表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第1章 アイオーンの跡継ぎ問題とその他諸々/第2節 マスグレイブ家族大集合!
75/232

閑話 シェミーという女の子

閑話二話目。

 アネリは、どんどん、という激しい音で目を覚ました。

 意識が徐々に覚醒していき、外からの音がどんな音なのかをはっきりと理解することができた。


 銃声、悲鳴、崩壊音。


 アネリが生まれてから一度も聞いたことのない音だった。平和に愛されて生きていたら、一生聞かなくていい音だった。

 一晩のうちに、何があったのだろうか? 何が変わってしまったのだろうか?


 この村は何もない田舎だったが、平和だったのだ。いつも、時間の流れは穏やかであった。

 段々とアネリは、疑問よりも恐怖を感じるようになった。


「お母さん……?お父さん……?」


 小さな声でアネリは呼びかけるが、外の激しい音に負け、聞こえるはずがない。


「……どうしよ」


 幸いなことに、この家はまだ壊れていないようだ。窓から見える家の中には、燃えているものや崩れて原型のないものもある。

 このまま家の中に留まるか、それとも外に出て逃げるか。


 とりあえず、アネリはベットから出て、家の中を歩くことにした。外に出るのは不安だが、同じくらい家の中でじっとしているのも不安だったのだ。


「おかあ、さん? ……おとお、さん?」


 幼いアネリは、ゆっくりゆっくりと足を一歩前に出す。一歩、一歩。


 その間、外の音が鮮明に聞こえてくる。

 悲鳴、銃声、崩壊音。

 笑い声、泣き声、喚き声。


 恐ろしくなって、アネリは手で耳を塞ぎながら、歩き続ける。それでも、外の音は聞こえてくる。


 助けて、やめて、夢なら早く目覚めて――――。


 受け入れがたい現実に、アネリの震えは止まらない。


「アネリ?!」


 ふと、声がした。いきなりの出来事だったので、びくり、とアネリは体を震わせたが、いつも聞いてる声だとわかると、すぐに安心した。


「お母さんっ!」


 アネリは自分の母親、アニスを見つけて、駆け寄る。

 アニスは、アネリの顔を見ると気まずい笑みを浮かべた。


「……お母さん?」

「ああ、なんでもないわよ、アネリ。無事でよかったわ」

「ねえ、お母さん。どうしてこんな状況になったの? 何があったの?」


 アネリは、すぐに疑問を口にした。


「……今すぐここから逃げなさい、アネリ」


 アニスの口から出たのは、質問の答えではなかった。


「お母さん?! どういうこと?!」

「この争いは、貴女には関係ないことよ。だから、貴女は今すぐここを立ち去るべきなのよ。これは、私とこの村の人々の問題なの」

「どういうこと?」

「貴女が知る必要はないわ」


 アニスは冷たく言い放つ。


「どうして?!」

「……話は終わりよ。今から貴女に幻想魔法をかけるわ。魔法に抗うのはやめて、受け入れて。お願いだから」


 アネリの瞳一点だけを見て、お願いをするアニス。母親のこんな表情を見たのは、アネリは初めてだった。


「……どうやるの?」

「貴女は、ゼーレ族の中でも特別なの。近くで使われている幻想魔法を消すこともできるし、幻想魔法を受け入れることもできるはずなの。

 やり方は簡単よ。何も考えなければいいの。幻想魔法をあるがまま、受け入れればいいのよ」

「どうして?」


 この“どうして”には、『どうして、そんなことができるのか』と『どうしてそんなことをしなければならないのか』という2つの意味が込められていた。それに気づいたアニスだったが、


「アネリは先祖返りを起こして、強いゼーレ族の力を備えたからよ」


 と、ひとつの方しか答えなかった。


「お母さんっ!」

「……貴女には幸せになって欲しいのよ、アネリ。最後のお願いだから、聞いて欲しいの」

「そんなこと、言わないでよっ」


 ――――最後だなんて、これから死ぬみたいじゃん!


