67 下2人が1番怖い
私、ファース、タパニは中庭に着くと、すぐさまノエルちゃんの捜索を始めた。
といっても、真面目に探してるのはファースとタパニである。
私は、
「ノエルちゃーん。美味しいお菓子があるから出ておいで〜」
と言いながら、馬鹿みたいに広い中庭を歩っていた。中々出てこないので、意外に我慢強いのかもしれない。
というか、王族なのだ。美味しいお菓子になんて、釣られないだろうなぁ。なんか良い誘い文句はないかなぁ。
「ノエルちゃーん、出ておいで〜」
「はぁい! 誰かノエルを呼んだ?」
と、近くの草の中から、灰色の髪をツインテールにした、小さな女の子が出てきた。
服も顔も全て可愛いんだけど、草と土にまみれている。お姫様がしていい格好ではない。
思ったより、あっさり見つかったな。てか、なんのためらいもなく出てきやがったぞ。
これでいいのか。
「ねね、お姉ちゃんはだぁれ? ノエルはノエルだよ!」
「私は、エイリー。踊る戦乙女って呼ばれるときあるけど」
「ええ! お姉ちゃんが、おどるゔぁるきりーなの? ノエル、会えて嬉しい! 握手して!!」
「い、いいよ」
ノエルちゃんの勢いに押されて、私は手を出してしまう。ノエルちゃんは目をキラキラさせて、私の手をとり、ぶんぶんとふる。
「ありがとう! おどるゔぁるきりーさま!」
「エイリーでいいよ」
「わかった! エイリーお姉ちゃん! ありがとう!!」
可愛なぁ。本当可愛い。可愛いの一言に尽きる。
さっき、ショタ萌えを知ったばかりだったけど、もうロリ萌えも知ってしまった。マスグレイブ兄弟は無駄に皆顔が整っているので、余計にだ。
「ねね、ところでエイリーお姉ちゃん」
「どうしたの?」
「幻想魔法、使ってる?」
ノエルちゃんが翡翠色の瞳で私を無邪気に見るが、内容は衝撃的なものだった。
もう随分世界に馴染んでいるので、そうそうにバレないはずなのだ。だから私は、かまをかけることにした。
「えー、そんなことないよぉ」
「嘘はいけないって、お母様が言ってたよ」
ノエルちゃんは、にこにこと笑いかけてくるが、逆に不気味さを演出していた。
だが、これで決まりだ。彼女は、ゼーレ族の血を兄弟の中で1番強くひいている。力の強さは純血のゼーレ族にかなり近いだろう。ノエルちゃんが兄弟分のゼーレ族の力を分捕っていたのか。ファースたちが、ゼーレ族の力を持たないのは、納得だわ。
「あーあ、バレちゃった?」
「バレバレだよぉ〜」
「嘘ついてごめんね、ノエルちゃん。ただ、このことは内緒にしてくれるかな? 踊る戦乙女とノエルちゃんとの約束」
「別にいいよ!」
本当にノエルちゃんは、純粋で素直ないい子だ。ずっとこのままでいてほしい。
……成長すると、絶対怖い人になる。食えない大人になるよ、この子。
「あ、エイリー、見つかったか?」
丁度いいタイミングで、ファースとタパニが登場する。
「うん。この子でしょ?」
「そうそう」
「ありがとうこざいます、エイリー」
タパニはそうお礼を言うと、ノエルちゃんのところに駆け寄った。
「ノエル、みーつけた」
「あはは、見つかっちゃった!」
可愛い。可愛いぞ。ここは天国なのか?!
「ファースにあんな弟と妹がいたのね……。可愛いわ」
「……そうか?」
私とは違い、ファースは可愛いと感じていないようだ。
おかしくないか? こんなに可愛いのに?!
