78 英雄さん、助ける
4話目。
これにて過去編終了です。
私たちは今回の依頼現場、王都を少し行った所のダンジョンに来ていた。
このダンジョンは、最近魔物が増えたらしく、ダンジョンの外へ魔物がどんどん出てくるようになったのだ。それを駆除するのが、今回の依頼。
外に出てきた魔物は、比較的雑魚なので難なく倒すことができた。
……やっぱり、あんなに自信を持つだけあって、ヴィクターたちはかなり強かった。
ヴィクターは扱いづらい槍を華麗に扱ってるし、縄使い君は魔法と縄の連携が完璧だし、弓使い君は百発百中とまではいかないが、命中率はかなりいい。闇魔法ちゃんは、召喚魔法で呼び出す使い魔はかなり強いし、格闘家ちゃんは弱々しい話し方からは想像もつかないくらい強いし、片手剣ちゃんは素早い動きで獲物を仕留めた。
まあ、そこまでは私の出番はなかったよね。楽させてもらったぜ。
「さて、ここからが本番だぞ」
ヴィクターがダンジョンの入り口でそんなことを言う。皆はごくり突破を飲んだ。
そんなに緊張することないと思うんだけどなぁ。
「余裕そうだな、エル」
「まあ、働いてないからね」
「グ、グルースさんっ!」
相変わらず、片手剣ちゃんの毒舌ぶりは相変わらずだ。なんか、慣れてきたわ。
「まあ、事実ですので。これから、(できる限り)頑張ります」
何もないのが一番なのだ。私が働かないのが一番なのだ。うんうん。
「頑張りましょ、エル」
アメリアに肩に手を置かれたので、にこりと微笑み返す。
て言うか、皆優しすぎるぞ。エイリーに対する態度が嘘のように思えてくる。
私は軽いパニック状態だ。だから、
「どうして、エイリーとの態度が違うの?」
と、ぽろりと漏らしてしまった。
「え?」
ヴィクターたちは皆不思議そうに、私を凝視している。
やばいやばいやばい。やっちゃったよぉ。
「いや、何でもないです……」
「エイリーのこと、どうして知ってるんだ?」
縄使い君が不思議そうに聞いてくる。
だよねぇ。誤魔化せないよねぇ。
よし、押し切ろう。
「風の噂で聞きまして。なんか、エイリーさんといざこざがあるんです、よね?」
私の言葉に、皆が気まずそうにする。エイリーに必要以上に絡んでくるのは、幻ではないらしい。
よかったよ、私がおかしいわけじゃなくて。
「……まあ、色々な」
「へぇ、そうなんですか? 何かされたんですか?」
「されたといえば、されたのだが……」
ヴィクターは煮え切らない答えを返す。私、何したんだろう? 覚えてないなぁ。う~ん、そもそもそんなにヴィクターたちに積極的に絡んだっけ?
なんて、呑気にしていたら、
「ヴ、ヴィクター、あれ……」
その他5人が顔を真っ青にした。ヴィクターもすぐ顔を真っ青にする。
どうしたのかと私は後ろを振り返ると、そこには……。
熊と虎の混合種の魔物がいた。言うまでもなく、上級種だ。
「うわぁ」
これ、ヴィクターたちじゃ勝てないな。面倒くさいの出てきたなぁ。空気読めや。
「うわぁって、エル……」
闇魔法ちゃんが、驚いた表情をしてる。
まあ、“うわぁ”って呑気だよな、知ってる。だって私の場合、楽勝だもん。
「皆、ぼさっとするな。逃げるぞ。これは俺たちには勝てないっ!」
的確な状況判断で、ヴィクターは皆に指示をする。こんな判断ができるなら、どうして私に喧嘩売ってくるのかなぁ?
