38 たいしたことじゃないじゃんっ!
「さあて、何から話そうか?」
「……雰囲気の切り替えが怖いんですけれども?」
鬼畜国王は、私たちをからかっていたふざけた雰囲気から、一瞬で威圧的な雰囲気になった。
これ、ただの報告会だよね? 何でこんなにピリピリした雰囲気出してるの?
私、何かまずいことしたっけ?
……う~ん、してないこともないけど、たいしたことじゃないよね?
やっぱり、パーティーでの挨拶がまずかったのかなぁ。でも、慣れてないんだから、仕方ないよねぇ。
「とりあえず、ご苦労だったな、エイリー」
「あ、ありがとうございます?」
「もっとお礼を言うなら、ちゃんと嬉しそうに言ったらどうだ」
「……善処します」
無理無理無理無理、絶対無理!
この状況で、にっこりするなんて絶対無理!
ねぎらうんだったら、ちゃんとねぎらってくれないかな?!
そんな威圧的な雰囲気放ちながら言われたら、こっちだってちゃんとお礼言えないだろうがっ!
「エイリーの働きについては、ファースから聞いているし、マカリオスからも連絡精霊が来たので、概ね把握している。想像以上の成果を上げてくれたようだ」
「……褒めてます?」
褒めてるように全然聞こえないんだけど?
「だが」
「無視ですか」
「ひとつだけ、苦情があった」
「苦情?」
はて、と首をかしげると、ファースが呆れたようにため息を漏らす。
「心当たりが全くありませんって顔しないでくれ」
「全くないわけじゃないけど、そんなにたいしたことしてないよ?」
「……俺はその苦情を聞いたとき、頭を抑えたけどな」
「え、じゃあ、ファースが帰った後の話なの?」
ファースが知らないってことは、ファースがいないときの話だよね?
となると、タローマティ関連?
リュリュの体を取り返せなかったのが、いけなかったのかな。それとも、魔王と勝手にドンパチやっちゃったこと?
あ、逃がさないで、倒しちゃった方が良かったのかな?! さっさと倒しちゃった方がいいもんね!
「うん、わかったよ!」
「……今までわからなかったことが問題だけど、うん。まずは確認しよう。エイリーは何がいけなかったと思ったんだ?」
こうして確認してくるあたり、ファースはまるで私を信用していない。
そんなに信用ないかな、私?!
いいだろう! 私の華麗なる名推理で、ファースの信用を勝ち取ってみせようじゃないか!!
「魔王を倒さなくて、ごめんなさいっ!」
「「……は?」」
私がばっと頭を下げると、国王様とファースが同時に声を漏らした。何言ってるんだこいつって感じだった。
…………あれ? 思ってたような反応と違うんですけど?
間違ってた? いやいや、そんなわけないだろう。だって、他にたいしたことやらかしてないし。
「……あ、うん。エイリーの考えはよくわかった。確認して正解だった」
「そんなに信用ないかな?!」
「うん。そういうぶっ飛んだ発想をするところが」
「そんなにぶっ飛んでないけど?!」
「……魔王を“倒せなかった”ならともかく、魔王を“倒さなかった”ことで謝るのは、この世界でエイリーくらいだと思うぞ」
「そんなことないと思うけどなぁ」
だって、世界は広いじゃん。こんな考えを持った人が他にいても可笑しくないでしょ!
「そんなことあるぞ。
……まあ、ともかく、それは違う。マカリオスの国王陛下は、魔王を撃退してくれたことには、感謝を述べていたしな」
「そうなんだ。じゃあ、何?」
となると、タローマティ関連も違うよなぁ。
全く心当たりがなくなったぞ。私、悪いことしてなくない?
「エイリー、お主、帰ってくるときどうやって帰ってきた?」
「え? 魔王を追い払ったので、そのまま召喚獣に乗って帰ってきましたけど?」
それが何か問題でも?
「……問題だらけだろうが」
「ひえっ」
鬼畜国王が氷点下を感じさせる声を出す。背中に悪寒が走った。怖い。
「わ、私はやることをやって、帰って来ただけですよ?!」
だけど、そんなのに負ける私じゃない。
反論してやる! 口喧嘩弱いけど、度胸はあるのだ!!
「国王やお主の家族に挨拶もなしにか?」
「ブライアンに『後はよろしく』っては伝えてきましたっ!」
「それで済むと思ったのか?」
「はいっ!」
というか、それで済ませたかったんだよ!
マカリオスの国王に会うのは、なんか気まずかったし(最初の謁見でやらかした感があったから)、ネルソン公爵家は帰ったら面倒くさいことは目に見えてたし!
というか、そもそも貴族のしきたり自体がめんどくさい!
いいじゃん、私、ただの冒険者なんだし! 好きなときに帰っていいじゃん!
「……済むわけないだろうが」
冷静に入る、ファースのツッコミ。
「マカリオスの国王は幸い、お主に対して怒りは感じていないようだ」
国王様は諦めたのか、声から棘が抜けていた。
なんか知らんが、私、勝った?! 国王様を折らせた?! やっほ~い。
「じゃあ、なんで苦情が?」
「ネルソン公爵家が一騒動起こしたそうだ。なんとか収めたようだが、かなり苦労させられたようだ。それに対する苦情が入っている」
「……なんかごめんなさい」
私が悪いわけじゃないのに、ちょっと申し訳なくなった。
ネルソン公爵家の異常さは、身を持って感じているからね。うん。抱きしめ地獄は、ちょっとうん。思い出したくないね。
「悪いとは思ってるんだな?」
「多少は」
「多少は?」
ぎろりと国王様の目が光る。
ひいいい、そんな目で睨まないでよ! 殺されそう!
だって、私だけが悪いわけじゃないじゃん! 問題起こしてるの、父さんたちじゃん!
…………まあ、鬼畜国王の前で、そんなこと言えないけど。
「申し訳ないと思ってます! 国王陛下にそうお伝えください!!」
「最初からそう言え」
「はいっ!」
ファースが呆れたように、「俺がずっとついてないと駄目なのかな……」なんて零してたのは、聞かなかったことにしようと思う。




