宮原愛華
いいなあ。男子って。
中学校に入ってから約一ヶ月。宮原愛華は最近、よくそんなことを考えた。
小学校ではミニバスはなかったけど、ずっとバスケットがやりたくて、仲のいい友達の沢野小春と一緒によく体育館で遊んでた。中学校にあがったら絶対バスケット部に入部して試合に出ようって練習してたんだけど、憧れていた女子バスケット部は、勝つために頑張る部活じゃなかった。今も二年生でレギュラーの北野先輩が言う。
「ね、恭子。この間行ったお店、どうだったの?」
「んー、値段が高いわりに少し古い服ばっかりだったかな。でもアクセサリーは良かったよ。あとでブローチ見せてあげる」
恭子先輩は悪びれることなく話に乗ってきた。今はツーレンの練習中なのに。
他の先輩も似たり寄ったり。どの練習も形ばかりは取り組むけれど、どこか流れ作業的で熱意も薄い。練習が始まった直後はみんな真面目でも、集中力が切れて一人でもおしゃべりを始めたらあとは雑談のオンパレードになる。
先輩たちとの仲はいい。あたしたち一年生にも積極的に話しかけてきてくれる。でもなんというか、汗をかいて全力で走って試合で勝とうねっていう〝空気〟じゃない。私たちがやっているのはただの部活。勝てればいいけど勝つために苦労するのはちょっと違うよね。ダイエットの一環としてスタイルが保てればそれでいいじゃん。そんな空気が女子バスケの根本を流れてる。真面目に練習したいあたしや小春をはじめとする同級生は毎日戸惑ってばかりだ。
本気でバスケットがやりたいあたしたち一年生はどうしたらいいんだろう?
練習ですぐに手を抜く先輩に意見した方がいい?
顧問の先生に訴える?
でもそれで、今の仲のいいこの関係が壊れしまったらと思うと、とても怖くて言い出せない。
急に、男子バスケ部のコートからキャプテンの声が聞こえてきた。
「十分間休憩。一年生は今の間シュート打っていいぞ」
よっしゃあ、という言葉と共に一目散に小さい体の樋川君がボールを持ってコートに入る。後に続く沖君たちも負けじと小走りだ。限られた短い時間の中でも、誰もが上手くなりたいと思ってシュートを打ってる。樋川君の声が聞こえてきた。「オッキー、ジャンプシュート打つときってもうちょっと膝を曲げた方がええかな」。それを受けた沖君は自分のシュートを中断してまでアドバイスしだした。
いいなあ、あの単純さ。
一生懸命になれるのが当たり前で、周りの人も自然と受け止める。熱血は馬鹿っぽいってよく言われるけど、今のあたしには凄くうらやましい。特に言動が活気に溢れている樋川君には、自然と目が向いてしまう。
樋川君のあの行動力って、ちょっとカッコいいなって思う。




