日々 -2日目 売れないミュージシャン-
毎週毎週、SNSで呼びかけ、色んな場所へ行き路上ライブをしている。
2年ほど前に上京してから、変わり映えのないそんな日々を過ごしていた。
"今週の金曜日 下北沢駅前で"
2000人ほどのフォロワーへと
Twitterで呼び掛けても
『見に行きたかったけど行けないや』
『行けたら…』
なんてリプばかりだ。
「行けたら行くって、絶対来ないだろうな」
まだまだ売れないこんな俺を見つけて、応援してくれるのは凄く嬉しい。
けど実際、行けたら行く程度の言葉は悲しいものだった。
2年前。
歌う事が好きで、周りからも褒められ、
将来は武道館だな!なんて田舎の友達に持ち上げられ期待されて、この道を選び、進んできた。
今から丁度1年ほど前に、同じ夢を追いかける同志に出会い、2人組で歌っていく事を決めた。
あれから何が変わっただろう。
最初は凄く応援してくれてずっと支えてくれた彼女は
段々と愛想を尽かして、結局別れを切り出されてしまった。
もちろん歌う事が好きなのはずっと変わらない。
けれど最近は、道行く人達にどう思われるのかが気になり、怖くなっていた。
「ここでいい?」
「うん。」
ギターをアンプに繋ぎ、チューニングをした後、マイクのスイッチを入れた。
あぁ、変わってないや。
ギターの音色も、叶うかも分からない夢を追いかけ続ける自分も。
周りが夢を実現させて変わっていく中、俺だけが変われてない。
俺ら2人が歌っている所を動画におさめている人は、何を思っているのだろうか。
上手いって感心してくれているのかな。
バカにするために撮られてはいないだろうか。
ふと、横目でこちらを見つめる女の人と目が合った。
なんの興味も示さずに行ってしまったけれど、
悲しそうな顔をしていた。
路上ライブが終わった後、
壁にもたれた相方が口を開いた。
「あのさ…最近俺、もう夢追いかけるのやめてちゃんと就職しようかなって、思ってる。」
「そっか」
少しの間の後、それしか言えなかった。
「じゃあ、また。連絡待ってるわ」
「わかった」
お互い空気が重くなっていくのを感じたのか、すぐに荷物をまとめて解散した。
夜の八時。
一人暮らしの古いアパートへと家路を歩いていた時、
母親からの不在着信に気付き折り返した。
「久しぶり、元気にしてる?」
「うん、元気にやってるよ」
「もう2年経つけど、あまり良い報告聞かないし、言い難いけど…そろそろ、ちゃんとした仕事に就いたらどうかなって思うの」
最初の頃、誰よりも張り切って応援してくれていたあの頃とは違う、
重く呆れたような声が響いた。
「ごめんね母さん、考えてみるから」
そう言ってすぐに電話を切った。
立て続けに耳にする話題に、それ以上何も言えなかったから。
電話を切った後、家には帰らず、ギターを背負ったまま近くの公園へと向かった。
ベンチに腰をかけ、ギターを取り出す。
思いっきり弾くと、1本だけ弦が切れてしまった。
「今日、本当についてないな」
手に取った切れた1弦を、涙で視界がぼやける中じっと見つめる。
人気にあやかり、たいして歌も上手くないのに歌手デビューをして曲を出すYouTuberやお笑い芸人などを羨ましく思った。
「いいよなぁ、」
どれくらい時間が経っただろう
涙が乾き、家に帰ろう、とギターをしまう。
ふと上を向くと星が綺麗だった。
最近は下ばかりみていたからか、余計に綺麗に感じた。
今日見た悲しそうな女の人は笑えてるだろうか。
なんて事を考えたりもして。
「新しい曲が作れそうだ」
ギターケースを背負い、口角をあげてアパートへと歩いた。
これで最後の曲にしよう。
そう決めた、帰る途中に考えた曲は、
今までで1番良かった。