80 信頼っていいもんだよね
私たちは村で部屋を借り、そこで落ち着いて話をすることにした。と言っても、私は話を聞くだけである。話をするのは、ヴィクターたちだ。
「…………」
「…………」
そう受け身でいたら、一向に話が進む気配がしない。ヴィクターたちも、私が口を開くのを待っているようだ。
確かに、私が質問した方が話が進めやすいのか? まあ、このまま黙ってても埒があかないので、私から話すことにした。
「で? どうしてあんなに重症だったの? まさか、上級魔物に負けたわけじゃないよね?」
「はい、上級魔物は思ったよりも楽勝でした」
「そ、良かったじゃん。じゃあ、どうしてあんな悲惨な状態になったのよ?」
楽勝に勝てたなら、重症なんて負うはずない。どんな厄介事に巻き込まれたんだよ。
「魔物を倒したあとにですね、森を不自然な霧が覆ったんです」
「霧?」
「人為的に発生させたと思われる、霧です」
霧、ねぇ。嫌な予感しかしないよね、それ。
「それで?」
「その瞬間、何者かの襲撃に遭いまして、あの有様です。……そして、セオ、シエナ、アメリアは攫われてしまったんです」
えーと、確かヴィクターの仲間の子だよね。まあまあ強い子たち。確か、弓使い君と格闘家ちゃんと闇魔法ちゃん、だったはず。記憶がぼんやりしてるなぁ。
「で、『仲間を返して欲しければ、踊る戦乙女・エイリーを連れてこい』とでも言われたの?」
「その通りです」
こくりと、ヴィクターは頷いた。
てか、ヴィクターたちをあんなにコテンパンにできるって、かなりレベルが高いんだな。霧、というアドバンテージがあるとはいえ、たいしたものだ。
「それで? 私は何処に行けばいいの?」
「え、行ってもらえるんですか?!」
何故かヴィクターが驚きの声を上げる。
「当たり前でしょ。そもそもあんたが連絡精霊を使って、私を呼び出したんじゃん」
「それは……、相手側に要求されたってのもあるんですけど、助けてくれるのはエイリー様かなぁって、思って……、いや、何でもないです、忘れてください」
「……まさか本当に私が来るとは思ってなかった?」
「はい、正直なところ……。俺、なんかうざがられてましたし……」
あー。確かに、ヴィクターはうざい。私の知ってる中(そんなにいないだろ、というツッコミは置いといて)で、一番うざい。
でも、嫌いではない。許せるうざさだ。だから、助けたいと思った。
「来るに決まってるでしょ。冒険者省からの依頼なんだし。依頼は基本的に断らないよ」
「あ、確かに、そうですよね……」
本人に、本当のことを言うのはなんか癪だったので、私はうまくはぐらかすつもりだった。ヴィクターは基本的に単純なので、何の問題もなかったはずだった。
「もう、エイリー。照れちゃって。素直になりなさいよ」
「ヴィクター、これでもエイリーは君の姿が見えなくて本当に心配していたんだぞ」
「連絡精霊の内容を聞いた時も、大分焦ってたよなぁ」
と、グリー、ファース、レノがニヤニヤしながら、口々に言った。ここからの流れ弾は想定してなかったっ!
本当にこいつら、とことん邪魔してくるよねっ! 私になんか恨みでもあるの?!
「な、なんでもいいでしょっ!」
「赤くなっちゃって、可愛いわねぇ」
くすくすと、グリーが笑ってくる。
むむむむむ、このままだと完全に彼らのペースだ。ここは、強引にでも話題を変えるしかない。
「こほん。じゃあ、私は森の廃屋に行けばいいのね? ヴィクター、場所はわかる?」
「なんとなくですが、わかります」
まあ、わかんなくても、便利なマップというものがあるからね。ぶっちゃけ場所がわからなくても、探しながら進めるはず。
「それで十分よ。私とヴィクターだけで行きましょ。病み上がりで悪いけど、よろしくね」
場所がなんとなく分かれば、辿り着くのは早くなるだろう。ヴィクターの仲間が無事でいるとは限らないしね。
「俺たちは?」
「留守番」
ファースが質問に私は簡潔に答える。
「どうしてだ?」
どうしてって言われてもねぇ……。皆のこと守れる保障はないし、そもそも呼ばれてるのは私だけだし。呼んでない奴連れて行って、相手の機嫌を損ねてもねぇ……。
「この村が襲われるかもしれないでしょ。その時のために待機してて欲しい。それに、万が一、いや絶対にありえないとは思うんだけどさ、私が帰ってこなかった時のための連絡係として残ってて欲しいの」
「…そういうことなら」
「また、頼られてないと思った?」
「ああ」
まあ、半分くらいは頼りない部分はあるけどね。ファースたちのことを信頼してないわけではない。信頼してるからこそ、こういう役目を任せるのだ。
「そんなわけないでしょ。だから、よろしくね」
「気をつけてな」
「言われなくても」
こうして、私とヴィクターは、ヴィクターの仲間を助け出すために、森へ向かった。