 アネリは、目から涙をこぼす。

 そんな娘の様子を、一瞬苦しそうな顔をしてみたアニスだが、すぐに魔法を発動させる呪文を唱えた。


「睡眠魔法よ、アニス・ゼーレの名において、発動せよ」

「おか……さん」


 すぐに睡眠魔法は効力を発揮し、アネリは深い眠りへと誘われた。だから、


「……ごめんなさい、アネリ。私の分まで、自由に生きて……」


 そんなアニスの言葉なんて、アネリには全く聞こえていなかった。



 * * *



「おい、お嬢ちゃん、大丈夫か?」


 そんな呼びかけで、アネリははっと目を覚ます。

 聞きなれない、低い声。意識は朦朧としているが、アネリは警戒心を忘れることはなかった。


 アネリは、きょろきょろと辺りを見渡す。

 そこは、木々が茂ったただの森だった。アネリの住んでいた、村ではなかった。


 ――――そうだ、私は。


 アネリは、全て覚えていた。眠る前までのことを、全て。

 アネリは、無意識のうちに幻想魔法に対抗していたのだ。


「どうして……」


 そして、心苦しい感情を思い出し、涙が流れてくる。


「お嬢ちゃん、大丈夫か……?」


 その声を聞き、誰かいたことを思い出したアネリは、急いで涙を拭う。


「あの、貴方は……?」

「俺は、ウェルズリ。旅する料理人だ」


 ――――後の『アデルフェー』の店主であり、シェミーの義父になる男だ。


「あの、ここはどこですか?」

「冒険者の国・アイオーンと、軍事の国・ディカイオシュネーの国境付近の森だよ」


 ウェルズリはそう説明するが、アネリはよくわからなかった。自分の住む村がどの辺に位置するのか詳しく知らなかったからだ。

 きょとん、とするアネリを見て、


「お嬢ちゃん、どこから来たか分かるか?」


 と親切心聞いた。


 だが、アネリはウェルズリを警戒していたので、


 ――――もしかして、あの村の生き残りを探しているの?


 と、深読みをしてしまった。

 だから、彼女のすることはひとつ。知らないふりをすることだ。


「分かり、ません」

「……何か覚えていることはあるか?」

「いいえ。ここがどこなのか、私は誰なのか、分かりません」


 真剣な声音で言う、アネリを見て、ウェルズリは、ある考えが浮かんだ。


 ――――もしかして、あの村の生き残りか? ショックのあまり、記憶をなくしたのか……? 焼け跡のある服からして必死に逃げてきたんだろう。だとすると、両親は……。


 ウェルズリは、アネリの村を襲った犯人ではない。たまたま焼き尽くされた村を通りかかっただけである。

 可哀想な境遇の少女を放っておける冷たい性格(たち)をウェルズリはしてなかった。


「お嬢ちゃん、俺と一緒に来るか?」

「え……?」

「このまま森にいてもな。近くの街まで俺と一緒に行かないか?」

「……」


 アネリは警戒をする。この男を信じていいのか?


「そんなに警戒するなって」

「……っ!」


 そんな警戒を馬鹿にするようにウェルズリは笑った。その笑顔は到底、悪い人にできるものには見えなかった。


「取り敢えず、街まで行こう。そこからは、お嬢ちゃんの好きにさせてやるさ。孤児院に入るか、俺と一緒に旅をするか」


 にかっ、と快く笑う男を見て、アネリは警戒心を緩めた。


「……わかり、ました」

「じゃあ、行こうか。……名前ないと不便だなぁ。俺が一時的に決めてもいいか?」


 ウェルズリの言葉に、こくりとアネリは頷く。


「うーん、よし。お前の名前はシェミーだ」

「シェ、ミー?」

「そうだ」

「……ありがとうございます、おじさん」

「ウェルズリと呼んでくれ」

「ウェルズリさん、これからよろしくお願いします」



 こうして、シェミーとウェルズリの旅が始まり、彼らは親子となり、後に『アデルフェー』を開くのだった。



シェミーとしての人生の始まりです。

次の話は、村についての補足説明を少々。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