表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第2節 それぞれの思惑が明らかになるようで……?
188/232

39 何も変わらないから変わらない

 王城に呼び出され、国王様に怒られた次の日。

 私は親しくしてる人たちに会うことになっていた。


 理由は昨日ファースと、


「そういえば、エイリーがルシール・ネルソンってわかるようになったわけだけど、友人には説明に行ったのか?」

「ううん、行ってない。というか行く暇なんてなかったし。魔法解いたら、すぐマカリオスに直行だったじゃん」

「そういえばそうだったな」

「忘れないでよ」

「それはそうと、ちゃんと説明しに行った方がいいんじゃないか?」

「それはそうだねぇ……」


 と言う会話になったからである。

 ファースやグリー、レノが今までと変わらない態度で接してくれるから、すっかり忘れていた。



 ――――私は、悪名高き“ルシール・ネルソン”であることを。



 と言ってもまあ、姿だけれども。

 めんどくさいなぁ~なんて、思ってるのなんて、ファースにバレていないわけがない。念には念を、そしてさらにダメ押しを、と言わんばかりに、ファースに「行くように」と言われたので、私はこうして友人巡りを始めるのだった。



 * * *



 まず最初に向かったのは、メリッサ、チェルノの双子の姉弟のところだ。

 あのふたりには少しばかり貸しがあるので、拒否られはしないだろう。と言う理由もあるが、一番の理由は、家が近いからだ。それ以上の理由なんてあってたまるか。


 こんこん、とドアをノックして、「おはよう~」と呑気に挨拶をする。


「おはようございます、エイリー。今日は本当にお早いですね」

「でしょ。珍しく早起きをしちゃった」


 出迎えてくれたのは、姉のメリッサ。にっこりと可愛らしい笑顔を浮べているんだけど。


「……というか、今のって、褒めてたの?」

「え? どのことですか?」

「“今日は本当にお早いですね”ってやつ」

「半々、と言ったところでしょうか」


 半分も嫌味が混じってるのかよっ!

 純粋に褒めてくれたと思ったじゃん! そんな可愛い笑顔で、ナチュラルにそんなこと言うからさ!!


「ごめんなさい。お昼近くまで寝ていて、『安眠妨害だ~!』って魔王に喧嘩売っていたエイリーが衝撃的で……。そんなエイリーが、こんなに早く訪ねてくるとは思ってなかったです」

「そんなに?! 嫌味を言いたくなるほど、衝撃的だった?! 嘘?!」


 睡眠妨害してきたのは、魔王じゃん。どう考えたって、あいつが悪いじゃん?!

 三大欲求の睡眠を求めて、何が悪いのさ?!


「あれは僕も驚いたよ」


 弟のチェルノがメリッサの背中から、ひょこっと顔を出す。


「ええ、冗談だよね?!」

「冗談で済まそうとしてるエイリーがすごいと思います」

「冗談で済まそうとしてるエイリーがすごいと思う」


 姉弟仲良くハモって、私の衝撃を否定してくる。解せぬ。


「……さて、玄関で立ち話もあれだから、とりあえず中に入って」

「そうだね。お邪魔しま~す」


 メリッサが扉を開けてくれるので、遠慮なく私は入った。



 メリッサがお茶とお菓子を持って、私の前に座る。メリッサの隣にはチェルノが座っている。


「それで、今日は話があってきたんだけど」

「えーと、エイリーが実は隣国から逃亡してきた公爵令嬢ってことですか?」

「……あ、うん。そうなんだけど、え?」

「どうかしました?」


 きょとんとするメリッサとチェルノ。

 待って、きょとんとしたいのはこっちなんだけど。


 え? 知ってたの? 

 そのこと知ってたのに、いつもと同じ態度なの? 少しは気まずくなったり、疑いの目を向けたりするんじゃないの?!


「え、いや。知ってる割に、混乱してないなぁって」

「まあ、エイリーですからね」

「それで済む話?」

「少なくとも私たちはそれで済みます。だって、エイリーは命の恩人。それは変わりようのない事実なんですから」


 それに、と更にメリッサは続ける。


「私たちが何をしていたかわかっても、変わらず手を差し伸べてくれました。それと同じです」

「私はやりたいようにやっただけなんだけど」


 私はメリッサたちを助けたいから、助けた。言ってしまえば、ただのお節介だ。

 そこまで深く思われるほどのことはしていない。


「知っています。だから、私たちもやりたいようにやるだけです。ねえ、チェルノ」

「うん。姉さんの言うとおりだ」

「チェルノ、メリッサ……」


 メリッサたちの力強い言葉が嬉しくて、思わずうるっとしてしまう。

 涙腺弱くなってる気がするなぁ。歳かなぁ。


「では、私たちからもいくつか共有しておきたい情報があります」

「話進むの早くない?! もっと感動の余韻に浸っても良くない?」

「感動してくれたんですか?」


 メリッサが驚くように言う。

 なんだその言い方、私は感動なんかしないみたいな言い方じゃないか!

