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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第3節 敵国に潜入しちゃったのでめんどくさいこと全部蹴散らそうと思う
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66 私も何が何だかわかってないんです。

 人通りはない路地裏とはいえ、いつ誰が来るかわからないので、とりあえずニコレットの家に行くことにした。


「少し散らかってるけど、どうぞ」


 ニコレットの家はひとり暮らしにしては広かったが、有名な傭兵としては狭いような気がした。様付けされるほど立派な人なら、もっと贅沢できるんじゃないの?

 勿論、塗装が剥がれていたり、どこか壊れていたりしないので、ディカイオシュネーでは立派な部類に入る家なのかな?


 きょろきょろと家の中を見渡しながら、考えているとニコレットがお茶を淹れてきてくれた。

 私の前にお茶を置くと、ニコレットは私の前に座る。


「改めまして、自己紹介をするね。私はニコレット。ベルナ様の密偵のひとりで、ディカイオシュネー潜入計画のリーダーを任されているの。踊る戦乙女(ヴァルキリー)のことは聞いているし、ディカイオシュネー(こっち)にいても色々流れてくるわ」


 うわー。私の話、ディカイオシュネーにまで流れてるんだ。なんでだよ。そんなに私のこと知りたいわけ?


「ちなみにどんな話?」

「それはもう色々。上級悪魔を倒しただとか、悪魔を従えたとか、魔物の大群をあっさり倒したとか。魔王に宣戦布告しただとか、魔王と口喧嘩しただとか、他にも色々」

「そうかそうか。そうなんだね」


 ほとんど流れてるじゃねーか!

 なんでだよ。なんでこんなに流れてるの?!


 そうかっ! デジレとかアズダハーとか、あいつらの仕業だな?!

 あいつらなら知っててもおかしくないし、面白がってあることないこと言いふらしてそう。特にデジレ。


「そこまで知られてるなら自己紹介しなくてもいいだろうけど、私も一応。私はエイリー。踊る戦乙女(ヴァルキリー)って呼ばれてるけど、エイリーって呼んでほしいな。公爵家の出だけど令嬢なんて柄じゃないから、その辺も気にしなくて大丈夫」


 身体はルシール・ネルソンとはいえ、中身は完全に庶民。敬語とかむずがゆくてたまらない。


「で、ニコレットがこの計画のリーダーってことは、私の潜入も助けてくれるってことなんだよね?」

「うん。計画実行のサポートは勿論、日常生活のことも任せて」

「それは助かる」


 ディカイオシュネーなんて来たことなかったし(そもそも気軽に来れるところじゃない)、何の準備もせず来てしまったのだ。どうやって生きていけばいいのかわからない。

 他の国ならともかく、きな臭いディカイオシュネーだしなぁ……。

 こういう国ってめんどくさい決まりとか、意味のわからない法律とかあるんだよねぇ……。


「まあ、いきなり来ちゃったから、十分に準備はできてないんだけどね」

「それはごめん」

「どうしていきなり来たの? 計画を早める理由でもあったの?」


 真剣な顔をしてニコレットは私を見てくる。

 そうだよねぇ。前触れもなくいきなり現れたら、何かあったのかって普通考えるよね。


「全然。ただ、転移魔法の練習をしてたら、ディカイオシュネーに来ちゃったのだけ」

「はい?」

「あ、よく聞こえなかった? なんやかんやあって、転移魔法の練習をすることになったんだけど、なんか気がついたらここにいたんだよねぇ」

「あの、え? は?」

「だから、転移魔法の練習をしてたんだけどね……」

「あ、聞こえてないわけじゃないから。理解できないだけだから」


 うん、そうだよね。聞こえてないわけないよね。理解不能なだけだよね。

 安心してよ。当の本人も全く状況が理解できてないから。


「確認させてね? まず、転移魔法の練習? どうして?」

「父さんたちがね、転移魔法を教えてくれって、ゼノビィアに頼んだらしくて」

「……父さんたちって、ネルソン公爵家の方々よね?」

「そうだよ。あ、聞いたことない? 私の家族ちょっと変わってるんだよ」

「こういうのもなんだけど、ちょっとどころじゃないと思う。かなりだけどね」


 だよねぇ……! あれをちょっとって表現しちゃったダメだよねぇ。

 ワンチャンいけないかなって思ったんだけど、やっぱりダメかぁ……。


「まあ、そんなわけで練習しようとしたんだけどね?」

「まだ言いたいことはあるけど、いちいち気にしてたらダメな気がしてきた」

「そうそう。気にしないのが一番」


 こういうのは考えたら負けなんだよ。

 なんだか不満そうな顔をしているニコレットだったけど、気にせず話を進めることにする。

 それが一番だしね!!


「それで、試しに魔法使ってみようって話になって、ダメ元でやってみた結果がこれ」

「なんで?!」

「それは私も聞きたい。流石に私だって魔法が発動するとは思わなかったし。気がついたらディカイオシュネーにいたんだよ」

「恐ろしすぎる」

「ほんとにね」


 ニコレット、顔が若干青いけど大丈夫かな?


「ニコレットに会えて良かったよ。会わなかったら、私どうなってたかわかんないし」

「エイリーの場合、どうにかすると思うけどね。なんなら、本来の目的も達成してそう。しかも正面突破で」

「確かにそれは一理ある」

「あるんかい」


 考えられる未来としては、どう頑張ったとしても私の正体がばれると思うんだよね。そして、捕まるでしょ。

 でも、私は大人しくしてる性格じゃないから、力技で脱出して、なんやかんやでどーんってやると思うんだよねぇ……。

 簡単に想像がつく。


「ニコレット、タイミングよくあそこにいたよね。ありがたい偶然」

「運良く近くにはいたんだけど、ゼノビィアから『エイリーがもしかしたらそっちにいるかも』って連絡は来た」

「え? なんでゼノビィアと連絡とってるの?」


 ここで新たな新情報。

 ニコレット、アエーシュマ(ゼノビィア)と連絡を取っていた。


「え? あ、もしかして聞いてない?」

「え、何を?」

「今回の作戦のことについて」

「あ、うん。詳しくは聞いてない」


 そう返事をしたのと同時に、こんこんとドアを叩く音が聞こえた。




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