66 マスグレイブ兄弟で1番まともな子(?)
「ああ、ごめんね。大丈夫?」
私はオレンジがかった金髪に、緑色の瞳を持つその男の子に向かって、手を差し伸べる。
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」
私の手を取り立ち上がりながら、お礼を言うと、
「こちらの方こそ、すみません。よそ見をしていました」
と謝罪までしてくる。
わーお。めっちゃ丁寧な言葉使いだ。
人ができてるなぁ。まだめっちゃ小さいのに。
「僕は、タパニ・マスグレイブと言います。ファース兄様といるところ見ると、貴女はもしかして、踊る戦乙女様ですか?」
さらりと流れるように自己紹介出来ちゃうってすごい。
しかも私の正体まで、推測してるし。見た目を詐欺ってるよね、絶対。
「そうだよー。私は、エイリー。踊る戦乙女じゃなくて、エイリーって呼んでね」
「わかりました、エイリー様」
「様なんてつけなくていいよ。エイリーで、いいよ、エイリーで」
どっちが、偉いのかわからんな、これ。
「わかりました、エイリー」
「敬語も使わなくて、いいのに。むしろ、私が使うべきなんだよね?」
「何故、疑問形なんだ。わかってて言ってるだろ」
と、鋭いツッコミがファースから入る。
「ねえ、これ本当にマスグレイブ兄弟のひとりなの?」
百歩譲って、ファースの弟だということはまだ納得できる。ファースは意外に真面目なのだ。
だけど、ベルナやコランの弟だとは、どうしても思えないのだ。タパニの丁寧な対応を、少し彼女たちにも分けてあげるべきだと思う。
「紛れもなくそうだ。言いたいことは分からなくもないがな」
「同じ教育を受けたんでしょ?」
「勿論」
「なんでこんなに違っちゃったわけ? どこで道を間違えたの?」
「俺に聞くなよ……」
ファースも悲しそうな顔をして、そんなことを言う。これ、ベルナたちに聞かれてたら、殺されるやつだよね。私は知らないけど。
まあ、小説でよくあるみたいに、ベルナたちは出てこなかった。ファースは命拾いをしたわけだ。
「で? タパニは何してたの?」
僅かに、周りを見ているタパニの様子に気づき、私はそんなことを聞いた。
「あ、いえ。妹とかくれんぼをしていまして」
顔を赤くしながら、タパニは答えた。
かくれんぼ?! 可愛いかよ。
懐かしいなぁ。前世の私も小さい時やったわ。現世では、公爵令嬢だったので、流石にやってないので、余計に懐かしく感じる。
それに、かくれんぼなんてしなくても、シスコンの兄が構ってくれたしな。
いやいや、そういう問題じゃない。このクソ広い城で、よくかくれんぼなんてする気になるな。子供ってすげえ。
いやいや、そういう問題でもないな。王族の子供が王城でかくれんぼなんてしていいのか? この私でも、自重したんだぞ?
「また、やってたのか」
また?! ファース、今またっていったよね?!
え、その言い方だと、数回ですむもんじゃないよね? 結構やってるよね? えええ?!
羨ましい、とかそういうんじゃない。決してそうではない。よくやるなぁ、なんて思うだけだ。
「ノエルがやりたいと言うので」
困りながら笑うが、タパニは満更でもなさそうだ。
「ノエル?」
というか、そもそもノエルって誰だって話だ。婚約者? それとも……?
「ああ、末の妹だよ。ノエル・マスグレイブ。かくれんぼが好きなんだよ」
やっぱり。話の流れからして、妹だよね。
いやぁ、万が一婚約者だったら、からかってやろうと思ったのに。
「かくれんぼが好きって……、超活発な子なの?」
「いや。ノエルは、かくれんぼが好きなだけだよ。奇抜な行動力は、全て上3人に持ってかれたよ」
「そんなことないと思うけど」
確かに、上3人の行動力は収まるところを知らないけど、下の子たちも負けてないはずだ。
ファースだって、なんだかんだで跡継ぎ争いに足を突っ込んでるし、グリーだって、がさつな方は上3人といい勝負の行動力だ。タパニ、ノエルだって、王城でかくれんぼしちゃうし。
きっとこれは、教育方針なんだろうなぁ。腹黒王様の。
「そうか?」
「そうそう。ファースだってかなり行動力あると思うよ」
まあ、あんな行動力の塊みたいな兄・姉がいるので、感覚が麻痺しちゃうのは仕方のないことだ。
「そうなの、か?」
「私よりあるんじゃない?」
「それはないな」
即答である。少しは考えてよ! 考えないで即答するの、どうかと思うよ!
