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二十三期生 三大美人

 週が明けた月曜日。


 この日は曇り時々雨の予報で、朝登校したときから今にも降り出しそうな曇天がずっと続き、昼時ぐらいからついに小雨が降り始め、部活が始まる時間には本降りとなっていた。サッカー部と野球部の部員が屋内での筋トレに励んでいるのを尻目に、舜也しゅんやはETと広宣ひろのぶとともに談笑しながら体育館へと急いでいた。早めに体育館へ行き、ゴールを用意すれば、練習が始まる前に一年生でもシュート練習をしていい許可が下りているからだ。今日は早めにホームルームが終わったので、いつもより長くシュートが打てる。


 瞬く間に着替え終えると、舜也は一人で体育館に突入した。今日は入り口側のコートを男子バスケ部が使い、ステージ側を女子バスケ部が使うローテーションになっている。男子では舜也たち三人が一番乗りだったが、女子の方ではすでに数人が見えた。

 舜也は体育館入り口横の用具室へ向かった。バスケットボールが入っているボールかごや得点板などは全てこの用具室に収められている。舜也は勢いよく用具室のドアを開けた。


「とっりゃっさ!」


「きゃっ!」


 誰もいないと予想していた用具室に女子の声が上がり、舜也は驚いた。見ると、開け放ったドアのすぐ近くに女子が一人いて、驚いた顔で舜也を振り向いている。


 舜也はこの女子を見たことがあった。一度も会話したことはないが同じクラスの生徒だ。さらさらとした髪が首の途中まで伸びているショートカヘアーで、まつ毛が長く、鼻筋が整っていて、竜宮城の乙姫といえるような雰囲気がある。よほど驚いたのか、女の子は胸に手を当てていた。


「びっくりしたー」


 春を思わせる綺麗な声だった。


「俺もびっくりしたわ。でもま、驚かせてすまん。女子バスの子やんな?」


「うん。うちの部で使うボールかごが欲しいんだけど…」


 女の子が用具室の中に視線を送った。目の前には得点板があり、得点版の後ろに男子バスケ部が使うボール籠があり、その後ろにロール状になったマットがあって、そのさらに後ろに女子バス用のボール籠がある。


「なんや、取れへんのか。ちょっとどいといて」


 舜也は得点板を一旦用具室から出すと、男子バスケ部が使うボール籠を邪魔にならないよう端にやり、マットに拳をめり込ませながら横へ倒し、女子バス用の籠を引っ張り出した。


「ほいさ」


「あ、ありがとう」


「こんなもん、お礼言われることでもないわ」


 舜也は横倒しにしたマットを蹴りながら元に戻す。


「来週の市内大会、女子バスも駒池こまいけ中でやるんやろ? 女子バスってどーなん? 強いん?」


 女の子は腕を組んだ。

「ん~そんなに強い方じゃないかな。男子は市内じゃかなり強いみたいだね」


「うん。昨日練習試合やってきてんけど圧勝やったわ。まあ、女子バスも弱いんやったらよかったやん」


「え? どうして?」


「はじめが弱ければ段々強くなっていく楽しみあるやろ。それにレギュラーも取りやすいやろうし」


 女の子は意外そうに目を見開いた。


「そう…簡単にはいかないよ」


「そうなん?」


「うん…いろいろあるし…」


「ふうん。ま、バスケ部同士、お互い頑張ろや」


「うん。あ、カゴ取ってくれてありがとう」


「だから礼はいらんて」


 女の子は笑って籠を押し、用具室から出て行った。モデルみたいな可愛い笑顔やな、と思いながら舜也もカゴを押し出す。用具室から出たところで、リングの準備を終えた広宣が駆け寄ってきた。


「今、宮原みやばらさんと話してたのか?」


「ん? ああそうやけど。宮原さんやったか。名前は忘れてたわ。同じクラスの女子やんな?」


「そうだよ。良かったなあ。三大美人の一人と話せて」


「三大美人?」


「ああそっか。転校してきて知らないんだよな。ウチの学年には小学校からずっと三大美人って言われている女子たちがいるんだ。今のがその一人で宮原愛華みやばらあいか。あと三組に姫野香澄ひめのかすみ、四組に緒富心乃おとみしんのって子がいる。俺ら二十三期生の三大美人はこの三人で決まりってのが男子全員の共通認識だよ」


「へえ。確かにむっちゃ可愛かったな」


「正直な話、宮原さんが女子バスに入部したからバスケ部に来たって男子も何人かいるんじゃないかな」


「アイドルの追っかけかい。三大美人の他二人は何部に入ったん?」


「ええと姫野が女子テニスで、緒富が吹奏楽だったと思う。今度三組と四組に行ってみれば? クラスの中でダントツに可愛い女の子がいたらそれが三大美人だから」


「興味あるわ。教えてくれてサンキュー」


 広宣が親指を立ててサインを送り、舜也も同じ手を作って応えた。

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