 私だって、感情をもった人間ですぅ。


「しないわけないじゃんっ!」

「だってエイリーはよく、そういう空気をぶち壊すじゃないですか」

「うぐ……」


 否定はできん。

 だって、そういうの苦手なんだもん! 仕方ないじゃん! 人生楽し方がいいって!


「雰囲気を壊してしまってすみません。あと、どのくらい時間が必要ですか? それともやり直しますか?」

「それ全く意味がないことをわかって言ってるよね?」

「はい。冗談に決まってますよ」


 このまま会話を進めていたら、メリッサが「てへっ☆」とか言い出しそうなので(絶対ないとは思うけど、人生何が起こるかわからないし)、私はメリッサに話をするように言う。


 メリッサたちは、冒険者を続けながら、私に必要な情報を集めてくれている。デジレにマカリオスなどルシール・ネルソンの情報を集めてもらっているのに対し、メリッサたちは国内の情報、特に魔王関係のことを頼んでいるのだ。


 一応、私だけに情報を流す情報屋、という立場なので、毎回情報量を払おうとするのだが、メリッサたちは頑なに受け取ろうとしない。

 曰く、「これは恩返しであるし、それを抜きにしても立派な家まで提供してくれたので、当分は受け取るつもりはありません」とのことだ。


 お金は余ってるから、遠慮しなくてもいいんだけどなぁ。

 でも、生活に困ってないということは、冒険者として上手くやれているということで、それはそれで嬉しい。


「まずは簡単な方から。“踊る戦乙女(ヴァルキリー)がルシール・ネルソンだった”と国中に広まったわけですが、これは特に大きな問題はありませんでした」

「嘘っ?!」

「色々理由はあると思いますが、一番は時期が良かったんだと思います」

「時期?」

「“魔王を万が一にも討伐できるのは、踊る戦乙女(ヴァルキリー)だけだ”。それは、皆の共通認識ですから」


 まあ、それは確かにそうかもしれない。

 魔王を倒せる人なんて、そうそういないよね。

 私が強いから助かったってわけか~。納得納得。


「でも、エイリーの性格を知ってる人は口を揃えて、『あんな奴が悪いことはしないだろ』って言ってました。それも大きかったと思います」

「あんな奴ってどんな奴?!」

「強くて、真っ直ぐで、さばさばした性格で、すぐ騙されて、家事が苦手で、戦うことしかできない人」

「答えなくてよろしい! というか、そんな風に言われてるの!?」


 最初の方はともかく、後半はショックなんだけど?! 辛辣すぎない?!


「間違ってないと思うけど」


 チェルノは何がおかしいの?という顔をしている。


「間違ってないけど、こう、なんていうの? 傷つくんだよ!!」

「今更?」

「今更って何?!」


 確かに今更な感じするけどさ! そういうことじゃないんだよ! 傷つくもんは傷つくんだよ!!


「メリッサ、この話は終わり! 次!」

「これは余韻に浸らなくていいんですか?」

「いいのっ! てか、この場合の余韻って何?!」

「ふふ、冗談ですよ」


 可愛い顔をして、メリッサは笑う。

 くそお……。笑って誤魔化せると思うなよ……! 可愛いからって許されると思うなよ……!


「それで、次の話なんですけど。王都に潜んでいる悪魔についてです」

「アエーシュマのことがわかったの?」


 メリッサたちに命令を出していた上級悪魔、アエーシュマは王都に潜んで活動をしていると前に聞いていた。

 ただ、人間として過ごしている時の名前をメリッサたちは知らなかったので、今まで調査をしていたのだ。


「はい。アエーシュマの名前は……」


 メリッサの口から出たのは、私がよく知る名前だった。


「嘘……」

「ムーシュが言うので、間違いないと思います」

「そうか……」


 かなり大きなショックを私は受けていた。

 頭の整理が上手くできていない。


「あと、もうひとつだけ。悪魔でも、魔物でもない、不思議な何かが、王都にふたつほど存在します」

「……悪魔でも、魔物でもない、何か?」


 まーた、複雑な何かが出てきたんですけど?!

 私、今日はキャパオーバーなんですけど?!

 頭パンクしそう……。もう帰りたい……。


「詳しくはわかってないんですけど、魔物に準ずる何かだと思います。十中八九、敵かと。だから、気をつけてください」

「わかった」


 その後も、メリッサから細々とした情報を聞いて、私はメリッサたちの家を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