「……思ってることが顔に出てるぞ、エイリー」
呆れた声音でファースが言う。どうやら、もろに顔に出てしまったようだ。いけないいけない。
「どうして、可愛くないの?」
「いや、可愛いぞ? タパニもノエルも可愛い。可愛いんだが……」
「ファース兄様、どうかしましたか?」
絶妙なタイミングで、タパニが会話に入ってくる。同じ調子で言ってるのに、どうしてだろう……、なんか怖い。
「お前たちが怖いって話をしてたんだよ」
隠すことなく堂々と、ファースが告げる。
「酷いですね、ファース兄様」
「ノエル、怖くないもんっ!」
タパニは笑顔を浮かべて、ノエルちゃんは頬を膨らませて、ファースに文句を言う。
「お前たちが1番、マスグレイブ兄弟で怖いかもしれない……」
「何を言うんですか、ファース兄様。そんなわけ、あるわけないじゃないですか。……まあ、褒め言葉として受け取っておきます」
「そうしてくれ」
「え、ファースお兄様、ノエルのこと褒めてたの?! ありがとう! ファースお兄様は嘘をつかないから、私好き!!」
「ありがとう、ノエル」
……うん、まあ、なんとなくわかった気がする。この2人の怖さ。
「ねえ、タパニ」
「はい、なんですか?」
「君のそれ、演技だよね? 演技というか、猫かぶりというか」
「ふふふ。何のことでしょう?」
「あー、タパニお兄様、嘘ついた! だめだよ、嘘ついちゃ」
「時には必要な嘘もあるんだよ」
「う〜ん、それでも嘘はだめ! ノエルが悲しい!」
私が2人の会話を呆然として聞いていると、ファースが、な?と言わんばかりの目を向けてくる。
確かに、怖い。この幼さで、完璧な猫かぶりをしてしまうタパニ、嘘を見抜いて無邪気に指摘をしてくるノエルちゃん。
この2人が大きくなったら、と思うと背筋がぞわっとする。
やっぱり、親や兄姉の型にはまらない性格を見て育ったから、こんな風になちゃったのかなぁ。
「うん、怖いわ。可愛いけど、怖いわ」
「だよな?」
「うん、私が間違ってた」
私とファースは意見を共有した。
「えー、エイリーお姉ちゃんもファースお兄様もひどい! ノエルは可愛いだけだもんっ! 怖くなんかないもんっ!」
と、拗ねるノエルちゃん。可愛い。
「心外です。僕は猫なんてかぶってませんよ?」
と、怪しげに笑うタパニ。おいお前、猫かぶってるだろ、とツッコミを入れたいが、彼の笑顔せいで、できない。
「まあ、もうやめよ、こんな話題。つまんないし」
「つまんないって言うなよ」
ファースの鋭いツッコミを無視して、私はタパニの方を向く。
「タパニ。あんたは、猫かぶるのやめて。知らないうちは別に気にしないんだけどさ、猫かぶってるって分かると気持ち悪くなるんだよね。本音で話しましょ」
「本音、ですか?」
「そうだよ! タパニお兄様! タパニお兄様は家族以外に、嘘をつきすぎ! そんなのだめ!」
ノエルがタパニを叱るが、対して怖くもなく、むしろ可愛い。やばい、私可愛いしか言ってないかもしれない。語彙力崩壊してる。
「本音、かぁ?」
タパニは迷っている。きっと、彼の中で私には分からない葛藤があるのだろう。
幼いくせに生意気な奴だ。もっと自由に生きろよ。
「タパニ、別に猫を被ることを私は悪いことだとは思わないから、これからも続けてくれていいんだけどさ、私には猫を被らないでね? それだけだからさ」
「……わかったよ、エイリー。エイリーにも、猫かぶるのやめる」
タパニがしばらく考えた末に、こう結論を出した。
「そうそう、それがいい」
わたしはうんうんと得意げに頷く。ファースやノエルもタパニの決意を笑顔で受け止めている。
「最初から思ってたんだけどさ、エイリー、馴れ馴れしいよね」
「酷い?!」
「僕、これでも王族なのね? 分かってる?」
「わかってる」
「もっとさ、敬意を払うべきじゃない? 普通」
「だが、断るっ!」
一度は言ってみたかった、このセリフ。かっこよく決まった気がするぜ!
「不敬罪に問われてもいいの?」
「それはぁ、困るなぁ」
「でしょ? だったら、敬意を払うべきだと思うんだよね。それがこの国のルールなんだから。勿論、ファース兄様や、ノエルにもだよ?」
タパニの容赦ない物言いに、私は笑いを堪えきれず、笑い出してしまった。
「エイリーってほんと失礼だよね」
呆れた顔で、タパニが見てくる。
「ごめん、ごめん。これが私だからさ。……すみませんでした、タパニ様?」
「別に、取り付けたように敬語を使わなくていいよ。それが、エイリーなんでしょ? わかってるよ」
タパニが諦めの境地に入ったようだ。勝ったな。私の完全勝利である!
「ありがとう、タパニ。これからもよろしくね?」
「……こちらこそ、エイリー」
私の差し出した手を握って、タパニは照れたように言った。
下の子たち怖いです。




