勝敗
試合はその後も江清が脅かされることなくどんどん差を広げていった。舜也が見た限り、うちのチームの基本的な戦法は相手コートに進んでから長身選手である土居さんか冷前先輩の二年生コンビにパスを送り、二人がポストプレイで決めるものだ。
もちろん二人だけでなく、状況次第で沖キャプテンがミドルシュートを放ったり、不亜が一対一を仕掛けたり、あるいは神林副キャプテンがスリーポイントを放ったりもして相手チームを翻弄する。安須東は一度タイムアウトを取ったものの、再開してからも状況を好転させることはできず、第一ピリオド終了を告げるブザーが体育館に鳴り響いたときには、二十八対十一の差で江清が勝っていた。
「あれ? もう十五分近く経ってるやん!」
舜也がステージ横の時計を見て驚いた。試合時間は八分だけだったのに、現実の時計は試合開始からすでに十五分を回っている。隣にいた広宣が答えてくれた。
「試合時間自体は八分かける四ピリオドの三十二分だけど、タイムアウトとかチャージングの度にタイマーを止めるから、一試合が終わってみると一時間経過してたとか普通によくあるんだ」
「へえ」
二分間のインターバルが終わり、相手のスローインから第二ピリオドが始まった。
試合はその後も波乱なく進み、江清優勢のまま安須東の間には大差がついていった。安須東の選手たちも頑張っているが、江清に技術で勝っている選手は一人もいない。その江清も、特に三人の選手が突出しているとわかった。普段の練習から察していたことだったが、シュート力、ディフェンス力など総合的に最も上手いのが沖キャプテン。そこから少しランクが下がったところにいるのが土居と冷前先輩だ。土居のプレーは荒々しく気迫溢れるもので、冷前は痩身の体を活かしたスマートな印象を受ける。この三人のプレーが試合を大きく動かし、江清の優位を揺るぎないものにしていた。
試合開始から現実時間で一時間十分後、ついに試合が終了した。八十対三十九で江清の勝利。江清の圧勝だ。
「ようし、一年生! フロアに下りるぞ。オフィシャル覚えてもらうからな」
山田先輩に指示されて舜也たちは黙々と下りていく。
自軍のベンチを通ってオフィシャル席に行くとき、舜也は横目でパイプイスに腰掛け休んでいる土居さんたちを眺めた。火照った体からうっすらと蒸気が上がり、額から汗が流れているのが遠目でもわかるが、苦しい表情は一切なく、水分補給しながら談笑している。なんかよくわからないが…カッコいい。
ジャンケンした結果、舜也はオフィシャル席の対面にある得点係の担当になった。オフィシャル席はスペースが狭いので一年生たちは五人だけがテーブルに座り、二人の二年生から操作を教わる。他の一年生は先輩たちのシュート練習のボール拾いにあてがわれ、二回目の試合が行われる時間がくると、再び応援のためにギャラリーへ戻っていった。
江清対安須東。本日二回目の試合。
両チームとも大幅に選手を入れ替え二試合目を迎えたがやはり江清の圧倒が続いた。二階のギャラリー席と違い、選手が間近で見られる得点係の位置は、試合の熱気が直に伝わってくる。
「スクリーン! 右!」
「逆サイ!」
「ポスト入った!」
どんな掛け声にも、一瞬たりとも気は抜けない緊張感がこもっていた。コート上の十人が右左へ走るたびに振動がパイプイスを通して内蔵にまで響いてくる。少し怖い気持ちも出てくるものの、舜也の奥底では興奮が渦巻いた。
やばい。俺も試合に出たい。
選手がファウルをしたとき、タイマーが止まってオフィシャル席にいたETが立ち上がり、声を張った。
「二回目。トータル四」
ETはすぐに座り、業務を続ける。めっちゃ様になってるやんと舜也は舌を巻いた。
試合は一回目に引き続き、江清の大勝で終わった。スコアは八十五対二十三だ。
舜也は得点ボードを〇対〇に戻してイスから立ち上がった。先輩のボール拾いを手伝うのかと思ったとき、土居がギャラリー席に向かって声を上げたのが耳に入った。
「一年! 下りて来い! 試合やっぞ!」