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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第2節 それぞれの思惑が明らかになるようで……?
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60 踊る戦乙女は意気地なし

 私はたった今、アイオーンに帰ってきました! ただいま!


 アエーシュマと和解した私は、マカリオスの国王に魔王城へ行ける転移陣のことを報告した。

 そしたら、ブライアンとミリッツェアが「さっさと帰れ」と言ってきたのだ。

 私としてはもう少し居座る予定だったんだけど、国王にも「帰っていい」と言われ、アエーシュマとシェミーと共に帰ってきたのである。

 引き留めたのは、父さんと母さんと兄さんだけ。うん、いつも通り愛が重かったです。


 ちなみに、ゼノビィアが悪魔だということは、シェミーに話した。


「言われてみれば、確かに上級悪魔だね」


 と、シェミーはさらっと流していた。

 あまりの軽さに驚いたけど、そういえばシェミーも前世は人型の魔物だったことを思い出し、その軽さに納得した。

 人間、魔物、悪魔なんて関係ない。大事なのは、自分がどうしたいか。

 シェミーはそれをよくわかっているのだろう。


 ちなみにアエーシュマも、


「あー。そういうシェミーは、ザリチュだよね~? 懐かしいねぇ」


 なんてのんきなことを言っていた。

 結構重大なカミングアウトのはずなのに、なんかさっぱり終わってしまった。



 * * *



「で、帰ってきたはいいものの、どうしようかな?」


 今後の予定も立てず、追い出されたから帰ってきてしまった。

 この先することを決めてない。

 常日頃、行き当たりばったりな気もするけど、まあ気持ちの問題。


 そう。私は今、ファースとすっごおおおおおおおおおく気まずいのだ。


 ファースと喧嘩して、一歩的に浮気を宣言してマカリオスに行ったのに、そこで恋心を自覚するとか意味のわからない出来事があって、どうしていいのかわからないのだ。

 正直会いたくない。会ったら何かが変わってしまいそうだ。

 でも会いたい。仲直りしたい。

 考えないようにするのが精一杯で、思い出すだけで恥ずかしくて死ねる。


 気持ちの整理もついてないし、後回しでいいよね!

 大事なのは、ノエルちゃんをどうにかすることだよね!

 ファースと会うのはそれからでも……。

 そうだよ、ファースと会ったら、ノエルちゃんに何かするの気が引けるし、また関係がギクシャクしちゃうかも。

 そうだ、そうだよ。その通り。全てが解決してから、ファースに会おう。そうしよう。


「え? そんなの決まってるでしょ?」

「え? 決まってるの?」

「え? 決まってるでしょ。真っ先にやることあるでしょ」

「え? そうなの?」


 きょとんとする私を見て、シェミーはため息をこぼす。

 そんな私たちを見て、アエーシュマはけらけら笑っている。


「殿下に会いに行くことに決まってるでしょ。さっさと仲直りしてください」


 そう言って、シェミーは私の腕をとる。


「えええええええ?! 無理無理無理無理無理!!!! 無理、無理だよ。ダメだよ。ダメなの!」

「駄々をこねない! 覚悟を決める!」

「無理なものは無理なんだよぅ」


 私の心がついていかない!

 勘弁してください!


「どうせ後回しにしたら、一生エイリーから会いに行かないでしょ」

「それは……」

「否定できないんだから、行くよ」


 そう言って、シェミーは歩き出した。

 待って、本当に無理。無理なんだけどおおおお?!


 ……というか、シェミー、力強くない?



「え? なんですんなり王城に入れたの? 怖いんだけど」


 シェミーが向かった先は王城だった。ちなみにアエーシュマはお留守番。

 ファースに会うんだから当たり前なんだけど。

 怖いのはそこからで。

 何かの約束がない限り、簡単に入れる場所ではないのだ。

 なのに、シェミーと私が名前と用件を言うと、あっさり中に入って、しかも面会の約束ができた。


 え? 何この状況。普通に考えて怖いんだけど。


「私の場合は、自由に立ち入りできるようになってるから」

「え? なんで?」

「王妃様とお話するため、かな」


 あー。そう言えば、シェミーのお母さんとマノン様って親友だったんだっけ?

 親友の忘れ形見に会って話をしたくなるのは当然と言ったら当然なのか。

 いやでもだからといって、そう簡単に許可を出してもいいものなのだろうか……?

 マノン様ならやりそうだけど。実際にやってるけれど。


「エイリーの場合は、踊る戦乙女(ヴァルキリー)と隣国の公爵令嬢って肩書きがあるからじゃない? あとは殿下が言付けしてたとか」

「なるほど。……なるほど?」


 納得できるようなできないような?

 頻繁に王城に来てるから、顔が覚えられててもおかしくないし。

 王族の人とは何故か全員と面識あるしねぇ。これは異常。


 一番説得力があるのは、公爵令嬢ってやつかな?

 公爵家の一員として何もしてないけど。マカリオスの屋敷は別荘みたいな感覚だけど。

 でも、家族とは認められてるから、公爵令嬢ってことにはなる? 


「そんなに気にしなくてもいいんじゃない? 悪いことするわけじゃないんだし。あ、もしかしてする気だった?」

「しないよっ!」

「それならいいじゃん。信頼の証ってわけだし。細かいこと気にするなんて、エイリーらしくもない」

「私らしくないって何さ?! 私って意外と繊細なんだよ!」


 確かに図太いところはあるかもしれないけど、根は繊細なんだよ。

 些細なことで傷つくんだよ。

 もっと優しくしてほしい。例えば、もう今日は帰るとかさ?


「それはどう頑張っても信じられないかな……」

「ひどくない?!」


 シェミー、最近どうも遠慮がなくなってるんだよねぇ。

 天使なのには変わりはないんだけど、優しさからくる厳しさに磨きがかかった感じ?


「大丈夫だよ。エイリーならなんとかなるよ」

「この流れでそんなこと言っちゃう?! 冗談にしか聞こえないよ?」


 突然言い出さないでくれ。心の準備ができてないよ。

 そうやって優しいから、ずるいよね。


「でも本心だから。私はそばにいるし、応援してるから」

「……ありがとう」


 にっこりと微笑むシェミーを見て、心が軽くなった気がした。





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