「ヴィクター、もう一匹いる……」
冷や汗を垂らしながら、弓使い君が報告する。皆の顔がさらに青くなる。
ほんと、空気読めよな、魔物野郎。
「……俺が時間を稼ぐ。皆は逃げろ」
「ヴィクター?!」
普通、この状況で皆が生きて帰るのは不可能だ。本当に、いい状況判断だ。
そのおかげで、私はますます訳が分からなくなるけどね。もう、エイリーにもそう言う態度で接して欲しいよ!!
「ほら、さっさと行け!」
「嫌、嫌です!」
「ヴィクターを置いていくなんてできないっ!」
「それなら、俺が残る」
それぞれ、ヴィクターに対して反論の声を上げる。慕われてるんだねぇ。
こういう信頼関係は正直羨ましい。私はその信頼関係どころか、仲間を作る勇気がないから。
――――助けるしかないよね。というか、そういう依頼だし。
「ヴィクター、下がってて」
「エル……?」
「邪魔よ、邪魔」
さてして、クラウソラスを出すか、このロッドで魔法を使うか。
とりあえず、ロッドで頑張ってみるか。
「水よ、敵を打てっ!」
私は簡単な呪文を唱える。
すると、水が大量に現れ、二匹の魔物に鋭い矢となって当たる。たが、絶命まではいかなかった。
「うーん、いまいちだなぁ」
クラウソラスの方が、使い勝手がいい。このロッド、どうしてこんなに魔法が使いづらいんだ。ロッドなのに……!
私はアイテムボックスから、クラウソラスを取り出す。
「それ、まさかクラウソラス?!」
片手剣ちゃんが驚いている。見ただけでよく分かるね。
「クラウソラスって、まさか」
「ええ、そのまさかよ……」
ヴィクターたちは私の正体に気づき始めたようだ。だよねー、バレるよねー。
ヴィクターたちの会話を聞こえないフリをして、私は魔法を放つ。
「光よ、魔物を倒せ!」
光が辺りを包み込み、それが消えると、魔物はいなくなっていた。
……今の感じだと、ダンジョン内の魔物もかなり消えちゃったかもしれない。やりすぎたかも。でも、どうせ討伐しに行くんだったし、問題はないよねっ!
「エル……、いや君は、エイリー?」
「チ、チガイマス」
ヴィクターの問いに、とりあえずしらばっくれる。隠し通せるとは思ってないけど。
「バレバレだから、隠さないでください。エイリーさん、ですよね?」
ヴィクターがいきなり敬語で話してきた。え、気持ち悪い?!
「……そうだけど?」
バレてしまったものは仕方がない。私は幻想魔法を解除する。
「何? なんか文句でも?」
ええい、こうなったらやけくそだ。
「あ、ありがとうございましたっ! 貴女様は命の恩人です」
ヴィクターがものすごい勢いで頭を下げる。それにつられるかのように、他の面々もありがとうございます、とか言って頭を下げた。
「別にいいけど。これだって依頼だし。お礼なら、冒険者省に言ったら?」
「いえ、助けてくださったのはエイリー様です!」
「あのさ、気持ち悪いから敬語とか様付けとかやめてくれない?」
私に対する態度か変わりすぎだ。私が変化についていけない。
「命の恩人にそんなことはできません」
「いや、やめてよ、私はやめてほしいんだよ」
「これは譲れません」
頑固だなぁ。なんか、どうでも良くなってきたわ。
「……とりあえず、帰らない?」
「え、でもダンジョンの方の魔物が……」
「ああ、多分大方片付いたと思うよ」
私の言葉にヴィクターがマップを起動する。
「本当だ……」
「でしょ? さ、帰ろ帰ろ。話は落ち着いたところでやろ」
そう言って、私は歩き出した。しばらく呆気にとられていたヴィクターたちだが、我にかえるとすぐに私を追いかけてきた。
一件落着。
……一件落着、なのか?
なんだこの掌返し。
やや強引かもしれませんが、こういうわけです。
見事な掌返しをして。今の忠犬に至っているわけです。
ヴィクターがエイリーに絡んでいた理由はおいおい語られます。
たいしたことじゃないです。