そんな私の心情を察したのか、
「それより、タパニ。ノエルは見つかったのか?」
ファースはタパニに話しかけた。いい逃げ道があったもんだ。
「いいえ。ノエルは小さいので、どこにも隠れられるので探すのに一苦労です」
いやいや、タパニ君、それ以前の問題に王城は広すぎるんだよ。
「そうか。じゃあ、エイリーに手伝ってもらいなよ」
「え、私?!」
「踊る戦乙女の力を見せてやれよ」
何、その言い分。ただ単に、押し付けたいだけでしょ。
「お願いしてもいいですか?」
上目遣いで、タパニにもお願いされたので、
「勿論! お姉さんに任せなさい!」
と、返事をしてしまった。
ショタおそるべし! こうやって世の中の大人は子供を甘やかすんだな。
「本当ですか?! ありがとうこざいます。本当は、僕一人で探さないといけないんですが……。かれこれ1時間くらい探してまして」
「は?!」
1時間?!
何してるの、こいつら。暇かよ。いや、暇なんだろけどさ。
やばくね? 1ターン1時間って、やばくね?
よく飽きないね。子供ってやっぱすげぇ。
「どうかしましたか?」
きらきらと純粋な瞳を向けてくる、タパニ。1時間、という単語には全く違和感を感じていないようだ。
ファースの方を見ると、彼は驚いた顔をしていなかった。つまりは慣れた、ということである。ということはだ。
結構な回数、1ターンに1時間以上時間をかけているということになる。
わーお、と言うしかない。
「いや……、何でもないよ。ノエルちゃんを探せばいいんだね?」
「はい! お願いします!」
タパニに最後の一押しをされたので、私はマップを躊躇なく開く。
ノエルちゃんはどこにいるのかなぁ? あ、いたいた。
「中庭にいるよ」
「おい」
場所を報告すると、ファースがそんな声を発した。
「どうしたの?」
「マップを使うなよ」
「何で?」
「かくれんぼにマップ使ったら面白くないだろ」
「何で?」
「何でってな。所詮遊びだぞ?」
「遊びこそ本気を出すものでしょ?」
「はあ……。大人気ない」
「大人気なくて結構! 私はいついかなる時も手を抜くなんてことはしない! できない!!」
私が胸を張ってそう言うと、ファースは特大級のため息を吐いた。
「私が間違ってるの?」
遊びって本気で遊ぶから、遊びなんじゃないの?!私、間違ってないよね?!
「ああ、間違ってるよ……」
「嘘! タパニはどう思う?」
「え、僕に振るんですか?!」
ファースが間違ってるに決まってる。私は期待を込めた目で、タパニを見る。
「エイリーの主張も分かりますが……、かくれんぼにマップを使うのは、邪道だと思います」
「嘘っ!」
信じられない! 使えるものは使うべきだよ!
「いや、マップを使うのはずるいだろ。特にエイリーは」
「まあ……」
面白さは半減するわな。でも、私はスムースに見つけられて面白いから、何の問題もないのだ!
……と言ったら、流石に自己中だから言わないでおこう。心の中に潜めておこう。
「そんなことより、中庭に行って探そうか。ノエルも見つけられるの待ってるだろ。エイリーはマップしまえよな」
「……はいはい」
多数決の結果、マップを使うのは邪道となったので、私は大人しくマップをしまう。
そうして、私たちはノエルちゃんの隠れている中庭に向かうのだった。王城の中庭なので、大層広いんだろう。頑張って、探そう。
次回、ノエルちゃんが登場して、マスグレイブファミリー皆登場します。




