40 今度こそ、お開き!
嘘です。
あともう一話投稿します。
クラウソラスの手入れが終わり、ゼノビィアと少し雑談をしてから、私たちはギヨさんの鍛冶屋を出た。
すっかり空は夕焼けの色よりも夜の色が支配していて、想像以上に長居をしてしまったことを物語っていた。
見てた感じ、3人とも楽しそうだったから、問題ないだろう。
「今日は楽しかったわ、エイリー」
満足そうに、グリーはお礼を言う。
「いえいえー」
まだ出会って1日も経たないのに、すっかり打ち解けてしまったなぁ。ファースたちのコミュ力が恐ろしいぜ。
「本当はこの後、エイリーの家に行きたかったんだが、時間が時間だしな。今日は諦めるか」
「え。……ファース、そんなこと考えてたの?!」
「ああ」
真面目な顔で、そう返事をするので、私は内心ホッとしている反面、ひやひやしていた。
王族様の余計な好奇心を、こんなところで発揮しないでくれ。
私の家は、ザ・庶民の家であり、少々散らかっている。王族様を招待する準備は、残念ながら整ってないし、そもそも友達を招待できるかも怪しいのだ。
片付けを手伝ってくれたゼノビィア曰く、『汚部屋以上ゴミ屋敷未満。こんなところで良く暮らせるね』、シェミー曰く、『エイリーが快適ならそれでいいけど、もうちょっと片付けた方がいいんじゃないかなぁ。一応、エイリーだって人間なんだし?』だそうだ。
2人の物言いは、酷いが正論なので何も言えない。悔しいので、片付けをしようとするが、3分で飽きる。というか、まず片付けをしようと決意をする時点で諦める。
だから散らかるだけ散らかって、片付く気配は一向にない。
そんな私の家に、王族様をあがらせるわけにはいかないので、今後の対策を立てる必要がありそうだ。
「なんで、私の家に来たいわけ? 踊る戦乙女なんて呼ばれてるけど、名家の出身でもない、庶民だし。家も狭い平屋だよ?」
まあ、一人暮らしには、贅沢なものなんだけど。お金の使い道がないからしょうがないのだ。
「へえ、なんか意外だな」
レノが少し、驚きを見せる。
「そう? ……だって、家が広すぎるとお金がかかるじゃん。家政婦さんとか雇いたくないし。独り暮らしなのに、部屋がいっぱいあっても困るだけだし。片付けとか面倒くさいじゃん」
家が広かったら、本当に私の家はゴミ屋敷になっちゃうよ!!
「金なんて、稼いでるんじゃないのか?」
「まあ、そこそこ稼いでるけど。今後のために貯金してんの」
今後、何が起きるかわからないし、貯めておくのが無難である。金があれば、到底のことは解決できるだろう。
まあ、そんなのは建前で、有意義な使い道がないから、貯金してることにしているのだ。そっちの方がかっこいい。
私が、そんな真面目(?)なことを言うと、3人は目と口を開けて驚いていた。
「あんたたちって、ほんと失礼だよね」
はあ、とため息を吐く。
私だって、これでも真面目に生きてるんだよ!
「意外なんだもの。エイリーって、お金の使い方は荒くないのね」
お金の有意義な使い道がないからだけどね。
元オタクとしては、貢ぐ先がなくて困ってるのだ。
「他は荒い、みたいに聞こえるんだけど?」
これは、心外だ。私だって、これでも女の子なのだ。
「それはそうだろ」
ファースから、冷静なツッコミをうけ、余計にショックだ。こいつら本当に、ズケズケ言うなぁ。
「私のこと、なんだと思ってるわけ?!」
「「「踊る戦乙女」」」
「本心は?」
「「「エイリーって本当に人間?」」」
声を揃えて言いやがった。神業だ。
「何? あんたたち、私に怨みでもあるの?!」
はあ、とため息をつきながら――――私は今日何回ため息をついているんだろう、幸せが逃げるどころの話じゃない――――言うと、
「そんなものは、ないに決まってるだろう? エイリーは俺たちを救ってくれたんだからな」
「お兄様の言う通りよ。私は、命の恩人で、それ以上にエイリーの人柄は好きなの。怨みなんかあるわけないじゃない」
「ああ。エイリーは本当に感謝してもしきれないよ。」
なんて、ファースもグリーもレノも真剣に言ってきた。
冗談で言ったのに、こんな本音を返されるのんて、思ってもいなかった。胸のあたりをむずむずしたものが襲う。
私、こういうのは慣れてないんだけどっ!
「……ありがと」
私が感謝を述べたことに、ファースたちはきょとんとしている。
「どうしたんだ、エイリー?」
「ただ、なんとなくお礼が言いたくなっただけ!」
私はきっと、顔が赤くなっているのだろう。ファースたちは、にやにやと気色悪い笑みを浮かべている。
「ああ、もう! 今日は解散! とっとと帰れ!」
「エイリー、顔を真っ赤にさせちゃって。可愛いわねぇ」
ふふふ、とグリーが笑うので、
「うるさい! じゃあね!」
と、私は早足で帰路に向かった。
今日は、なんだか色々あったな。数ヶ月分の出来事が一気に押し寄せて来たみたいだ。
疲れたけど、楽しかった……のかなぁ?
次はファース目線の閑話です。




