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告白

 新学年が始まってから三日目を迎えた今日、江清こうせい中学校では本格的な授業が始まる。といっても新入生にたいしてはいきなり教科書を開いた授業をするのではなく、各担当教科の先生方が自己紹介や宿題の説明などして、また理科室や家庭科室の案内などのオリエンテーションもあったので、結局生徒たちは一つも文字を書くことなく終わりのホームルームを迎えた。


「よし、ではこれから部活動の申込書を渡すぞ」


 一組の担当である九間くま先生が声を張ると、にわかに生徒間同士でざわめきが広がった。


「生徒は必ずなにかしらの部活動に入ること。もしどうしても部活動に入れない事情がある場合はあとで先生のところまで来るように。それと、部活動見学期間は今週一週間なので、申込書の提出は来週の月曜が期限だ」


 各自に申込書が行き渡るのを見届けると、以上をもってホームルームは終了となった。生徒たちは解散後もすぐには教室を出ず、仲のいい同士が部活を何にするかで盛り上がっている。九間先生が教卓の上で出席簿を整えていると、目の前に樋川舜也といかわしゅんや沖広宣おきひろのぶがやって来た。


「先生、申込書いま出します」


 沖がすでに自分の名前を書いた申込書を手渡す。部活動の欄には、バスケットボール部とあった。


「わかった。頑張れよ。ついでにお兄さんに伝えといてくれないか。今日も会議があるんで練習には顔を出せそうにないって」


「わかりました。伝えておきます」


「先生、俺もいま出します!」


 広宣の横に立っていた舜也が同じく申込書を提出した。九間先生が驚いたことに、舜也もまたバスケットボール部と書かれてある。


「君もバスケ部に入るのか?」


「はい」


「本当にいいのか? 部活見学は今日から一週間もあるんだぞ? 他の部を見てから結論出してもいいんじゃないか?」


「いえ、もう決めました。俺バスケやります」


「…わかった」


 申込書を提出すると、二人は喋りながら教室を出て行った。九間先生が不思議に思いながら舜也の小さい背中を見つめる。あれだけ陸上部に固執していたのに、この三日間に何があったのだろう?

 一組の教室を出たところで、二人の男子生徒が廊下で沖広宣を待っていた。


「よ。これからバスケ部の見学に行くべ?」


 二人のうち、ひょろひょろとした線の細い方が沖に声をかけた。面長の顔が特徴的だ。


「ああ、行くよ」


「そいつは? やっぱりバスケ部に入るやつ?」


 二人のうち、もう一人が興味深げに沖から舜也を見てきた。おでこの中央にあるホクロが特徴的だ。


「うん、この春に大阪から転校してきた樋川舜也。俺がバスケに誘った」


 沖が振り返る。


「舜、こいつらもバスケ部に入るやつらで、こっちが長塚ながつか、こっちが浦瀬うらせ。俺ら三人ともよく小学校の頃から休み時間にバスケで遊んでたんだ」


「よろしくな」


 長塚と紹介された面長の生徒が笑いながら手を挙げる。おでこにホクロの浦瀬も軽く会釈した。


「俺こそよろしく頼むわ。樋川舜也。舜でええからな」


「おお…関西弁だ」


「すげえ」


 お定まりの関西弁トークが始まりかけたところで、広宣が言う。


「俺、ちょっとトイレ行ってくるから先に体育館行っといて」


「オッケー」


 舜也、長塚、浦瀬の三人は体育館へ向かって歩き出した。長塚が舜也に話しかける。


「俺も、小学二年まで父さんの会社の都合で兵庫に住んでたんだ」


「へえ、じゃあ阪神ファン?」


「当然」


「同士や」


「その代わり、もう関西弁は忘れちまったけどな」


 不意に浦瀬が足を止めて窓の外を見つめた。長塚が立ち止まった浦瀬に気づく。


「どうしたウララ?」


「その呼び方はやめろ。…あれ、何だと思う?」


「あれって…」


 舜也と長塚が浦瀬の向いてる方向へ目を向けると、ちょうど体育館の裏へ向かって一組の男女が歩いてくところだった。男性生徒の方は部活中らしく、学校指定の体操着ジャージ姿だ。やがて二人は体育館の裏へと消えた。


「…高確率で告白じゃね?」


「だよな」


 長塚と浦瀬が顔を見合わせ、ニヤける。長塚が舜也を振り返った。


「ちょっと寄り道していかね?」


「ええよ」


 舜也もつられてニヤリと笑った。


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