44 顔パスでOK
私は、デジレの記憶を消した後、ベルナやデジレに色々言われる前に、さっさと部屋を出た。
逃亡は成功。ベルナに捕まることがなかったので一安心だ。
まあ、隣国から逃げてきた私の手腕をなめてもらっちゃあ、困るんだけどね。
お昼までは時間があるので、ロワイエさんのところに行ってしまおう。
そう考えた私は、冒険者省の中央部に向かうのだった。
* * *
「こんにちは」
「こんにちは、エイリー様。今日はお早いですね」
いつもの受付嬢が、相手をしてくれる。
敬語を使わなくていいよ、気軽に接してよ、と受付嬢にも散々言ってたのだが、「お仕事ですので」と営業スマイルで断られてしまう。
まあ、口説き文句や嫌味を笑顔で受け流す受付嬢。プロのスマイルには敵うわけないのだ。
「そういえば、今日は早かったかも」
ロワイエさんに呼び出されるときは、いつもシェミーのところで昼食を取ってから来ることが多いので、確かに今日は早い。
受付嬢が、予想外のことだと微かに驚きを示したので、私の頭にある不安がよぎる。
「ロワイエさん、いる?」
仮にもロワイエさんは、冒険者省の省長だ。お偉いさんだ。
会議とか会議とかで忙しいはず。お偉いさんって毎日会議してるじゃん。ただの偏見だけど。
いつもの時間に来ると思って、いなかったらどうしよう。完全な無駄足だよね。失敗したかなぁ? 変わったことするべきじゃなかったかなぁ?
「本日は会議のため、まだいらっしゃってません。ですが、会議の終了時間はすぎているので、そろそろ到着されるはずです」
「今日は、王城で会議があったの?」
「はい」
なんのためらいもなく頷く受付嬢。そういう情報、私に漏らしていいのか?とか疑問に思うが、深く追求するのはやめておこう。まあ、そのくらい大した問題じゃないよね、きっと! 信じてるよ!
「エイリー様、いつもの部屋でお待ちください。鍵は空いているはずですので」
「ありがとう」
「それにエイリー様。わざわざここに顔を見せる必要ないですよ」
「え、いいの?」
「いいも何も、いつもここに来るのも面倒でしょう?」
「それは、まあ」
つまりは、顔パスでいいということだ。
いいのか、本当にいいのか? ここは仮にも、各地の冒険者省の中心になる場所だぞ?!
なんて、驚きの気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。受付嬢が、
「そんなにあからさまな顔をしなくても。私たちはエイリー様を信用してるだけです」
苦笑いを浮べる。
普通に嬉しいことを言ってくれるから、私はどんな反応を返していいのかわからず、曖昧な返事をすることしかできなかった。
「……どうされました? エイリー様。なんか、いつもの調子じゃないですね」
私が、どうして戸惑っているのか分からない受付嬢はきょとんとした顔をして、こちらを見てくる。
「気のせいだよ!」
私は思わず見栄を張ってしまう。
というか、信頼されただけで、こんなに喜ぶなんて、私、かなり変わってるのかもしれない。人とコミュニケーション取らなすぎ? もうちょっととったほうがいいのかな?
いやいやいや、でもさ、あんな真っ正面から言われたらね! 誰だってこういう反応になるよね! 恥ずかしいし、嬉しいよね! きっと、いや絶対そうだ!
なんて、自分を誤魔化した。そう思うことにした。
「気のせいじゃないです。エイリー様のいつもの歯切れの良さ、なかったですし……」
受付嬢は、私の言い分を完全に否定し、考え込んでしまった。てか、歯切れの良さって何よ。失礼じゃないですかね?
……ひょっとして、いやひょっとしなくても、これはまずいやつなのでは?
「もしかして……?」
はっ、と何かに気がついた表情をした、受付嬢。
……よし、逃げるぞ。逃げるのは、得意だ! さっきも逃げてきたし!
「じゃあ、いつもの部屋で待たせてもらうね! 話ができて楽しかったよ、ありがとう!」
私は早口にお礼を言うと、その場から立ち去った。
危ない、危ない。
最初は呆気にとられていた受付嬢だったが、すぐににたにたした表情をし始めたのは、見なかったことにしよう。
それが1番だ。
そうして私は早足で、部屋に向かうのだった。
今日は頑張ってます。




