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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第3節 敵国に潜入しちゃったのでめんどくさいこと全部蹴散らそうと思う
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76 状況把握(脱出は一瞬)

「ここ、どこ?!」


 最初に目を覚ましたのは、私だった。

 キョロキョロと辺りを見渡しても、真っ暗で周りをよく把握できない。

 けれど、なんとなく鉄格子らしきものが見えるから、多分ここはどこかの牢だ。

 近づいて触ってみたけど、鉄格子だった。


 さて、私たちはどうしてこんな場所に飛ばされたんだろう。

 時間稼ぎみたいなニュアンスのことをアズダハーは言ってたけど……。


 うん。こういう考える系は、シェミーとかメリッサの仕事だ。

 とりあえず、ふたりを起こそう。そうしよう。


 さっさと決断をした私は、後ろに倒れているふたりの体を揺する。

 決して諦めたわけじゃない。本当に本当だからね? 適材適所って言うじゃん! 合理的な判断なわけなんだよ。そうなの。そうなんだからっ!


「ねえ、おはよー。起きてよー。ここがどこだかわからないよー」


 そんな私の困った声が聞こえたのか、すぐにふたりは起きてくれた。


「えーと、ここはどこ?」

「私にもわからない」

「閉じ込められてるんですか?」

「そうなんだよー」


 起きて一瞬で、状況把握をしてしまうなんて、流石ふたりとも優秀だぁ!

 これなら、なんとかなるね。うんうん。


 当の本人たちは、嬉しそうに笑っている(へらへらしている)私を見て、顔を見合わせていた。

 そして、ため息を吐いて、一言。


「「何も考える気がないね?」」


 ぴったりハモった。


「あはは~、バレたか~」


 バレてしまったか~。

 考えるのがめんどくさくて、思考を放棄してました。


 だって、私より頭良い人が、ふたりもいるんだもん。別にいいじゃん。

 その代わり、力仕事で実力を発揮するわけだし。


「エイリーさ、もう少し考えなよ。そんなに難しい謎解きでもないでしょ、これ」


 やれやれと言うのは、メリッサだった。

 いや、メリッサというか――――


「その話し方は、ムーシュ?」

「そうそう。この状況なら、あたしの方が役に立つかなって」


 確かにその通りだ。

 この状況は、アズダハーが作りだしたもの。そして、それにはドゥルジとかいう上級悪魔も関わっているはずだ。

 悪魔(ムーシュ)の持ってる知識が役に立つかもしれない。


 何か気になることでもあったのか、ムーシュは目を閉じた。

 多分、この辺一帯の気配を辿ってるんだろう。


「ここ、なんか嫌な気配を感じるんだよね。上級悪魔の気配もするけど、それより近くになんか、いる。うーん、これは邪竜か?」

「邪竜?! 近くにいるの?!」


 近くに邪竜がいるなんて、驚きだ。

 そういえば、ゼノビィア――というか、アエーシュマと、邪竜を倒したことがあったなぁ……。


「厄介なところに閉じ込められたかもねぇ」


 と言うわりには、そこまで深刻そうな感じはしなかった。

 私だって邪竜を倒したことがあるし、ムーシュもなんらかの対処方法を知っているのだろう。


「そうでもないかもしれない。まあ、厄介な場所なことは変わらないけど」

「どういうこと?」


 良い報告をするであろうシェミーの方が深刻そうな顔をしていた。


「ここ、王宮の真下みたい」


 場所を知ることのできるマップを見ながら、シェミーは言う。


「マジで?!」


 敵地に飛ばされたってわけか。ラッキー!

 わざわざ出向く必要なくなったじゃん。


「だから、上級悪魔の気配もしたんだね。ザリチュ様があたしたちをおびき出すために、わざと気配を出していたんだ」


 ムーシュも納得した様子だ。


 そっかぁ。

 王宮の地下に囚われてるのかぁ。


「……てか、地下に邪竜がいるって大丈夫なの?」

「一番に気にするとこ、そこ?」

「だって、偉い人が集まる王宮の地下に、あんなに大きい邪竜がいるなんて、危なくない?」


 ザリチュとかなら、楽勝で倒せるんだろうけど、地上に出て暴れ出したときの被害がヤバそう。

 大きさにもよるけど、下手したら王宮とか片足で潰されそうじゃん?


