62 忘れたがりの女の子
シェミーとの過去編、一気に投稿しちゃおうと思います。
これを含めてあと2話です。
シェミーと出会って、早くも2週間がたった。
段々と、私のレベルが300を超えていることも広まって、かなり注目を集めるようになった。
だけど、相変わらず世界の意識を逸らす、大きな幻想魔法は使っておらず、限定的に意識を逸らす小さな幻想魔法しか使っていない。
だから、そろそろ身バレする可能性が出てきた。
そろそろ、シェミーに対する対策をしなければならない。でも、幻想魔法に敏感なゼーレ族の上に、さらに恐怖心で敏感になっている。簡単にはいかないだろう。
いいアイディアが無くて、ずるずる来てしまっている。
それに、もう一つ、困った問題が発生しているのだ。
最近、シェミーには不自然な視線が集められている。彼女が可愛いからなのか、他の理由なのかは分からないけど、とにかく怪しい視線が多い。
これだけで済めばいいのだが、嫌な予感がする。こっちも、早めに対処しておきたい。
うむむむと、アデルフェーで頭をひねっていると、シェミーが食後のデザートを持ってきた。
「お待たせ、エイリー。季節の果物アイスだよ」
「おお、おいしそー」
シェミーとも、すっかり仲の良い友達である。こんな可愛い子と友達になれるなんて、私は幸せ者だなぁ。ぐへへ。
「……エ、エイリー? 今、物凄く気持ち悪い顔してたよ?」
「え……?」
な、なんですと!?
「まあ、今に始まったことじゃないからいいけど」
「え?!」
嘘でしょ……?
「それよりなんだけど、……エイリー、この後時間ある?」
ふざけている声とは一転、真剣な声音と顔つきで、シェミーは聞いてきた。
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「頼み事、があって」
「シェミーが私に頼み事? 珍しいこともあるんだねぇ」
「きっと、エイリーにしか頼めないことだし……」
そう、シェミーが言うんだから、私は頷くしかないだろう。友達の頼みを断れるほど、私は冷たい奴ではない。
そして、シェミーは可愛いし。
「分かった。で? いつ?」
「それが食べ終わったら、すぐ」
「いいけど、お手伝いは?」
「もう、許可は取ってる」
行動が、早い。流石だ。
……この様子だと、相談の内容も店主に言ってそうだ。
そんなに、真剣な内容なの?! 私ごときに、任せていいの?!
なんだか、不安になってきたなぁ……。
でも、断るわけにはいかない。話を聞いて、無理そうだったら、謝ればいいんだ。『できないごめん。まじごめん』って。
大丈夫、私にしか頼めない事なんだから、きっと私の得意分野のはずだ。
そう考えながら、私はアイスを味が分かる程度に急いで食べ始めた。
* * *
私がアイスが食べ終わると、シェミーの部屋にすぐさま連行された。
シェミーはベッドに、私はあいている椅子に座ると、シェミーがすぐさま話を切り出してきた。
「用件だけ、まず伝えるね。……エイリー、私の記憶を消してくれないかな?」
「は……? な、何を言ってるの?」
その言葉だけでは、理解することも、納得することも、返事をすることも、できなかった。
「ははは、だよねー。そういう反応になるよねー」
シェミーも重々承知のようだった。
「今までのこと、全部忘れちゃいたいわけじゃないの。ただ、お義父さんに拾われる前の、私の記憶を全部消してほしいんだ。できれば、ゼーレ族の力をも」
「お義父さんに、拾われる前の記憶……?」
ツッコミどころ満載のシェミーの話だが、私が一番気になったのはそこである。
「そんなに驚かなくてもいいじゃん。エイリーだって、気付いてたでしょ? 私が覚えてるってこと」
「そうだけど。いいの? あっさりばらしちゃって」
忘れたふりをしていた、ということは相当ひどいものなんだろうに。それが察することができないほど、私は馬鹿じゃない。
「うん、エイリーになら、別にいいかなって。そもそも、こんなことを頼む以上、必ず教えないといけないでしょ」
「……だから、私なんだね?」
魔法が使えて、信頼できる人。私が信頼できるかは置いとくにしても、私がかなり強いということはシェミーも知っている。
「うん。それで、記憶を消すことって、できるの?」
幻想魔法を使えば、一発で済む話なんだが、ゼーレ族の血を引くシェミーの場合はそうはいかない。だからと言って、方法がないわけでもない。
「やってみないと分からないけど、方法はあるよ」
「ほんと?」
「うん。かなり手荒な真似にはなるけど、方法はいくつかある。
まず、頭に衝撃を与えて、後遺症として記憶を消す方法。この場合、ちゃんと消えるか分からないし、もしかしたら全ての記憶が消えることになるかもしれない。それに、記憶を消すまでにかなり痛い思いをする。これはおすすめしないし、私もやりたくない」
事故で頭を打った人が、記憶喪失になるあれである。詳しいことは私もよくわからないが、まあ記憶を消す手段として成り立たないわけではない。
「次は、ゼーレ族の力の源を断って、幻想魔法を効く体に無理矢理すること。失敗したら、どんなことになるかは分からないけど、こっちの方が断然安心だし、成功率も高い」
最初の案は、言ってみただけの方法でもなんでもない案だ。
「ど、どういうこと?」
「ゼーレ族が幻想魔法を無効にするのは、ゼーレ族しか持たない何か特別なものが、幻想魔法の力を打ち消してしまうからなんだよ。だから、それを体の中で隔離すれば、幻想魔法が効くようになるってわけ。理論的には」
「結果的には、ゼーレ族の力も消えるってこと?」
「そういうことだね」
これが成功すれば、シェミーは二つの願いを同時に叶えられるってわけだ。
「にしても、エイリー、難しい話を知ってるんだね」
「まあ、ね……」
ゼーレ族は、いわば幻想魔法が得意な、というかそれしか取り柄のない、ルシール・ネルソンの天敵である。だから、ルシールが必死になって勉強していたのだ。
おかげで、あまり知られていないゼーレ族に関する知識まで、私の頭にこびりついてる。歩くゼーレ族百科事典、と言っても過言ではないだろう。
「その作業、エイリーもできるの?」
「やったことはないけど、できると思う。成功するかどうかはわからないけど」
「じゃあ、お願いします」
曖昧な答えにもかかわらず、シェミーはすぐさま決断した。
「いいの?」
「今更だよ」
シェミーの意志は固い。それはきっと、私に出会う前から、ずっとずっと固めてきたものだったのだろう。
「私は、忘れたい。名前も、両親のことも、あの惨劇のことも。全部全部、忘れちゃいたいの」
シェミーはぽつり、と静かに語り出した。
「だって私は……、シェミーだもの。アデルフェーの看板娘、シェミーだもの」
でも、確かにそこに、シェミーの強固な意志は存在した。
やけになっているわけじゃない。だけど、どうしても心の傷は消えない。この苦しみからいつまでたっても解放されない。
そんな痛い思いがひしひしと伝わってきた。
「だから、お願い。私を、助けて……」
泣きそうな声で、シェミーは懇願してくる。
そんなの、断るわけにはいかないじゃないか。




