53 無茶言わないでください……
そして食堂では、高級そうな料理が、たくさん並んでいた。前に来たときよりも量増えてない? 気のせい?
隣ではシェミーが目を輝かせている。そわそわしているのを隠しきれないのが可愛い。
「これ、全部食べていいのかな?」
「シェミーの前に並んであるのはシェミーの分だよ。量が多い気もするけど」
「うわぁ。一度、お貴族様の料理を食べてみたかったんだよね」
量が多くて遠慮している……という雰囲気ではない。むしろ、たくさんあって嬉しそうだ。
そうか。シェミーは料理も上手だもんね。色々な料理を食べて研究したいのかもしれない。
「気になることがあるなら、あとで厨房に行って料理人に直接尋ねるといい」
「……いいんですか?!」
父さんが気を利かせてそう言うと、シェミーの顔がますます明るくなる。
シェミーが喜んでくれてよかったと思う反面、父さんたちのリサーチ力にちょっと引いてしまう。
どれだけ私のポイント稼ぎたいんだろ。いや、純粋に友達を連れてきてくれたことが嬉しいだけかもしれないけど。
それにしたって、全力を注ぐところを間違っていると思う……。
という感じで、食事が始まったのだった。
*
テーブルマナーに少し気をつけながら、好きなものを好きなように食べていると。
「こうして、エイリーちゃんから会いに来てくれて良かったわ。来てくれなかったら、私たちの方から行くつもりだったから」
うふふと世間話をするノリで、母さんが爆弾発言を落とす。
え? 会いにくるつもりだったの?
隣国のお貴族様、しかも公爵家という高位な立場の人間が?!
『娘に会いに来た』という理由で、訪問しようとしてたの?!
両国それぞれ準備やら、なにやらあるだろうに。迎え入れるアイオーン側は大変だろうに。
そんな「来ちゃった☆」的なノリで、来ようとしてたの?!
そんな母さんの言葉は序の口だった。
「いっそのこと移住してもいいかもなって話もしてたんだ。エイリーたんはアイオーンの方が居心地が良さそうだし」
「貴族をやめて、平民暮らしも楽しそうですしね」
……ちょいと待て。
思考が全くついていけないんだけど。冗談、冗談だよね?
そう確かめるように父さんたちの方を見ると、彼らはいつもと変わらない笑顔を浮かべている。
「どうかした?」
「……冗談、だよね?」
「私たちは至って本気だったのよ?」
「だった?」
「国王陛下や宰相殿など、国の重鎮から揃って止められちゃったのよ。流石にそれだけの人数の意見を覆すことなんてできなくて、公式に移住するのは諦めたの」
「だよね。当たり前だよね」
ブライアンが言ってた騒動ってのはこれのことか。
国の中枢担う人材が『娘と一緒にいたいから』というわけのわからない理由で、国から出て行いこうとしてるのだ。
常識のある人なら、派閥や好き嫌いなどがあろうが、必死になって止めるだろう。ネルソン公爵家の人々は皆、優秀なのだ(ただしルシールを除く)
「国王陛下に必死になって止められてたので、諦めたんだ。公に移住するのは」
「……はい?」
「こうなったらしょうがない。こっそりと出ていく手段を模索していたんだ」
父さんが真面目な顔で言ってくる。
そんな顔で言うことじゃないんだけど?! 何考えてるのこの人たちは?!
親バカってレベルじゃない!
「そろそろ計画も完成しそう、というときに、エイリーが遊びに来てくれたんだ」
ここに来たのはぶっちゃけ流れだったけど、来てよかった。本当によかった。マカリオスに逃げようって判断した、あのときの私を盛大に讃えたい。
今日来なかったら、ある日突然「移住して来ちゃった☆」って目の前に現れてたってことでしょ? そんなの勘弁してほしい。
「……あの、できるだけ遊びに来るので、移住するのはやめてくれませんか……?マカリオスが回らなくなったら大変だし……」
何より迷惑! 移住されると、色々なことに巻き込まれそうな未来しか見えない!
私は私が生きたいように生きたいんだよ!!
「エイリーがそう言うなら諦めよう」
「ありがとう。そうしてください」
私の言葉には弱いので、あっさりと引き下がってくれる。
最初からそうしてくれればいいんだけどなぁ。できないんだよなぁ。
「でも、ちゃんと遊びに来てね?」
「できる限りね」
「来たら泊まっていくんだよな?」
「用事がなかったら、まあ」
「ご飯は一緒に食べような」
「わかったよ……」
でも、やっぱり諦めきれないようで、色々と質問してきたり、確かめたりしてくる。
めんどくさい彼女かよ。めんどくさい家族だけど。
「移動時間が勿体ないのよね」
「召喚獣でノンストップ、猛スピードで来ても、一時間はかかるね」
「そこの時間を短縮できれば、もっと行き来が楽になるんだけどな。それでこそ毎日」
やっぱり毎日会いたいんかーい。知ってたけど。
「これ以上行き来を早くする方法なんてないよ」
なんてぼやくと、兄さんが何かに気がついたのか、あからさまにハッとした表情を浮かべる。
……嫌な予感。
「そうだ。エイリー、転移魔法は使えないのかい? それがあれば一瞬で、こっちに来れるぞ」
「無茶言わないでください……」
転移魔法は複数人で使って、ようやっと発動される魔法だ。難易度も高いし、持っていかれる魔力も多い。
とてもひとりじゃ使えない。単体で使えるのなんて、上級悪魔か、魔王くらいでしょ。
「それだ!」
「それよ!」
そんな常識を無視して、父さんと母さんが賛成する。
本当、私が絡むといきなりポンコツになりのやめてほしい。別人って言われた方がまだ納得できるよ……。
「エイリーたんならできる! なんせ、天才だからな!」
「そうよ。さらに強くなって帰ってきたんだもの。問題ないわ!」
「娘の力を過信しすぎでは……?」
そんなことだから、ルシールがわがままでポンコツ娘に育つんだよ。教育方法に問題があるよ。
「「「そんなことないっ!!」」」
ハモるのやめてくれないかなぁ?
アホっぽさが増すよ? いいの? ……いいんだろうなぁ。
反論するのも疲れるので、
「……頑張ってみるね」
と適当に答えておく。
すると、盛大な歓声があがる。頑張るって言っただけでこの有様だ。
――――これ、できるようにならないと、まずいやつじゃない?
面倒ごとがまた増えた。
少しイライラしたので、肉にかぶりついた。肉汁が口の中で溢れて美味しかった。
ちなみに、この会話をしてるとき、シェミーは口を開くこともなく、真顔で料理を食べていた。内心、「この人たち大丈夫かな……?」とか思ってそう。