「大丈夫だよ。きっと、空間隔離的なことしてるはずだし、使役もしてるんじゃない?」


 呆れたようにため息を吐いたあと、ムーシュが教えてくれた。

 確かに、上級悪魔、しかも五悪魔衆(アンユ・ダエーワ)のひとりなら、それくらいは余裕でできそうだ。


 状況はざっと把握できたかな。

 ここは、王宮の地下牢。邪竜が近くにいる。

 話からするに、計画したのは、十中八九ドゥルジなんだろうなぁ。


「空間隔離されててもされてなくても、この地下牢の出口を見つければいいってこと?」


 その言葉に、シェミーもメリッサもうなづいた。


「じゃあ、とりあえず、この鉄格子、壊せばいい?」

「ちょっと待って」


 え? 力強く止められたんですけど?

 え? 今の脱出しようって流れだったよね?

 なんで、止めるんですか??

 本気でわからないんだけど……。


「その前に、聞いておかないといけないことがあります」


 ぴしっと姿勢をただして、シェミーがこっちを見てくる。

 敬語だし、逆に怖いよぉ。


 私もつられてぴしっとすると、シェミーは満足そうな表情を浮かべた。


「こんな状況になったんだし、エイリーの隠してたこと、教えてもらわないといけないわ。話してくれるよね?」


 それは「話せ」って言う脅迫じゃ……。


「話してくれるよね?」


 念を押されてしまった。

 笑顔が怖いよ、シェミーさん……。



 こうして私は、アエーシュマとの話をひとつも漏らすことなく話したのだった。



 *



「「いや、間違いなくそれが原因じゃん」」


 ハモり再び。

 話を聞き終えたシェミーとムーシュは、何故か納得したご様子。


「エイリーが逃亡した風に見せて、アエーシュマを仲間に引き入れようとしてるでしょ」

「まあ、簡単にアエーシュマ様のことを信用するって方が難しいか」


 え? そうなの? マジで?


「この状況の原因が、私とアエーシュマの戦いにあるって言うの?」

「むしろそれしかないでしょ」

「だって、戦いのこと、誰にも漏らしてないはずだよ」


 勿論、それはアエーシュマだって同じはずだ。

 わざわざ、『敵にまわる可能性がありますよ~』なんてことを宣言するはずがない。


五悪魔衆(アンユ・ダエーワ)の中で一番頭の良いドゥルジ様が、アエーシュマ様の性格を把握していないわけない」

「え。そこまで考えられちゃうの?」

「ザリチュ様なら、やると思うよ。もしくはその会話を聞いてたか」

「ひえええええ」


 頭が良い人って怖いな。

 あらゆる可能性を考えちゃうんだもんな。


「でもさ、タイミングがタイミングなんだし、『もしかして?』くらいは考えようよ。相手の頭良い悪い関係なしにさ」


 エイリーは少しも考えてなかったでしょと、シェミーは呆れたようにつぶやいた。

 その通りなので、反論ができない。


「だって、めんどくさかったんだもん」


 代わりに言い訳をしておく。

 アエーシュマの考え方、あいつの“楽しい”を考えて、叶えるのがめんどくさかったんだもん。


 ……シェミーたちの視線が痛い。

 思考を放棄してた私も悪いけど、でもだって、本気でめんどくさいんだもん。


 これ以上何かを言われる前に、先手を打つことにした。

 強行突破は私の得意分野だ。


「ええい。もういいでしょ。さっさと先に進もうよ!」


 ふたりが何かを言う前に、魔法でドッカーンと鉄格子に穴を開ける。


「ほら、これで先に進める! 行こう行こう!」


 そんなことを言いながら穴をくぐり、ふたりを急かす。

 ふたりは驚いた様子で見つめ合っていたが、諦めて穴をくぐった。

 よし、3人そろって脱獄成功!


「相変わらず豪快な……」


 なんてつぶやく声が聞こえたけど、無視無視!

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