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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第3節 敵国に潜入しちゃったのでめんどくさいこと全部蹴散らそうと思う
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75 再会したら、一度相手が去るのがテンプレだよね?

 アエーシュマの様子を見ると、どうやら他のみんなには自分のことを話してないようだった。

 まだどっちの味方になるか決めてないからなのか、裏切る気満々だから話さないのかはわからなかった。けれど、アエーシュマの性格からして、多分後者のはず。


 別に私がみんなに話してもよかったんだけど、それで逆ギレされても困るしなぁ……。

 こういうのって、絶対、あいつの『楽しいこと』じゃないもん。


 そんなわけで、アエーシュマのことは黙っておくことにした。

 めんどくさいわけじゃなくて、色々考えた結果なんだからねっ!



 *



「エイリー、何かあった? ちょっと様子が変じゃない?」

「それ、私も思いました」


 ……隠すつもりが、態度でバレバレだったみたいです。


 シェミーとメリッサにそんなことを言われてしまい、ぎくっとなる。

 ちなみに、グリーは模擬戦の準備で(第一グループで先陣を切るため)、ニコレットとアエーシュマは席をとっている。

 で、私たちは買い出し組。

 この模擬戦、お祭りみたいに屋台が並んでいるのだ。


 兵を集めるための模擬戦なのに、これでいいのかなぁ……。

 みんな楽しそうだから、何やってもいいってもんじゃないでしょ……。


「別に何もないよ?」

「「嘘」」


 本人が何もないって言ってるんだから、そんなに力強く断定しないでほしいなぁ。

 隠してることはあるから、間違っているわけではないんだけど、それでもさぁ。


「私、そんなに信用ならない?」

「ううん。そうじゃなくて、エイリーがわかりやすいだけだよ」

「シェミーの言うとおりです」


 信用してないわけじゃないんだ。それはよかった。

 ……よかったのか?


「ねえ、私ってそんなにわかりやすい? わかりやすいの?!」

「「はい」」


 即答。

 ふりでもいいから、もう少し考えてほしかったかなぁ。


「無理に聞こうとはしませんから、もう少し隠す努力をしてほしいなって話です」


 落ち込んでいると、メリッサが気をつかって優しい言葉をかけてくれる。

 この時点でもうわかりやすいってことか……。

 少し、気をつけようかな……。


「そうだね。聞いていいのか悪いのか、わからない感じなんだもん」

「それは、その……。なんか、ごめんなさい……」


 そうだよな。

 あからさまに『私、何かを隠し事してます』って雰囲気だされたら、どうするべきかわからないもんね。



「楽しそうだね。姉ちゃん」


 善処しよう。そんなことをのんびり考えていたら、聞き覚えのある声がした。

 その声は、私たちが探していた人物のものによく似ていて――。


「……アズダハー」

「と、デジレ」


 ノエルちゃん――中身はアズダハーとデジレが、目の前に突然現れた。

 どうやらふたりは、私たちのことを待ち伏せしていたようだ。


 まさかこんなに早く、闘技場に現れるなんて思ってなかったなぁ。

 意外にせっかちで、自信家なのかな?


「あの、僕のことついでみたいに言うのやめてほしいんっすけど……」

「え? 何も間違ってなくない?」


 デジレがわけのわからない文句を言ってくるので、とりあえず適当に流しておく。

 私、というより、シェミーやグリーにとっては、デジレってどうでもいい存在だよなぁ。

 私はあいつのこと、ぶん殴るって目的があるけど。それだけだし。


「酷いっすよ」

「事実だし。それにその話、今する必要なくない?」


 待ち伏せていたということは、私たちに用事があるということ。

 こんなくだらない話をするために待っていたわけないだろうに。


「冷たいっすねぇ」

「この状況で通常運転なあんたがおかしいんだけど」


 ヘラヘラしてるその姿、結構ムカつく。


「……アズ、用件は何?」


 ふざけた空気を断ち切るように、シェミーが冷たい声を出した。

 一気にシリアスモードに移行する。

 デジレもこの中、ふざけることはできないようで、大人しく口を閉じた。


「わかりきっているのに聞くんだ?」

「わかりきってるからこそ聞くの」


 挑発的な笑みを浮かべるアズダハーと冷静に対処するシェミー。

 両者はしばらく探るように見つめ合う。


「姉ちゃんらしいね」


 沈黙を破ったのはアズダハーの方で、やはりと言わんばかりに笑いを漏らした。


「寛大なドゥルジ様は最後に一度だけチャンスを与えるとおっしゃった。ザリチュ(・・・・)、それからそこにいるムーシュ(・・・・)、誰が主か考えろ、と」


 わざわざ悪魔の名前を呼ぶのって、なんかいやらしいよねぇ。

 悪魔(彼女)たちにとって、主は誰かと嫌でもつきつけている。


「ふ~ん。面白い話だね。もしかして、忠誠を示すために『踊る戦乙女(わたし)を殺せ』とでも言うつもり?」

「まさか。そこまでは言わないよ」

「言わないの?!」


 驚きなんだけど!

 え? こういうのって大抵、仲間を殺すんじゃないの?

 過去と決別する的な。スパイ目的で入り込もうとすることを阻止する的な。


「馬鹿か、お前」

「馬鹿って言われた!」


 今回に限っては、間違ったこと言ってない自信あるんだけど?! ありまくりなんだけど?!


「お前に勝てる奴なんてほとんどいないのに、ましてや殺すことなんか不可能に決まってるじゃない」

「それはその通りだけど……。もしかしたらってこともあるじゃん?」

「ああ、あるかもしれないな。でも、仲間にしたい奴に無理難題を押しつけるってのは、本末転倒じゃないか」

「……うぐっ」

「お前を倒すには、優秀な人材がいくらいても足りないんだよ」


 アズダハーが言ってることは理にかなっていた。

 というか、割と本気の勧誘なんだ。意外。

 てっきり、一度裏切ったから、容赦はしないぞ~ってなるのかと思った。


「まあ、今すぐ結論が出るわけないだろう。いや、今決められても困ると言った方が正しいかな」


 私を黙らせると、アズダハーはシェミーとメリッサを見つめる。


「私の心はとっくに決まってる。それはアズも知っているはずでしょ?」

「そうだね」

「じゃあ、どうして、このタイミングで姿を見せたの?」


 言われてみれば、確かに。

 シェミーの考えが揺らぐことなんてないことを、妹であるアズダハーは知っているはずだ。

 だったら、最初から忠告なんてしないで、戦いに持ち込んだ方が手間がかからない。


 それにも関わらず、今日、私たちの前に姿を現したわけは――。


「あはは。答えがほぼ決まってる姉ちゃんたちの答えをわざわざ聞きに来るわけないでしょ。これはあくまでもついで、というより準備なんだよ」

「は?」

「だから、ちょっと姿をくらませてもらってもいいかな?」


 そして、アズダハーはパチンと指を鳴らした。


「まさか……!」


 それと同時に、私たちの足下に魔方陣が浮かび上がる。


 これは、非常にまずい、かもしれない!

 この魔法陣、転移魔法を発動するものだよ……!


「退屈はしないと思うよ」


 にっこりと笑うアズダハー。

 そして、暗転する視界。



 次に目を開けると、私たちは牢の中にいた。




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