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先輩たちの実力

 ランニングシュート、パス回し、シュート練習と、比較的軽いメニューをこなして暖機運転だんきうんてんを済ませると、先輩たちはベンチ入り組みと応援組みに分かれ、ベンチに座れない先輩たちはギャラリーへ上がることになった。一年生も応援組みに連れられて上へ移動する。


 ギャラリーに上がると、一向は横一列に並んでコートを見下ろした。


「一年生! 今日、君たちに覚えてもらうことは二つある」


 ドヴォルザークこと山田先輩が一年生の後ろに回って言った。ちなみにドヴォルザークは言いにくいので、主に同級の二年生からはザクと呼ばれるようになっている。


「一つは応援の仕方。もう一つはオフィシャルだ。ベンチに挟まれた間に機械の乗ったテーブルがあるだろ?」


 一年生が目を向けると、確かにテーブルはあった。相手チームの四人が座り、機械の動作チェックをしている。


「あそこで試合時間を止めたり、二十四秒を測ったり、ファイルをカウントしてる。見ての通り試合の補佐だ。後で俺らがやる番が回ってくるから、そのとき覚えてくれな。で、応援の仕方は今から教えるぞ。江清こうせい中学男子バスケ部伝統の応援フレーズだ」


 山田先輩から一通りの応援のやり方を教わったときには、すでに両チームともベンチに待機してミーティングに入っていた。コート上には誰もおらず、場の空気が眠っているようにやけに静かだ。江清の九間くま先生がホワイトボードに何かを書きながら選手に指示している。


 舜也しゅんやたち江清中学のユニフォームは白地のユニフォームだ。襟や腕の淵は青色の線で描かれ、胸に英語でKoseiのデザインが施されている。対して相手チームの安須東あずひがしは正式なユニフォームではなく、Tシャツの上から着れるゼッケンユニフォームだった。全体は緑色を基調としているので、白対緑の構図になる。上から試合を見る分には選手の区別がしやすい。


「始まるぞ」


 山田先輩が誰ともなく言った。相手チームのコーチと見られる中年の男が審判を勤め、センターサークルを境にして両チーム五人が整列する。江清中学のスタメンメンバーはおきキャプテン、神林かんばやし副キャプテン、土居どい冷前れいぜん不亜ふあの五人だ。


 審判が合図を送り、選手たちが一礼した。


「お願いしますっ!」


「いくぞ。せーの…」


 山田先輩が音頭を取り、舜也たちは手拍子を加えながら声を張り上げた。


「ジャンプだ健吾けんご! ジャンプだ健吾! ジャンプだ健吾…」


 健吾こと土居健吾どいけんご先輩は、センターサークルに入っていった。相手チームの一番背が高い人も同じくサークル内に入る。二人の身長は五センチほど土居が上だ。他の選手もそれぞれセンターサークルの円の周りで臨戦態勢を整える。審判が土居たち二人の間に立つと、手に持っていたボールを二人の真上に放り投げた。


 土居と相手チームの選手が同時に真っすぐ上へ跳躍する。かなりの差で土居の手が先にボールに触れ、円のすぐ外で待ち構えていた神林にボールが渡った。オフィシャル上のタイマーが動き出す。試合開始だ。


 神林はドリブルをつきながらゆっくりと相手チームのコートに入り、すぐに沖キャプテンにパスを送った。キャプテンも少しずつ移動してゴールから真っすぐ離れたスリーポイントラインの外に来る。相手チームは一人一人にマークマンをつけるマンツーマンディフェンスだ。キャプテンの前にも五番のゼッケンをつけた選手がマークしている。


 沖キャプテンは船上から地平線を見渡す船員のように、ゴールから最も遠い位置で各選手の動きを見極めていた。と、相手チームの台形エリア内で土井が手を上げてボールを呼び、すかさずキャプテンがパスを送る。体の正面でパスを受け取った土居は、ちょうど台形エリア内の真ん中でゴールに背を向けた体勢となった。


 土居が肩越しに首だけ右を振り向く。マークしていた選手は、右に抜いてくると思ったのか、ほんの少し右側に動いた。途端に土居さんが左足を軸にして体を反転させ、相手の左側から抜きにかかる。首振りフェイントに引っかかったマークマンを抜き去り、カバーに来た他の選手をものともせず、ゴール下でレイアップシュートを決めた。江清の先制点だ。


 ボールがネットを通過するのを見て、舜也たち応援団がワッと騒ぐ。


「いいぞ健吾! いいぞ健吾! 健吾! 健吾! もう一本!」


 山田先輩が一年生の列に向かって解説した。


「今の健吾のプレーがポストプレイな。相手コートの台形エリア内でゴールから背を向けた形でボールをもらって勝負していく。ゴールに近いところをローポスト、少し離れた位置をミドルポスト、フリースローラインぐらいまでゴールから遠いところはハイポストっていう」


 安須東チームがスローインからコートにボールを入れた。江清もまた、相手と同じくマンツーマンディフェンスだ。舜也たちは少し声を低くして唸るように声を出す。


「ディーフェンス、ディーフェンス、一本ディーフェンス…」


 安須東が自分のコートから江清側のコートまでドリブルを進めてきた。攻め側の安須東チームは台形エリア内の選手にパスを回したいのだろうが、江清のマークがきつく、スリーポイントラインに近い外側をパス回しするだけで、攻めあぐねている。やっとのことで先ほどの土居と同じような形で台形エリア内に入った長身選手の六番にパスが通った。マークしているのは江清バスケ部で最も背の高い冷前渡れいぜんわたる先輩だ。六番はゴールに背を向けた体勢で、ドリブルをつきながら隙を窺う。しかし、冷前の手は常にゴールとの間を遮り、マークを外さない。強引に切り込んだ六番は、マークが外れていない状態から冷前の手の間を縫うようにシュートを放ったものの、シュートはリングに当たって外れた。そのリバウンドを土居が取る。


 攻守逆転。

 土居が近くにいた神林にパスを送り、再び江清が安須東の陣地へ攻め入る。ボールが回ってきたキャプテンがドリブルをついているとき、突然、外側から台形エリア内へ獲物を襲う鷹のように不亜が切り込んだ。キャプテンが絶妙なパスを出し、不亜が走りながら受け取ってゴール下でレイアップを決める。

 四対〇。

 再びギャラリーが盛り上がった。誰が見ても江清が優勢だ。

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