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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第3節 敵国に潜入しちゃったのでめんどくさいこと全部蹴散らそうと思う
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78 意外とノリがいい奴?

 その後もさまざまな苦労を乗り越え、私たちは邪竜がいる部屋近くについた。


「やっとついたよぉ」


 はああと深いため息をつくと、シェミーもメリッサも何も言わず苦笑いを浮かべた。

 ふたりとも言葉にしないだけで、相当疲れているように見える。


「ひとつひとつは厄介じゃなかったのに、数が重なるとこんなに厄介になるとは……」


 数の暴力とはこのことである。

 体で実感させられた……。


「まあ、この先の邪竜を倒せば一息つけるよね?」

「たぶん、おそらくは、きっと」

「そんなに確定できない!?」

「だって、倒して一見落着ってわけにはならないし」

「それはそうだけど!!!」


 少しは「そうだよ」って言ってくれてもよくない!?

 必要な嘘もこの世の中にはあるんだよ。

 そう言ってくれることで元気になる人がいるんだよ、ここに! 主に私!!!


「ああもういいよ! さっさと倒してさっさと出よう!!!」


 ちょっと、ほんのちょっと不機嫌になった私はずんずんと歩き出した。

 少し遅れて、シェミーとメリッサが付いてくる足音が聞こえてきた。



 * * *



 部屋が近づくと、『ギャオオオオオオオ』という咆哮がだんだん大きくなってくる。

 うーん、この耳がキーンとなる感じ、久しぶりだなぁ。


「じゃあ、いくよ」


 一応、シェミーとメリッサの方を見て確認すると、ふたりともこくりとうなずいた。


「オッケー。乗り込むよおおお」


 ふたりの準備もできたので、勢いよくドアを蹴った。


「なんでドアを蹴ったの!?」

「なんとなくっ!」

「なんとなくでやらないで。無駄に刺激してどうするの!?」

「そのときはそのとき!」


 蹴って壊れたドアの先には、一匹の邪竜がいた。

 そこまで大きくないけれど、強さはそこそこありそうだった。

 まあ、そんなの関係なく倒すんだけど。


 気合いを入れ、さっさと片付けちゃおう。

 そう思ったとき、邪竜の後ろから出てきた。


「やっぱり来たね」


 そう言って姿を現わしたのは、やっぱりというか予想通りというかアズダハーだった。

 彼女の顔を見た瞬間、私の頭はあることで埋め尽くされる。


「やったああああああ。そっちから出てきてくれたあああああ!!!!」


 よっしゃ、ここから出られるんじゃね!?

 アズダハーが出てきてくれればこっちのもんよ。

 少しはなんとかなる可能性が出てきたでしょ!!!


 わーいわーい!!

 ちょっとテンション上がってきた!!!


「うおっ!? なんなんだお前!? 気が狂ったか!?」


 私の叫びに、アズダハーがとっても驚いた顔をした。


「ねえねえ、アズダハー。さっさとここから出してよ。お願いだよ」

「出すわけないだろ」

「そこをなんとか」

「値引き交渉とかそういうんじゃないんだよ、わかってる!?」

「わかってる!」

「わかってるなら頼むなよ」

「言ってみたら案外なんとかなるかもしれないじゃん?」

「ならないっ!」


 そこまで言い切ると、はあはあと息が上がっている。

 ここまで付き合ってくれるなんて、アズダハーいい奴じゃん。少し見直したよ。


「なんなんだよ、お前……」

「私? エイリーだけど?」

「そういうことじゃないっ!」


 おお。乗ってくれた。

 意外とこいつ、ノリいいな。


「話が進まない」

「じゃあ、ここから出して?」

「それは無理って言ってる!」


 そっか、流されてくれないか~。残念。


「でも、ここに連れてきたのは、アズダハーでしょ? 出口とか出る方法とかわかってるんでしょ?」

「それは知ってるけど。教えるわけない。ドゥルジ様の命令で、あんたたちをここに閉じ込めたんだし」


 どうやってもアズダハーは考えを変えるつもりはないようだった。

 まあ、当たり前なんだけど。

 そう簡単にはいかないよねぇ。


「じゃあ、力づくってことでいい?」

「いいよ、できるものならね」


 何やらアズダハーが妖しげに笑った。

 何か奥の手でもあるのか?


「あの邪竜、倒してみなよ。あれは、あんたもよく知っている」



 ――――デジレ、だけどね。



 アズダハーはそう言い切った。

 信じられないことを言い切った。


「は?」

「聞き取れなかった? じゃあ、もう一回言ってあげる。あれはドゥルジ様の力で邪竜になったデジレだよ」


 不敵に笑うアズダハー。

 その表情には意地悪いものは感じるが、悪いと思っているものは全く感じられなかった。


 あれが、デジレ?

 何を言ってるんだ、こいつは。


 アズダハーに向ける感情がわからなかった。


「……アズダハー」


 静かな声が響き渡った。

 声のした方向を見ると、いつも穏やかなシェミーの、無表情な顔があった。


 直感的にわかった。

 シェミー、ものすごく怒っている。

 今までにないくらいに、怒っている。


 ひえええ、こわ。怖すぎる。

 でも、気持ちはわからないでもない。

 しかも、アズダハーは、シェミーの妹ともいえる存在だ。


「はは、どうしたの、姉ちゃん?」


 想像以上に怒っているシェミーに、興奮した様子でアズダハーは答えた。


「どうしたの、じゃない」

「そんなに怒らなくても。所詮、あいつは人間だ」

「アズッ!」


 シェミーが声をあげ、そして自分を落ち着かせるように深呼吸をした。


「アズ」

「何? 姉ちゃん」

「あなたを倒せば、ここから出してくれる?」

「さあ?」

「聞いたのが間違いね」


 一度目を閉じ、そしてゆっくりとシェミーはまぶたを開いていく。

 その瞳は決意のこもったものだった。


「あなたを正して、私は、私たちはここから出る」


 シェミーがにらみつけると、アズダハーも真剣な顔つきになる。


「その言葉そっくり返す。姉ちゃんの考えを、私が正すよ」


 長い時間を経て、魔王に作られた姉妹の喧嘩が始まった。





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