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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第3節 敵国に潜入しちゃったのでめんどくさいこと全部蹴散らそうと思う
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79 声が急に変わると驚くよね

 シェミーとアズダハーの姉妹喧嘩に、私が手を出すことは不要だろう。というか、出してはいけない。

 ただ、姉妹喧嘩を見物したいので、さっさと邪竜になったデジレを戻すことにした。


 といっても。


「……邪竜を人間に戻すってことできるの?」


 私の一歩後ろにいるメリッサに問いかけるが、彼女もわからないらしく首を横に振った。


「ムーシュは? 何かわかる?」


 悪魔のことに詳しそうなシェミーは、姉妹喧嘩の最中だし、聞いてはダメってことはないのだろうけど、邪魔をするのはよくない。

 となると頼みの綱は、メリッサの中にいるムーシュだけだ。


「人間を邪竜にするなんて、とんでもないことあたしにはできないよ」

「できなくても、方法は知らない?」

「……うーん。どうだろう?」


 ムーシュの反応からするに、まったく聞いたことがないというわけではなさそうだ。

 魔王がザリチュやアズダハーのような人間を作るくらいだし、人間を邪竜にすることもできておかしくはない。


 頑張れ、ムーシュ! お前にかかっている!!


 もう少しで手がかりがつかめそうなところで、邪竜が咆哮をあげ、こちらに向かってしっぽを振り落としてくる。

 それをひょいっとよけながら、私も私で考えてみる。

 数秒考えた結果……、


「デジレ、あんた意識はあるの?」


 まずは問いかけてみることにした。

 力の強い邪竜は話すこともあるので、デジレの意識があるのであれば話すことができるかもしれない。


「…………」


 返事はない。

 ただ、なんとなく私の話していることを理解しているような、そんな印象を受けた。

 言葉を理解していないなら、間髪入れずに攻撃をしてくるはずだ。


 それなのに、この邪竜は攻撃をしてこなかった。

 ただ、無言でそこに立っているだけ。



 ――――つまりこれは。



「デ~ジ~レ~?」


 こいつ、意識ある。

 自分の意思で、私たちと戦おうとしている。


「仲良くしてたんだから、少しくらいお話ししようよ~。ね~?」


 にっこりと笑顔を浮かべて、邪竜に向かって話しかける。


「あんたが邪竜になってまで、魔王につくす理由、私知りたいんだけど」


 意識があるということは、少なくとも無理矢理邪竜にされたわけではないはずだ。

 嫌だったとしても、魔王だかドゥルジだかに一度は意思を確認されているはず。


 まあ、魔王軍とそれなりに仲良くやっているんだよ、こいつは。

 マジで意味がわからん。


「……何すっか」

「声ひっく!!!!」


 邪竜――デジレが口を開いた。


「それが最初に言うことっすか?」

「だって、本当に低いんだもん。びっくりしたよ」


 巨大な怪物とかに変身すると、声が低くなったりノイズがかった声になったりするのは、アニメだと定番だけど、実際体験してみると、とっても驚く。

 声が変わっているなんて、考えてもいなかったので、余計に驚いている節はある。


「だからって、間髪いれずいうことっすか」

「ぐちぐちうるさいな」


 いいじゃねーか、思ったこと口に出しても!


「で? 口を開いたってことは、話す気あるってことでいいんだよね? まあ、話す気なくても聞くけど」


 口がどんなにかたくても、力ずくって手段があるからね。無駄な抵抗はやめた方がいいよね。


「……そうなるってわかってるから、口開いたんっすよ」

「さっすがデジレ、わかってる~!」


 短い付き合いじゃなかったし、私のこと多少はわかってるよね!


「それにこのままだと、後味悪いっすからね」

「うんうん、そうだよねぇ。このままでデジレぼこぼこにするの、流石の私も少し心が痛む」

「俺が負ける前提なんっすか? もっといい戦いすると思うっすけどね」


 相変わらずへらへらと笑うデジレに、イライラしてしまって、思わず手が出てしまう。


 邪竜の左頬と思われる場所に、私の握りこぶしがめりこむ。

 その勢いで、邪竜(デジレ)が吹っ飛んで、壁にたたきつけられた。

 どおおおおおんといい音が響き渡る。


「あ、少し力入れすぎたかも」


 てへ☆ いけないいけない。

 むかつくからって、暴力に訴えかけるのはダメだよね。反省反省。


「……力入れすぎたどころじゃないでしょ」


 そんな私を引き気味で、ムーシュが見てくる。


「そうかな?」

「そうだよ。どう見ても気絶してるじゃん」


 確認するためにデジレに近づくと、確かに気絶していた。

 うん、まあ、やりすぎたかな……。あはは……。


「で、何か思い出したの?」

「なんとなくは」


 返事は曖昧だけど、手がかりと言えるものが手に入るかもしれないぞ!?


「体の構造を変えるって本当に難しい。しかも、人から邪竜にだなんてありえなくない?」

「体の大きさも骨格も何もかも違うもんね」

「で、これは推測なんだけど、一種の幻想魔法なんじゃないかなって。幻想魔法ってよりは魔王の魔力をまとわせてるっていうか」

「体を邪竜に見せてるってこと?」


 でも、それにしては殴ったときの“邪竜感”があったけどなぁ……。


「見せてるっていうか、思い込ませている(・・・・・・・・)っていうか。質量とか声とかも含めて。魔王の魔力をまとわせることによって、だましてる部分はあるんじゃないかな?」


 う~ん。いまいちわからん。

 デジレには魔王の魔力がまとわりついてるってこと?


「で、戻す方法は?」


 理屈はどうであれ、戻せればそれでいいんだよ。


「エイリーが聖魔法をぶつければ、ワンチャンあるかなって」

「よっし、それなら得意分野!」


 なるほどなるほど、完全に理解した。

 魔王の魔力を全部浄化しちゃえばいいのね!


 私はクラウソラスを抜いて、息を吸う。


「神聖な光よ穿(うがて)悪しきもの、私はここに祈り捧げるっ!」


 ありったけの魔力を注ぎ込んで、踊りながら詠う。


 デジレを力強い光が包み込んで、そして――。



 光が消えると、そこには人間の姿に戻ったデジレがいた。




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