自身、信じられないといった顔をしている。


 見るからに恐ろしい横岸監督から称賛されたことは瞬く間に江清一年生の間に広まり、帰りの自転車の中で、ETは〝オフィシャルの神様〟と崇められるようになった。


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