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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第3節 敵国に潜入しちゃったのでめんどくさいこと全部蹴散らそうと思う
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73 私がおかしいのか?他がおかしいのか?

 いよいよ、明日は傭兵たちがこぞって参加する模擬戦の日。

 勿論模擬戦に参加するからと言って、特別なことはしていない。本気を出さなくても、勝てそうな気配がするし。

 まあ、一応早めに寝るか~なんて、各々が気楽に過ごしていた。


 ……ニコレットを除いて。


「そんな暗い顔をして、どうしたのさ?」


 ニコレットは打ち合わせがあるからとか言って、今日は1日出かけていた。

 で、帰ってきたらこれだ。深刻そうな顔をして、何かを考えている。


 だから、「誰が行く?」「エイリーが行け」みたいな目配せ合戦があり、私がこうして声をかけることになったのだ。秒で決まった。

 私に押しつけていいのかっていう疑問もあるけど、気になってるし特に気にしないでいっか。

 私は優しいのだ。


「うん。ちょっと色々あって」

「なんか問題でも発生したの?」

「そんなところ」


 ニコレットは眉間をぐりぐりとしながら、ため息を吐いた。


「で? 何が起こったの?」


 こういうのはため込んでないで、話しちゃった方が楽になるよ。

 私に解決できる問題かはわからないけど、こっちには超優秀な仲間がついてるんだから!


「ディカイオシュネーの上層部、完全に悪魔に掌握されてることが判明したわ」

「へえ、そっか。で?」

「軽すぎる」


 ニコレットがまた、眉間をぐりぐりとする。


 今の話で驚くところあったかなぁ。

 驚くふりしとけば良かったかなぁ。


「だって、なんとなくわかってたことでしょ? 今更って感じもするし」


 悪魔が潜んで何かしてるってのは、教えてもらってたし。

 それくらいしか、魔王が復活したタイミングで戦争なんて仕掛けてこない。

 ノエルちゃんたちが逃げてきたのもディカイオシュネーだし、前に倒したサルワだって、ディカイオシュネーで権力を握っていた。


「そうね。でも、それは一部、多くても派閥の一派くらいだと思っていた。

 でも違った。意味通り、()()()支配されているのよ」

「ふ~ん?」


 何が違うのかさっぱりわからないし、何が問題なのかもさっぱりわからない。


「よくわかってないわね、エイリー」


 グリーは、ニコレットが頭を抱えている理由がわかるらしい。

 他のみんなも、なんとなくわかっているようだった。


 え? もしかして、わからないほうがおかしいの?

 私の頭が悪いってこと?!


「人間はそれぞれ性格が違うでしょ? それに国を動かす上層部ともなれば、様々な思惑が飛び交って、派閥ができるもの。ここまではわかる?」

「うん。派閥争いって怖いよね」


 暗殺してみたり、策を弄してライバルを破滅させたり、恐ろしいものだよね。

 そんなことしてるなら、もっと別のことに時間を使えって、いつも思う。


「まとまっている国でも、大きな志は同じでも、皆が同じ意見を持っているわけじゃないわ。多少の小競り合いは生まれるのは必然のこと。つまり、完全な掌握って、想像以上に難しいのよ」

「へえ~。そうなんだ。で?」

「は?」


 なるほど、驚いている理由はわかった。

 偉い人たちって、色々めんどくさいところがあるからなぁ。意見なんて簡単にまとまらないよねぇ。


「いや、だって、悪魔なら魔法で色々できそうだから、洗脳とか朝飯前なんじゃない?」

「いくら上級悪魔と言っても、意思を奪うほどの洗脳魔法は何十人には使えない。殺して傀儡にした方がよっぽど早い。一応聞くけど、全員、生きてるんだよね?」

「生きてると思うわ。意思疎通はとれるし、個性も失ってないって報告があがっている」


 アエーシュマの質問を、ニコレットが肯定する。


「というわけだから、軽い洗脳は使ってるのかもしれないけど、ほとんどは後ろにいる悪魔の実力ってわけだ」

「へえ。頭脳派の悪魔もいるんだねぇ」


 すごいなぁ。

 魔法以外の方法で、同じ方向を向かせるなんて。どんな方法を使ってるんだろ?


「ねえ、どうしてエイリーはそんなに落ち着いてるの?」


 これほど説明を受けても、まだ余裕そうにしている私を不思議に思ったのか、シェミーがそんなことを聞いてきた。


「え? だって、言っちゃえば雑魚が増えただけじゃん? 戦うのにあんまり支障はないし……。親玉の悪魔を倒しちゃえば、何の問題もないわけだし?」


 私の言葉に皆は何も言ってこない。

 なんか、絶句!!って雰囲気だった。


 ……あれ? 私、おかしなこと言った? 言ってないよね?

 だって、操られているからと言って、邪魔できる手段なんて限られてるし。

 仮に一斉に襲いかかって来たとしても、魔法で眠らせちゃえば終わりだし。


 強いて言うなら、頭脳戦であれこれ邪魔されるのは厄介。だけど、それだって強行突破しちゃえば、問題ないし?


 うんうん。何も問題ないよね。

 ちょっと頭が良い悪魔がいるだけだよ!


「みんな黙ってどうしたの? 慎重なのはいいことだけど、心配しすぎはよくないんじゃない?」


 にっこりと笑ってみせると、皆が一斉に息を吐き出した。今まで息を止めていたかのような勢いだった。


「自信たっぷりだねぇ。流石~!」

「そんなことを言えるのはエイリーだけだよ」

「本当、頼もしいです」

「その発言を自信過剰で言ってないところが恐ろしいのよね」


 彼女たちは私のことをよく知っているので、あっさりと私の考えを受け入れてくれた。

 そうそう、それくらい深く考えなくていいんだよ。


「……私はもう、何にも驚きません」


 ニコレットだけは、何かぶつぶつとつぶやいていてけど。




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