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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第1節 踊る戦乙女の里帰り
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閑話 ミリッツェアの独白

「……本当に帰っちゃったわ」


 空を見上げながら、私、ミリッツェアは呟く。

 召喚獣に乗って、飛び去ってしまったエイリーの姿はもう見えない。


「逃げるが勝ち、とか思ってそうだな」

「同意しますわ」


 隣で呆れるように、ブライアン様がため息を吐いた。

 このエイリーの一件で、なんだかんだ一番振り回されてたのは、ブライアン様だったような気がする。

 ブライアン様は、次期国王であるし、今回踊る戦乙女(ヴァルキリー)との橋渡しの役割を担っていた隣国・アイオーンの王子、セーファース様やその妹君、グリゼル様と歳が近いこともあって、色々なことを任されてた。


 まさか、その踊る戦乙女(ヴァルキリー)が元婚約者で、行方不明になっていた、ルシール・ネルソンであり、しかも性格ががらりと変わっていたことなんて、誰が想像するだろうか。

 エイリーは、ルシール・ネルソンとはまた違う、癖のある性格で、これまた苦労していたみたいだ。貴族社会にはなかなかいないタイプの人間だし、上手い付き合い方がわからない、というのが大きいだろう。


 ――――まあ、それ以前に相性の問題もあるんだろうけども。


「なんか、変な奴だったな」

「本当です。予想外なことが多すぎました……」


 と言うか、色々エイリーは規格外すぎた。私たちの知っている常識が通じなかった。


「仕方ない。あれはああいう生き物だ。そう思うしかない。あのネルソン公爵家の娘なんだから、可笑しくはないだろう」


 なんてことを真顔で言うものだから、私は苦笑いを浮べるしかなかった。

 本心は完全に同意してるのだが、なんせ公爵様のことを言っているのだ。下手に何かを言って、侮辱罪に問われてしまう、なんてこともあるかもしれない。

 気にしすぎだ、とブライアン様には言われそうだけど、貴族社会の、しかも女の世界は用心することに越したことはない。


 私は次期国王の婚約者ではあるが、まだ正式に結婚をしたわけではないので、身分的には高くも低くもない、伯爵家の令嬢だ。強力な後ろ盾も、実績もまだない。何か失態を犯してしまえば、あっという間に転落してしまう。

 だって、あの公爵家の令嬢である、ルシール・ネルソンが追い込まれたのだ。私を追い込むことくらい容易だろう。


 だから、私は毅然と振る舞うことにした。隙を見せないように。身分は低いけれど、ブライアン様にふさわしい女に見えるように。

 せめて、実績を手に入れるまでは。魔王を倒すまでは。

 自分を強く見せようと必死だった。


 だけど、私はその力さえも失いかけた。もう駄目だと思った。

 私には次期国王の婚約者の資格なんてなかったのだ。

 無理矢理自分を作って、慣れないことをして、それでも死ぬ気で頑張ってきたのだ。

 愛しい人の隣にいるために。愛を本物にするために。


 でも、私では力不足だった。愛する人は特別だった。

 潔く諦めようとした。ブライアン様にふさわしい人なんて、私の他にもいる。



 そんな私を、助けてくれたのは。

 私の重圧を「くだらないこと」として、笑ってくれたのは。


 ――――かつて、私をいじめた、ルシール・ネルソンの姿をした、ひとりの少女だった。



 皮肉だなと思った。

 かつて、私たちの愛の前に立ち塞がった敵に、助けられたのだ。

 だから、エイリーの突拍子もない話を受け入れることができた。

 だって、惨めじゃないか。私たちが追いやった本人に助けられるだなんて。別人と思った方が、まだ救いようがある。

 そう思った自分が汚くて、嫌だった。


 私は、ルシール・ネルソンに、一言だけでも恨み言を言ってやりたかった。

 私という人間を否定するような行為を、己の嫉妬のために繰り返していたあの少女に、何か言ってやりたかった。


 婚約を破棄され、その後、罰が言い渡されるはずだった。長い監獄生活を送るはずだった。

 恨み言を言う時間なんて、たくさんあると思ったし、なによりブライアン様に醜い私を見せたくなかった。

 だから、婚約破棄を言い渡した場では、醜い言葉を出さなかった。

 それなのに、彼女は逃げ出した。国の力と、ネルソン公爵家の力で探したのに、見つからなかった。


 そして、予想外の再会。別人になっていた彼女。


 ――――ああ、これじゃあ何も言えないじゃないか。


 後悔した。外面なんか気にしていないで、言いたいことを言っておけば良かった。

 でも何故か、ルシール・ネルソンへの恨みは消えていく気がした。

 きっと、ルシール・ネルソンがエイリーとして、上書きされたんだと思う。


 私の、かなり変わった、強くて、真っ直ぐで、愉快な、ひとりの友人として。


「……ミリッツェア?」


 そんなことを考えていると、ブライアン様が私の顔をのぞき込むようにして声をかけてきた。


「ブライアン様?!」


 距離の近さに思わず驚いてしまう。


「その驚きよう、また何か考えていただろう」

「その通りです……」

「ミリッツェアは考えすぎだ。エイリーほど気楽に生きろと言わないが、もっと肩の力を抜け」


 足して2で割れば丁度いいんだけどなぁ、なんてもらすブライアン様を見て、くすくすと笑ってしまう。


「私もそう思いますわ。エイリーを見て、もっと楽に生きても良いと思いました。それに、私に何かあれば、文句を言いながらも、エイリーは助けに来てくれます。心強い味方を手に入れられました」

「……それだと、俺が頼りないように聞こえるんだが?」

「そんなことはないですよ!」


 むすっとブライアン様がしたので、慌てて否定をする。

 確かに今の言い方だと、ブライアン様を頼りにはしてないと聞こえてしまっても、無理はないだろう。


 すると、私の慌てた様子を見て、ブライアン様は笑い出す。


「そんなに慌てなくても、わかってる。ミリッツェアが頑張るのは、大体俺のためだからな。違うか?」

「違いません……」


 直球で恥ずかしいことを聞いてくるので、頬が熱くなる。

 ブライアン様にしてやられてばっかりだわ……。


 満足げに頷いたブライアン様は私の手をとる。それが嬉しくて、私も手を握り返す。


「実習もそろそろ終わってしまうだろうが、少しでも多くの魔物を倒しておこうか」

「そうですね。もう少しブライアン様とゆっくりしていたいっていうのが、本音なんですけれども」

「……なら、ゆっくり歩いて行くか」

「そうしましょう」


 そうして、私たちは森へ向けてゆっくりと歩きだした。



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