30 お開き、お開き!(?)
「つれないなぁ、エイリー」
むう、とあからさまに不満そうな顔をするグリー。
ていうか、このお姫様はいつまで剣を鞘に収めず持ってるんだ。さっさと収めて、上品なグリーに戻って欲しい……。
「別にあんたたちがいなくても、大丈夫だから! 余裕のよっちゃんだから! むしろそんな高価なもの持ってついてこられた方が困るから! ね?!」
ぶっちゃけ、1人の方が楽なんだよなぁ。ずっとひとりでやってきたから、うまく連携取れるかどうか、わからないんだよね。
……そんなことは流石に言わないでおいたけど。
「それも、そうか……」
ファースが何故か残念そうな顔をした。
そんな顔されたら、私が悪いことしたみたいじゃん。ファース、顔いいから、余計に罪悪感あるんだけど。
「私のこと心配している暇あるなら、自分の心配して。そして、秘宝の心配をして」
お願いだから!
私と別れた後で『死にました〜』とか、『失くしました』とか、やめてね?!
流石に私も堪えるよ?!
「……また、会えるよな?」
「はいはい、会えるよ。会えますよ。そのうち会いましょ」
めんどくさくなってテキトーに相槌をうつ。
全く、人の話を聞かない奴だ。呆れながらも、私は彼の話に付き合うことにした。
「エイリーに会いに行っていいか?」
「はいはい、冒険者省の近くに住んでるから。あでも、来なくていいからねー」
「じゃあ、暇な時に行くな」
「はいはい、おもてなしはしないよー。というか来なくていいし」
というか、来んな。
……まあ、まさか、王族さまさまが、簡単に私の家なんかに来ないでしょ。お忍びって危険だろうし。
しかも、彼らも相当忙しいだろうし。
「じゃあ、盾おいたら、冒険者省で待ってるから、街を案内してくれ」
「はいはい、いいですよー………ってはぁ?!」
ファースが今までの会話の流れで言うもんだから、私は同じ感じで。、適当に返事をしてしまった。
え、今から来るの? しかも、街を案内しろと? 何のために? え? え??
そもそも君たち、相当疲れてるはずだよね? そんな無理して私と遊ぶメリットあるの? いやないよね?!
「何がしたいの? 私、帰ったら寝るつもりだったんだけど」
今日と明日は、ぐうたらデーにしようと思ったんだけど。
私だって、これでも疲れてるんだよ。慣れないことしたせいで! 主に君たちのせいで!
そもそも、この依頼も簡単に終わるはずだったのに、ファースたちと出会ったがためにかなり時間をロスしてしまった気がする。その時間ロスをさらに続けろと?!
何を企んでるんですかね?!
「理由なんているか? 俺たち、《《友達》》だろ? 一緒に遊ぶことが、何かおかしいか?」
そう言われてしまうと、うぐってなってしまう。反論の余地がない。私にどうすることもできない。
そもそも、最初に口実に使ったの私じゃんね。友達だし?的なこと言って。
うわー、自分に返ってきた。返ってこなくていいよ! 返品不可だよ!
前世の記憶を取り戻してから、1人でいることに慣れてしまい、というかむしろ、ビバ、ぼっち!!状態である。
ぼっちバンザーイ!! バンザーイ!!
「……可笑しくはないけど」
けどね、だけどね!!、と心の中で反論をする。
ぼっちの良さがわかるのは、ぼっちだけなので、こいつらが納得するとは思えない。
ぼっちはいいんだぞぅ……。
「じゃあ決まりだな!」
にかっ、と嬉しそうにファースは微笑む。顔立ちがしっかりしてるので、かなり絵になる。この笑顔で、恋に落ちる女の子は何人もいそう。
私も不覚にも見惚れてしまう。
くっ、ファース、恐ろしいやつだぜ……。
「……分かった。盾を戻して、また城から抜け出せるなら来て。来れなくても、別に気に病まなくていいから。私も、適当に時間見て帰るし」
はあ、という盛大なため息とセットで私は了承を出した。
どうか、彼らが城を抜け出せない状態でありますように。南無南無。
本当に、彼らには流されてばっかりだ。でも、不思議とそこまで嫌ではない。あくまで、そこまでね! 全く嫌ってわけじゃないんだから。
少なくとも、これからも付き合っていこうかな、と思える相手だった。向こうが私をどう思っているか知らないが、こんな感じだと嫌われてはいないのだろう。
「ありがとう、エイリー」
嬉しそうな表情を、三者三様にする。
「はいはい、じゃあここで一旦解散、解散! 帰りは気をつけてね! 大分魔物は減ったけど、まだ完全にいなくなったわけじゃないから。特に、グリー。分かった?」
「何であたしなんだよ?!」
私の言葉に、グリーは幼い子供のような不機嫌さを示す。
「あれ、先に突っ走っていっちゃったのは誰だっけぇ? んん?」
「うっ、そりゃあ、そうだけど!?」
そんな、くだらないやり取りをしている私たちを、ファースとレノが笑う。それにつられて、私とグリーも笑う。
けたけたと、馬鹿みたいに4人で笑う。
馬鹿みたいだけど、楽しかった。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。
私たちの笑いが収まって、静かになると、私は遺跡の外に足を向けた。
「じゃ、またあとで」
完璧な別れではないので、私は軽く挨拶をする程度で済ませた。
「応!」
元気よく、グリーが返事をした。
私は2、3歩歩いたところで足を止める。言い忘れたことがあった。
「あ、グリー、剣は置いてきてね?」
「わかってるよっ!」
グリーの声が反響する中、私は走り出した。
本日2話目。




