48 後の“踊る戦乙女”は社長出勤
唐突な過去編。
北の洞窟へ行くまで、かなり時間がかかるので、私たちは思い出話に花を咲かせていた。
その中で、私が“踊る戦乙女”と呼ばれるようになった直接的な事件の話になった。
–––––私が、アイオーンの王都に住み着いて、2ヶ月くらいのこと。たいぶ生活にも慣れてきて、私の強さも少しずつ知れ渡っていた時の話だった。
* * *
「あ、やべ。もうこんな時間じゃん」
私が目を覚ますと、あと数分で正午になる時間だった。
まあ、急ぎの用は入ってないし、そもそも冒険者自体が時間にルーズな職業だ。
寝過ぎたなぁとは思うものの、そんなに慌てることはない。寝坊したって怒られない。
冒険者最高!(注・ぼっちに限る)
身支度を整えて、アデルフェーに行き朝食兼昼食をとろうと私はのんびりと考えながら、ベッドから出た。
すると、家の中に連絡精霊がいるではないか。
やばー、ロワイエさんからの呼び出しかなぁ? まあ、いいかー。どうせいつもの依頼でしょー。
なんて、呑気に考えながら、連絡精霊に込められてるメッセージを聞く。
『ロワイエです。エイリーさん、至急冒険者省に来てください! 緊急事態です、お願いします』
と、本当に焦ったロワイエさんの声がした。
…………これは、本当にやばいやつだ。
うわー、やっちまったよぉ。うん、でも、ま、なんとかなるでしょ。
お気楽なのは相変わらずな私であった。
だからといって、ゆっくり支度をするほど神経は図太くないので、慌てて身支度を整え、フランスパンみたいなパンをくわえて、家を出るのであった。
……このパン、固い。……当たり前か。
冒険者省の職員は、かなり慌ただしくしていた。冒険者の人たちは、みんな真剣な表情をしている。
何があったんだろう? かなりヤバそうだなぁ……。
雰囲気に馴染めない私にちらちらと視線が集まる。
「やっときたぞ」
「これで安心だな」
「レベル300は流石、呑気だわ」
「危機感が足りてねぇ」
ひそひそひそひそ。
あの、皆さん? 本人に丸聞こえなんですけど。噂話って普通もっと小さい声でやるんじゃないんですかねぇ?
心の中で突っ込んでいても仕方がない。まずは、状況を確認しないと。
「あ、エイリーさん。やっと来てくれましたね!」
奥からロワイエさんが登場した。
「あ、ロワイエさん。ごめんなさい、寝坊しちゃた……。あはは?」
そんなことを私が言うと、
「うわ、寝坊だってよ」
「流石、やることが違うわな」
「何で最後笑ったんだ?」
ひそひそひそひそ。噂話がさらに活性化する。
「そうですか。これも何かの因果ですかね?」
「あの、どうしたんですか? 私、さっぱり事情が分からないんですけど」
……言うまでもないだろう。噂話がさらに酷くなったなんて。
てか、因果って何だ、因果って。
「アイオーンの郊外から離れた村に悪魔が出たんです、それも2体」
「へー」
「なんか落ち着いてますね?!」
「驚いていますよ。悪魔が2体も出るなんて。そもそも悪魔って魔王と一緒に封印されてませんでしたっけ?」
「魔王が封印されたの何十年前だと思ってるんですか。そろそろ封印がもつれてくるころですよ。悪魔の1体や2体出てきてもおかしくないんです」
封印は永遠のものじゃないからなぁ。仕方ないのかぁ。
「じゃあ、そんなに慌てることないじゃないですか」
そこまで分かっているなら、対策やなにやらはできるはずだ。
「悪魔2体ですよ、分かってます? それに加えて手下もいるんです」
「はぁ」
手下がいるのは、まあ当然だわな。
「並みの冒険者じゃ太刀打ちできません」
「そうですね。でも、束になれば勝てるんじゃないんですか?」
数に勝るものはないとか、よく言うじゃん。
それに、ここにはそれなりの冒険者とギルドがあるじゃないか。大丈夫、楽勝だって!
「んなわけないでしょう! 悪魔ですよ。魔物じゃないんです、悪魔なんです」
「はぁ」
「こうしている間にも被害は拡大しているんです」
「はぁ」
「ということで、至急その村に向かってもらいます」
「はあ?!」
結局、私に全部丸投げ?! まあ、賢明な判断だとは思うけどさ?! 私に丸投げにしちゃった方が安全ちゃ安全だけどさ?! それでいいのかよ?!
「仲間が必要ならすぐに集めてきてください」
「……それ、わかってて言ってますよね?」
私は、孤高の冒険者だ。ぼっちとは違うので、気をつけるように。
「なんのことでしょう? じゃあ、1人でいいんですね?」
「……うん」
正直、仲間なんて邪魔である。真剣勝負であればあるほど。
でもなんだろう、この敗北感というか、劣等感というか、もやもやした気持ち。
「では、こちらに来てください。転移魔法で現地までお送りします」
「転移魔法?!」
転移魔法は、複雑な魔法陣を組んで、その上、上級の魔法使いが何人か集まって魔法を使わなければいけないという、かなり手間のかかるものだ。
流石の私でも扱うことはできない。やろうと思えばできるんだろうけど、使った後は、魔力は全て尽きるだろう。
「一刻を争うんです、当然でしょう?」
さ、早くと、ロワイエさんは早足で案内してくれる。本当に歩くのが早くて、追いつくのが大変である。
少し歩くと、地下に降りる階段にやってきた。やはり降りるのも早い、ロワイエさん。
うわぁ、体力あるなぁ。なんて呑気に思いながら、私も階段を降りる。
地下につき、しばらく歩いた所の一室の扉をロワイエさんが開け、中に入れと促してくる。
どうも、とお礼を言い、私は遠慮なくその部屋に入る。
「さ、早く早く。魔法陣の中心に入ってください!」
中にいた魔法使いの1人が私の背中を押し、魔法陣の中心まで運んだ。
そんなに急かさないでよっ!
「ちょ、ちょ、ちょ?!」
軽くパニクッになる私。
そんな私のことなんて気にしない様子で、魔法使いたちは、転移魔法を発動させた。
「は、ちょっと、え?!」
ちゃんとした言葉を発する前に、転移魔法は私を悪魔の暴れている村へ連れて行った。
次回は悪魔退治です。




