25 流石は踊る戦乙女
私がグリーのところに着いた時、グリーはもうとっくに魔物に囲まれていた。なんとか応戦しているものの、HPの残りが少ない。
というか、よくもまあひとりで、応戦できたな……。並大抵の冒険者なら、とっくに死んでるぞ。
本当にこいつ強いな。
そんなことを思いながら、私は少し離れたところに着地する。
このまま流れで魔法を使ってもいいが、グリーを巻き込みかねない。巻き込んで、怪我でもされたらたまったもんじゃない。
仕方ないなぁ。少し苦手だが、剣を使うしかなさそう。
できれば、剣、使いたくないんだよなぁ。
でも、文句を言っている場合じゃない。
私は、クラウソラスを抜き、構える。
ふ、と深呼吸をして、心を落ち着かせる。
よし、いける!
気合いを入れて、私は駆け出す。
この3ヶ月間、気が向いた時に剣の練習をしていたので、なんとか剣術のレベルに見合う動きができるようにはなった。
「たあっ!」
私はグリーの周りを囲んでいる魔物を、剣一振りで倒していく。
「グリー、大丈夫?」
「……っ、エイリー!」
かなり命の危機を感じてたらしく、グリーは少し泣きそうだった。少し、上品なグリーが見えた気がする。
いやまあ、中身は全く違くても、同じ顔だからな。表情が似るのは当たり前か。
「ちょっくら倒しちゃうから、最低限、自分の身は守って」
「お、応!」
グリーの元気な返事(?)を聞いて、安心したので、心置きなく暴れることにした。
剣一振りで、二、三匹の魔物をいっぺんに倒していく。返り血がつくけど、それは仕方ない。
でも、この臭いがきつい返り血が苦手なんだよなぁ……。だから私は、剣を使わないのだ。
魔物に反撃されることもあるが、レベル300を超えている私のHPは、そう簡単には減らない。痛みにも耐性があるので、ちょっとやそっとの攻撃じゃ痛くはない。
だからあっという間に、魔物は減っていく。
伊達に踊る戦乙女なんて呼ばれてないし! えっへん。……調子に乗るのはやめよう。とっても痛々しい。見せられるもんじゃない。
そうして、大した苦労もせず、最後の一匹のとどめを刺す。
ふう、と一息を吐いて、私はマップで魔物が残ってないかどうか確認する。
うん、大丈夫そうだ。魔物は一匹も残っていない。
もうすぐでファース達も追いつきそうだし、このまま先に進めそう。
さてと。慣れない剣を使って、少しばかり疲れたが、まだやることは残っている。
次にするのは、傷だらけのグリーの回復だ。
クラウソラスを持ち直し、私はステップを踏む。
「神の癒し、土地の癒し、空気の癒し。糧となれ、一部となれ、素材となれ。集え、纏まれ、癒せ!」
呪文を唄い、癒しの魔法を発動させる。淡い光がグリーの周りを囲み、傷が消えてゆく。
うん、何の問題もなく魔法は発動したようだ。痛々しい傷が、グリーから消えた。
女の子、しかも王族が、体に傷なんて残ったら大変だもんね。ちゃんと治せてよかったよ。
「どう? 元に戻った?」
「……」
自分の手を握ったり開いたりしながら、あんぐりと口を開けて、何も言わないグリー。
おーい、上品のかけらもないぞー。
「おーい、グリー?」
「……」
グリーは相変わらず放心状態で、何も言葉を発しない。動きすら止まってる。
……まさか、死んでる? 嘘でしょ?! 成功したと思ったのに?!
「エイリー、グリー、大丈夫か?」
そんなことをしているうちに、ファースとレノが追いついた。かすかに息を切らしているので、走ってきたのだろう。ゆっくりでいいって言ったのに……。
「あ、うん。大丈夫だよ」
取り敢えず、そう返事をしておく。
「そうか、良かった」
ほっとした笑みを見せるファース。心底安心したようだ。
イケメンがやると様になるななぁ。不覚にもドキッとしそうになったぞ。
「なんか、グリーが動かないんだけど。回復魔法は成功したはずなんだけどなぁ?」
私がそんなことを漏らすと、ファースもレノも驚いた顔をした。
なんだ、なんだ、なんだ?
おかしなこと言ったか、私。やっぱりグリーが死んだかどうか、心配なのか?
「……エイリー、回復魔法–––––つまり聖魔法が使えるのか? いや、まあ、光の魔法を使ったから、薄々は気づいていたけども」
驚いている中、レノが最初に口を開いた。
「ああ、なんだそんなこと。使えるけど。というか、全属性の魔法が使えるけども」
まあ、前世の記憶を思い出した時のおまけなんだけど。
ゲームでは、どんな魔法もレベルをあげ放題だったので、私はどんな魔法が使えるのだ。
本来のルシールには使えないはずの魔法も。
「まあ、そんなことはどうでもいいでしょ。先に進もう」
「そんなことって……」
もうファースは呆れているようである。
別に私がどんな魔法使えようが、使えまいが、あんた達には関係ないじゃん。
「さ、行こう。時間なくなっちゃう」
相変わらず、放心状態のグリーを無理矢理立ち上がらせながら、私は言う。
「あと数分あれば魔物の駆除は終わるんじゃないか?」
ぼそっ、とレノが漏らした言葉については深く考えないことにした。
……まあ、一瞬で終わらせることもできるけどね? でも、優秀な人たちがいるのに、私が働く意味ないじゃん。私は楽がしたいんですぅ。
そんな反論を心の中でしながら、私はグリーを引きずって、遺跡の奥へ入っていった。
グリーの扱い、雑になってるなぁ。上品なお姫様グリーが少し恋しい。




