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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第1章 アイオーンの跡継ぎ問題とその他諸々/第3節 ゼーレ族の問題(シェミー編とも言う)
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73 トラブルに愛される英雄さん

 私たちは雑談をしながら部屋を出て、冒険者省を後にしようと出口に向かって歩いていた。



 ――――何ともない、平和な日になるはずだった。



「エイリーさんっ!」


 受付で、顔を真っ青にしたロワイエさんに引き止められるまでは。


「ど、どうしたんですか、ロワイエさん」


 あまりの勢いに、私は押される。

 何だ何だ何だ。また厄介事か? 私はこんなに、トラブルに愛される女だったか?!


「ヴィクターさんから何か連絡が来ました?」

「え、いえ、何も。

 ……え、え?! ちょっと待ってください?! ま、まさか、連絡が取れないんですか?!」


 確か、ヴィクターたちのパーティは上級魔物を倒しに行ったはずだ。まだ、戻ってきてないの?

 まさか、ヴィクターたちが負けた? 上級魔物に? 油断しない限り、ヴィクターたちの強さなら負けないはずだ。


 ロワイエさんの表情に、私は不安を掻き立てられる。何だかんだ言って、ヴィクターのことを私は嫌いではなかったのだ。


「いえ、連絡は取れます。というか、今連絡が来ました」


 何だよ、生きてるのかよ。死んだかと思ったじゃん。紛らわしいな、おい。

 少し安心するが、どうしてロワイエさんが不安そうな顔をしていたのか、疑問が強くなる。向こうで、やばいことが起きてるのか?


 そんな私の予想は当たった。当たらなくていいんだけどなぁ……。


「簡潔にいうと、エイリーさんにきて欲しいとのことでした」

「……私にしか倒せない敵でも出たんですか?」


 上級悪魔とか、出ちゃったのかなぁ? 私でも勝てるかどうか怪しいのだけど。


「よく分からないのですが、相手側がエイリーさんを要求しているらしくて」

「は?」


 はっきり言って意味がわからん。相手側って何? ヴィクターたちは、何を相手にしてるの?


「私もよく分からないんです。ヴィクターさんたちもかなり切羽詰まってるようでして。連絡精霊(アンゲロス)の伝言も曖昧だったんですよね」

「まあ、緊急事態で冷静になれる人種なんて限られてますしね。私もパニックになっちゃいます」

「いや、エイリーさんはかなり冷静な方だと思いますよ」

「そんなことないですよ〜」

「そんなことあると思うぞ」

「その通りだわ」

「間違ってないな」


 ロワイエさんの言い分に、黙って話を聞いていたファース、グリー、レノがツッコミを入れた。

 え、私のイメージってどうなってるの? 私、そんなに冷静じゃないんだけども。


「……皆揃って酷い」

「事実だから仕方ない」


 ファースが真顔で言う。なんか傷つくなぁ。


「で、取り敢えず、ヴィクターのところに行けばいいんですね?」

「お願いします」

「どこですか? どうやって行けばいいんですか?」

「東方の村です。転移魔法の準備はできています」

「転移魔法?!」


 準備が早いな、ロワイエさん。緊急事態に、転移魔法を使えるのはありがたい。


「はい。では、早速行きましょう」

「わかりました」


 ロワイエさんの言葉に頷くと、私はファースたちの方を向いて、


「聞いての通り、私はこれから用事ができたので、ご飯はまた今度でいい? ごめんね」


 と、謝る。ファースたちと一緒にご飯に行きたかったなぁ……。

 ヴィクターって本当空気が読めないよね。もっとタイミングっていうか、なんというか、あるでしょ、全く。絶対会って文句言ってやる。


「待って、エイリー」


 そんな私の言葉に、グリーがストップをかける。


「どうしたの、グリー」

「わたくしも連れて行って頂戴」

「え?」


 グリーの口から出た言葉に、驚きを隠せない。聞き間違いかなぁ?


「わたくしも、連れて行って。エイリーの邪魔になることぐらい、わかっているわ。でも、わたくしにしかできないこともあるはずよ」

「でも……」

「グリーが行くなら、俺も行くぞ。それに俺もいた方が何かと便利だろ」


 レノもそんなことを言い出す。


「じゃあ、俺も行く。エイリーが心配だしな」


 ファースも便乗してくる。


「でも、ファースたちには関係ないことだし。これは私の問題だよ」


 関係ない人を、増しては王族たちを巻き込むわけにはいかない。

 それに、私は1人でも何とかなる。


「エイリー、もっと人に頼れよ」

「え……?」

「確かに、エイリーから見たら皆、頼りないのかもしれない。でもな、仲間がいることちよって、できることもあるはずなんだ」


 ファースが。


「それに、水臭いのよ、エイリー。わたくしたち、友達じゃない」


 グリーが。


「それに、俺たちばかりが頼りきりってわけにもいかないだろ?」


 レノが。


 皆、私に協力を申し出てくれる。

 ――――本当に、変な人たちだ。


「わかった。一緒に行こう……、いや一緒に行ってくれる?」

「「「勿論」」」


 私の頼みに、3人は快く頷いてくれる。


「ロワイエさん、皆、転移魔法で送れるの?」

「流石にこの雰囲気で、無理とは言えないでしょう。何とかしますよ。少し、時間をください」


 ロワイエさんが、困ったようにでもどこか嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます。少しだけなら、私も力を貸せますよ」

「いや、大丈夫です。向こうで暴れる分の力がなくなってしまうのは困りますし」

「……あはは」


 ロワイエさんの言葉に、私は笑うしかない。そんな私につられてなのか、はたまたそんな私が可笑しかったからなのか、ファースたち3人も笑い出した。



 こうして、私たちは4人でヴィクターのところへ向かうことになった。

持つべきものはお友達です。

エイリーちゃん、脱ぼっちです。

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