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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第2節 それぞれの思惑が明らかになるようで……?
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43 笑い飛ばせばなんとかなる

「さあて、次はシェミーの話だね!」

「すぐ泣き止みましたって雰囲気出してるけど、違うよね?」

「細かいことは気にしちゃ駄目なんだよっ!」


 私が泣いていた(と言うか泣いてないし!)ことを、なかったことにしようとするように言うと、シェミーが冷静につっこんできた。

 最近、シェミーのツッコミ力も上がってきたので、侮れない……。


「そっか。

 それで、私の話、結構シリアスなんだけど、エイリー、すぐに切り替えられる?」

「切り替えられるって何が?」

「シリアスに合わせた雰囲気というか、心持ちというか……」

「任せといてっ!」


 私はやればできる女なのだ!

 何も心配することはい。ど~んと構えておけばいいのだ。


「信用ならないなぁ」

「ちょっと酷くない?!」

「だって、エイリーだよ?」

「理由になってないよね??」


 そんな当たり前のように言われても、私は納得できないからね?

 すると、私の必死な顔が面白かったのか、シェミーは笑い出した。


「……今日のシェミーは良く笑うね?」

「エイリーと話してるの、楽しいから。いろんなことが馬鹿みたいに思えてきちゃうから、楽しいの」

「ありがと……」


 急に嬉しいことを言われてしまったので、照れる。ぽりぽりと誤魔化すように、頬をかいた。


「でもさ、逃げてちゃ駄目だよね」

「逃げる?」

「本当はね、もっと早く話すべきだったんだ。でも、私、話せなかった。怖かったし、混乱もしてた。話さなくていいなら、多分、一生話さなかった」

「シェミー……」

「でも、魔王が復活した。だから、話さないといけない。私を助けてくれたエイリーには、魔王を倒すエイリーには、話さないといけない」


 シェミーは深呼吸をすると、私の瞳を真っ直ぐ見つめた。


「だから、聞いてくれる?」


 その話を聞かない理由なんて、ない。



 *



「……私には、前世の記憶があるの」

「え?!」


 シェミーもまさかの転生者?! 同じ日本人かな?!


 ――――結論から言うと、そんな呑気なことを考えていた私は馬鹿でした。すみませんでした。


「前世の記憶っていうか、人格かな。なんて言えばいいのかわからないんだけど……」

「なんとなくわかったから大丈夫」


 私も前世の記憶持ちなんで、その曖昧な感覚は理解できる。

 私のようで、私じゃない。自分に近い他人。でも、自分。そんな、酷く曖昧な自分と他者の境界線。


「私が先祖返りを起こしているってことは知ってるよね?」

「うん。それも、ただの先祖返りじゃないって、言ってたよね?」

「そうなの。私は」


 シェミーは手を強く握りしめた。その手は震えている。



「私は、ゼーレ族の始まりの魔物、魔王に作られた人間。名をザリチュ」



 え、と無意識に声が漏れた。


「私には、人間と戦った記憶がある。人を殺した記憶も、人を愛してしまった記憶も」

「……愛した?」


 魔王が人間に対抗するために作ったんだから、人間を殺した記憶があるのはわかる。

 だけど、愛した記憶ってなんだ? 禁断の恋ってやつ?


「うん。ザリチュはひとりの人間を愛した。どうしようもなく、愛してしまった。彼が苦しむから、人を殺したくなかった。でも、ザリチュは魔王の操り人形。彼女は魔王の命令には逆らえず、人を殺し続けた」

「……そんな」

「そして、魔王は封印された。ザリチュは残された。ようやく魔王から解放されたけど、その手はすでに汚れすぎていた。死ぬ、覚悟はあった。

 でもね、そんな彼女を、彼は、人間は、許したの。生きることを許してくれた。それが、ゼーレ族の始まり」


 私が何も言えずにシェミーを見ていると、ふっと彼女は力を抜いて、自嘲するような表情を浮べた。


「ゼーレ族が私を殺そうとしたのは、当然の話なの。私はただのゼーレ族じゃない。諸悪の根源。不安要素でしかなかった。いつ、魔王に寝返るかわからないから。

 そんなことないのにね。私は、ザリチュは、人間を愛しているのに」


 シェミーはとても悲しそうだった。でも、どこか諦めているようだった。

 仕方がない、と思っているのだろう。そう思われても、仕方がないって。


「でも、仕方のないことなの。私はそうでも、妹は違ったから」

「妹? 妹なんているの?!」

「うん。私の後に作られた、もうひとり。名前は、アズダハー」

「アズダハー?」


 その、あずきバーみたいな名前、どこかで聞き覚えがあるような……?


「アズダハー――アズも、ゼーレ族のひとり。でも、アズには目的があった」


 それは、とシェミーは続ける。


「それは、いつか魔王の力になること。子孫を残して、魔王の戦力を増やすこと。アズは、魔王のためなら、なんでもする」

「そりゃまた厄介だね……」


 それにしても、アズダハー、どこかで聞いたことがあるんだよなぁ。どこだっけ。

 確か、王城だったような……。


「それで……」

「ああああ!」


 思い出した!


「ど、どうしたの、エイリー」

「アズダハーって、あれだ! そんな名前で、ノエルちゃんのこと、呼んでたよね?!」

「そうだけど……」

「だよね! あー、すっきりした!」


 心のもやもやがとれて、せいせいした!

 というところで、私は我に返る。


 ――――やっちまったああああああ、と。


 完全にシェミーの話の邪魔をしちゃったじゃないか!

 やばいやばいやばい。

 私、まともに話も聞けないやばい子だ!


「……あの、その、ごめん」


 シェミーは、肩を震わせている。

 だよね、怒ってるよね……。本当、申し訳ない。


「ふふふふふふふっ! エイリーらしいなぁ! ふふふ」

「シェミー?」


 さっきまでの、しんみりした雰囲気はどこに行ったんだろうか。

 とても楽しそうに笑っている。


 怒ってなくてよかったけど……。

 楽しそうで何よりだけど……。


 大丈夫かな? ちょっと心配になってきた。


「やっぱり、エイリーはすごいね」

「え……?」


 褒められることなんて、私しただろうか……?


「深く考えていたことが馬鹿らしくなってきたよ」

「それは、良かったです?」

「ありがとう」

「どういたしまして?」


 シェミーさん、今までにないくらいハイテンションなんですけど? 怖いんですけど?


 シェミーの笑いが収まるのを待って、私は話を進める。


「……話を戻すと、つまり、シェミーは、アズダハーを、ノエルちゃんを止めたいってこと?」

「……そういうこと。アズが何かをする前に、止めたい」


 シェミーは胸の前で手を組んで、懇願するように私を見る。


「お願い、エイリー。力を貸して」


 そんなの答えはひとつだ。


「任せといて!」

「ふふ、頼もしい」


 そして、私たちは笑い合った。


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