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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第1章 アイオーンの跡継ぎ問題とその他諸々/第3節 ゼーレ族の問題(シェミー編とも言う)
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81 珍しく良いことを言った英雄さん

 私とヴィクターは、森の中を歩いていた。

 もう霧は晴れているかと思ったけど、まだかかったままだった。


「というより、むしろ濃くなってますよ……」

「迷わせる気満々ってことかぁ」


 全く、意地悪な奴らだ。私に用事があるなら、直接私のところに来てくれればいいのにね。


「この霧、魔法で消せないのが厄介よねぇ」


 どうやら、この霧は半永久的に続くものっぽいのだ。魔法で消しても消しても、すぐに現れる。魔法陣か何かで、効果を持続させているんだろう。そういうのは、直接魔法を流し込んで壊すしかない。だけど、今回は場所がわからないので、どうしようもない。


「そうですね……」


 むむむ。さっきから、ヴィクターの元気がない。仲間が心配なのは分かるが、もっと元気にしてくれないと、こっちのテンションが上がらないじゃないかっ!


 それにこの霧は魔物を消滅させるらしく(なんて万能なんだ)、退屈なのだ。

 いつもなら、ヴィクターは嬉々として、口を開いて話してくれるのに。

 こういうときこそ、出番なのに。


「ねえ、ヴィクター」

「はい、なんでしょう?」

「なんか面白い話してよ」

「え?!」


 やはり、心ここに在らずって感じだ。いつもなら、私の制止も聞かずに、話しまくるのに。


「ヴィクター、やっぱり仲間のこと、心配?」

「え、はい、それもあるんですけど……」


 ん? ヴィクターがテンション低いのは、別の理由があるの? え? じゃあ何?!


「え。そうなの?!」

「そんなに驚くことですか?」

「そうだよっ! こんな状況で、他のことが心配なの?!」


 今日の晩ご飯とか、デートのこととかかなぁ? ……ないな。


「この件に関係することですよ」

「へー、何? 言ってみな? 私が相談に乗ってあげなくもないよ?」


 丁度いい暇つぶしになりそうだ。


「いえ、大丈夫です」

「どう見ても、大丈夫じゃないでしょ。さあさあ!」

「遠慮します……」

「遠慮なんてするもんじゃないよ!」

「それでもダメです」

「こっちは退屈なんだよ?! それを助けると思ってさあ、ね?」

「人の悩みを暇つぶしにしないでくださいっ!」


 珍しく、ヴィクターに怒られた。というか、初めてかもしれない。新鮮だなぁ。


「あ、あの、すみません、エイリー様っ……」


 私に怒鳴ってしまったことに気がついて、ヴィクターがすごく悪びれた顔で謝ってくる。

 そんなに気にしなくていいのに。今のは明らかに私が悪いでしょ。


「別に気にしなくていいよ。……で?」

「反省してないですね?!」

「はっはっは。私は諦めない女だよ?」


 私の物言いに、はあと深いため息を落とすヴィクター。なんか、失礼な奴だな。こっちは元気づけてやってるっていうのに。


「面白い話じゃないですよ」

「いいっていいって。勿体ぶらないで、早く話してよ」


 ヴィクターは諦めたようで、話す気になったようだ。よし、私の勝利!


 そうしてヴィクターは、ぽつりと話し始めた。


「俺、情けないなって思っているんです」

「どうして?」

「エイリー様に、2回も命を救われてるのに、恩返しするどころか、また厄介事押し付けてそしまっていて。エイリー様に迷惑しかかけてない、自分が情けなくて」

「あー、そんなこと?」


 何だもっとすごい悩みだと思ってた。


「エイリー様にとってはそんなことでも、俺にとってはそんな事じゃないですよ」

「まあ、人の悩みはそれぞれだからねぇ。それで?」

「それで、とは?」

「その先、何も考えてないの?」


 私の言葉に、ヴィクターは気まずそうに目線を逸らした。


「悩むことは悪いことじゃない。むしろ悩めって感じ。でも、悩むだけじゃダメでしょ。解決策も考えなきゃ」


 私、今良いこと言ってない?! なんて、調子に乗れる雰囲気じゃないな。つまんないなぁ。


 でも実際、うじうじしているだけじゃ、どうにもならないのだ。何かしら、その“先”へ行く方法を考えなきゃいけないのだ。人に偉そうに言えるほど、私もできてるわけじゃないけどね。


 まあ、今回のことは解決策を見つけるのは難しそうだ。だって、私はヴィクターに何も求めないから。

 求めるとしたら、そのままでいて欲しいってことかなぁ? あ、でも、私をギルドに勧誘するのはやめて欲しいなぁ。


「ま、恩返しなんて、大層なこと考えないでよ。私が助けたくて助けてるだし」

「でも」

「自分で自分のことが許さないなら、いつか私が困った時に助けてよ。そんな、今すぐ返してくれなくって、良いよ。気楽にいきましょ」


 人生、楽しんだもんがちなんだぜ?

 アイオーンに逃げてきてから、とても実感していることだ。


「でも……」

「でもでも五月蝿いなぁ?! この話はもう終わり! ヴィクターの悩みは、何の問題もないった! これでいいでしょ!」


 ぐずぐすするなよ、ヴィクターのくせに。本当はヴィクターじゃないのか?!、って心配になるでしょ!


「それにね、ヴィクター。私は今のヴィクターのこと、割と好きなの。出会った頃は最悪だったけど」

「……その件については、すみません」


 本当にヴィクターが申し訳なさそうな声で謝る。

 あ、そうだ。


「ねえ、どうして初めは私に強く当たってたの?」


 丁度いい機会だし、聞いておこう。豹変っぷりはびっくりで、慣れるのに時間かかったしね。


「それ、聞いちゃいます?」

「聞いちゃいます〜。私の恩返しだと思ってさ? ね?」

「エイリー様って、調子いいですよね」

「それが私だからねっ!」


 えっへんと胸を張ると、ヴィクターは呆れた様子でこっちを見てくる。

 え? 呆れるポイントあった? めっちゃカッコよくない?


「……ただ単に、羨ましかったんです、エイリー様が。俺たちが地道に積み上げて得た信頼をあっという間に得てしまうんですから。

 それに、その時の俺たちは調子に乗ってて、孤立している方がかっこいいって思ってたんです。だから、エイリー様がソロで活動していて、生意気だなって思ってたんです。

 ……今考えると、物凄く馬鹿だなって思います」


 うわーお。完璧に若気の至りだわ。恥ずかしいよね。私も今思うと恥ずかしいよ、あの時の変装…。


「そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うよ、誰もが通る道だよ」


 厨二病みたいなもんなんだよ。誰もが自分を特別だと思いたいんだよ。

 だから、恥ずかしい事なんて何もないんだよ! そういうことにしようよ?!


「エイリー様……、本当に優しいですね」

「そ、そうかな?!」


 そんなこと、ないと思うけどな?! でもそうなのかな?!


「満更でもなさそうですね」

「な、何のことかな?!」


 照れてるんだよ。そんなこと直球で言わないでよ。それこそ恥ずかしいよ。


「ささ、早く先に進んで、助けないと!」

「そうですね」


 そのヴィクターの返事は、心配事など感じさせない清々しいものだった。

 良かった、良かった。



微笑ましいふたりです。

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