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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第2節 それぞれの思惑が明らかになるようで……?
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52 ネルソン公爵家クオリティ

「ただいまっ! 親友を連れて来たよ!」


 と、私が扉を開いた瞬間。


「「「おかえりなさいっ!」」」


 と、父さんと母さんと兄さんが一気に抱きついてきた。


 あのさ、待ちきれないのはわかるけどさ、せめてひとりずつにして欲しかったな。私がつぶれそう。

 というか、出迎えてそうそう抱きつくってなんなの?! 貴族として大丈夫?!


「た、ただいま……。あの、三人いきなりは流石に苦しいから、離れてくれると嬉しい」


 本当に息がしづらい。これ、本気で生死に関わりそう。

 だってだって、絶対離れるもんかって圧を感じる。それだけですでに辛い。


 父さんたちはしぶしぶと私から離れていく。

 基本的に私の嫌がることはしないので、こういうところでは粘らない。


「エイリーたんに会えるのが嬉しすぎて」

「久しぶりだしね」

「前は何も言わずに帰ってしまったから」


 にっこりと笑みを浮べ、父さんたちが口々に言う。


「勝手に帰っちゃったのは悪かったけど、そんなに久しぶりかな」

「久しぶりに決まっているっ! 毎日でも会いたいくらいなんだぞ」


 私の言葉を食い気味に否定する父さん。うんうん、と母さんと兄さんも頷く。

 うわぁ、三人で一気にたたみかけてくるこの感じ、久しぶりだぁ……。

 これ、圧が強いんだよ。強すぎるんだよ。


「それでそれで! 親友を連れてきたんでしょう? 早く紹介して頂戴!」


 そして、私が反論をする前に、母さんがシェミーの方を見て言う。

 シェミーの顔、ちょっと青くなってる。完全に引いてるな。


「そうそう。父さんたちにも紹介したくって!」


 完全な嘘ってわけでもないけど、成り行きで紹介することになり、純粋な気持ちからじゃないのだが、とりあえずこう言っておく。


 父さんたちの表情が一気に真剣なものに変わる。

 私的には前置きみたいなものだったんだけど、父さんたちはそう受け取らなかったらしい。


「聞いたか……!」

「聞きました……!」

「エイリーちゃんが、エイリーちゃんがっ!」


 ああ、間違えたなぁ。

 と、思っても、すでに時は遅し。



「「「友達を紹介したいって思ってくれるなんてっ!!!」」」



 父さんたちは目に涙を浮べていた。勿論、嬉しさを表す涙だ。

 ああ、これは長くなるぞ。シェミーを紹介するまで、どれくらいかかるんだろうか……?


「エイリーは私たちのことを家族だと思ってないんだと思ってた」


 親戚みたいな感覚が強けどね。こんな変な人たちが家族だと思いたくないんだけどね。


「どこかよそよそしいし、自分がルシール・ネルソンじゃないことを気にしてるのかなって思っていたわ」


 自分がルシール・ネルソンじゃないことを気にしたことはないんだけどね。


「だから、早くなじめるように私たちも遠慮してたんだけどね」


 え、これで遠慮してたの? 嘘でしょ? 嘘って言って?!


 そして、瞳をキラキラと輝かせて、三人とも私のことを見てくる。

 じりじりと距離を詰めてくるので、身の危険を感じて私も後ずさる。


 簡単に、『紹介したくて!』なんて、言うんじゃなかったっ!



「「「でも、そんなの杞憂だったんだね」」」

「杞憂ですよ?!」


 そんな私の言葉は聞こえてないのか、それとも照れ隠しだと思ったのか……。

 三人はまた同時に抱きついてくるのだった。

 今度は何を言っても放してくれなかった。



 *



 三人が満足すると、やっと私は解放された。

 ぐったりとする私とは対照的に、父さんたちはとっても元気だ。私から生気を吸ったんだろうかと疑いたくなる。


 そして、「さあさあ、早く紹介して頂戴」という、圧を感じる瞳で私のことを見つめてくる。

 余計な回り道をしたのは、お前たちだろうがっ!

 というか、シェミーの情報、父さんたちならとっくのとうに集め終わってるんじゃないの……?


 そんな反論をする元気もなかったし、彼ら三人を相手に勝てる気もしなかったので、大人しくシェミーを紹介することにした。


「こちら、私の親友のシェミー。手料理がとっても美味しい。あとはまあ、結構ハードな人生を送って来た、すごい人」

「初めまして。シェミーと申します。よろしくお願いします」


 なんだその紹介は、と言いたげな目線をシェミーから感じたが、そんなの気にしたら負けだ。

 こちとら疲れてるんだよ。細かいことは気にしないでほしい。


「で、シェミー。左から順に、私の父さん、母さん、兄さん」

「見ればわかるよ」


 私の雑な紹介に、律儀にツッコミをいれてくれるシェミー。優しい。


「初めまして。私はネルソン公爵家の当主、コンスタント・ネルソンだ」

「エイリーの母、マーシー・ネルソンです」

「長男のルーク・ネルソンだ」


 流石は貴族。自己紹介にも気品を感じられる。

 いや、いつもこういった威厳を出していてほしいんだけどね。

 私の前では途端に営業中止になるのやめてよ。


「我が家だと思ってゆっくりしていってくれ。気楽に過ごしてくれって構わない」

「でも、私は貴族じゃないですし……」

「身分なんて関係あるものか! エイリーたんの友人であるのが最高の身分だろう。愛娘の友人を手厚くもてなして何が悪い」


 遠慮するシェミーに、父さんが一気にたたみかける。

 そうだそうだ、と母さんも兄さんも口々に言う。

 シェミーは目をぐるぐると回していて、どうしていいのかわからないらしい。


 そりゃそうだ。お貴族様にこんな風に言われて、なんて言えばいいかなんてわかるはずがない。

 父さんたちももっと、優しくしてあげてよ……。


「えっと、じゃあ、よろしくお願いします……」

「お願いされたぞ! ではさっそく食事と行こうじゃないか」


 シェミーがそう返事をすると、父さんは満面の笑みを浮べた。

 うわあ、滅茶苦茶嬉しそう……。


 そうして、私たちは食堂に向かうことになった。

 その道中、シェミーがひっそりとした声でこう言ってきた。


「エイリーの暴走は、紛れもなくネルソン公爵家のものだよ」


 解せぬ。



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