45 慌てるのが当然
いつもの部屋で10分くらい待っていると、ロワイエさんがやってきた。どうやら急いで来たらしく、少しばかり息が乱れていた。
「そんなに、急がなくても良かったんですけど……」
ゆっくりで良かったんだけど。私がいつもより早く来すぎただけだし。
逆に、こんなに焦ってこられた方が反応に困る。本当に勘弁してほしい。
「いや、焦るでしょう!」
ロワイエさんはいつもより大きめの声を出し、乱雑にソファーに腰を下ろした。
何故か謝りたくなった。謝らなかったけど。
代わりに「はあ?」とすっとぼけた声を出した。
私がこんなに早くここにいるだけで、そんなに焦るの?! 何がなんだが、わからない!
なんでなんで?! 時間指定してこなかったのはそっちでしょ?! 意味がわからないよ?!
はあ、と深い溜め息をついたロワイエさんは、
「何をやらかしたんですか?」
と、尋ねてきた。じとぉとした目で。正直に白状しろと言わんばかりの目で。
「……意味がわからないんですけど」
そもそもなんで、やらかす前提なんだ。私が問題児みたいじゃないか。
「しらばっくれないでください。心当たりがあるんでしょう?」
「あの、詳しく説明してくれないと、心当たりも何もないんですけど」
なんだなんだなんだ?
ロワイエさんが変だぞ?!
……私、知らないうちに何かやらかしたのかなぁ? なんて、不安になるだろうがっ!
私、悪いことは何にもしてませんっ!
「それもそうですね。……エイリーさん。落ち着いて聞いてください」
いや、お前が落ち着け。
「国王陛下が貴女にお会いしたいそうです」
「へえ、そうなんだ~。ふむふむ、なるほど~」
ファースが約束を守ってくれたんだね。
それにしても、国王様に謁見かぁ……。緊張するなぁ。なんとかはなるとは思うけど。
私の敬語を使えない問題に寛容な人だと嬉しいなぁ。
「なんですか、その気の抜けた返事は」
ロワイエさんは、焦りをと通り越して、呆れていた。失礼しちゃう。
「やはり、心当たりがあるんですね? ……何か、やらかしたんですね?!」
「心当たりはなくもないけど、やらかした前提で話すのはやめて貰ってですか?! 普通に悲しいんですけど?!」
「そんなのは無理です! 国王陛下は、やらかした人たちに頻繁にお会いになられるんですからっ!」
ロワイエさんが、衝撃の事実を言う。ちょっと涙声だった。
「なんですと……?!」
何という国王なんだ。腹黒どころじゃないんじゃないの……?
「残念ながら、事実なんです」
何処か遠いところ見て、ロワイエさんは言う。
……経験者なのか。トラウマ刺激しちゃったかな?
「王様から直々に説教されるってことなんですか?」
「あれは、説教と呼んで良いものではありません!」
そんなに?! 説教じゃないの?! じゃあ何?!
どうしよう、私、国王様に会うの怖くなってきた。ドSなのかな。ドSだよねきっと。
「まあ、落ち着いてください。とりあえず、何でロワイエさんは怒られたか教えてください」
「それは今、関係ないです」
「えー」
「えー、じゃないです」
ちぇ。この調子だと教えてくれなそうだ。参考までに聞きたかったのになぁ。
……本当だよ? 別にロワイエさんをからかうネタにするとか、そういうつもりじゃないんだよ?
純粋に国王様怖いなぁ、どういうことで怒るのかなぁ?、という事前調査のために聞いたんだよ? 本当だからね?
「まあ、やらかしてもやらかさなくても、エイリーさんが今まで呼び出されなかったのは不思議なくらいなんです」
「へえ、そうなんだ~。ふむふむ、なるほど~」
ロワイエさんの言っていることに、気の抜けた返事をするしかない。
『だからなんですか、その返事』みたいな顔をロワイエさんはしたけど、ため息を吐いただけで、話は続いた。
「謁見する日は、明後日です」
「随分と急ですね」
「国王様は忙しいんです」
「それは知ってます」
……なんだこの会話。
「くれぐれも失礼の無いように」
「わかってますって」
「……本当ですか?」
疑い深いな。まあ、わかる気がしなくも無いけど。
私だって、流石に国王様には一応、敬意を払いますよっ! だって王様でしょ? 偉いんでしょ?
「本当ですって!」
これでも元・公爵令嬢ですし? 実践できるかともかく、偉い人に会う時の知識はある。あるはずだ。頑張れば思い出せる。
「不安なので、軽くマナーの練習をしましょう」
「は?!」
めんどくさいな! 大丈夫だって。元・公爵令嬢なの、私っ! 見えないけど、そして言えないけどっ!
「あと、着ていく服も見繕って差し上げましょう」
それは、助かる。マジで助かる。家には、城には着ていけない服しかないし、ルシール時代の服は全部置いてきたしなぁ。
「服だけ見繕ってください。あとは、大丈夫です」
「遠慮しないでください」
にこり、とロワイエさんは笑う。正確に言うと、笑ってないけど。笑顔が怖いんですけど。
「えー」
「いいですか、国王様に無礼があったら、エイリーさんの首は勿論、私の首も危ないんです。わかります?」
「わかりません」
私は、危なくなったら逃げるし、大丈夫大丈夫。
ロワイエさんが首になったら……、ごめんね?
「ということで、拒否権はありません。では、マナーの練習を始めます」
私の反論の隙もなく、ロワイエさんのマナー教室が始まった。
さっさと、終わんないかなぁ。と、そればかりを考えていたが、結局全てが終わったのは、日が暮れるころであった。
長かった……。そして厳しかった……。
今日は頑張りました。
近日中に少なくても十万字突破するように頑張ります。




